AMG初のGT4ドアクーペであるGT63S 4マティックは最高出力639㎰を誇る。


その異次元の走りは、もはやスーパースポーツと遜色のない領域である。


一方、迎え撃つのは4ドアクーペに先鞭をつけたポルシェ・パナメーラ。


中でもシステム出力680㎰を誇るターボSEハイブリッドを連れ出してみた。




REPORT◉渡辺敏史(WATANABE Toshifumi)


PHOTO◉田村 弥(TAMURA Wataru)




※本記事は『GENROQ』2019年12月号の記事を再編集・再構成したものです。

 ゼネラルなAMGのエンジニアにとっては悲願でもあっただろう、彼らの純然たる設計生産となるフラッグシップスポーツ、メルセデスAMG GTシリーズはデビュー以来、FIA-GT3カテゴリーを中心としたサーキットでの活躍をもって、スーパースポーツカテゴリーの一翼を担うほどに成長した。




 そのイメージをさらに拡張させながら、ダイムラー側のビジネスにも結びつける企画として登場したのがAMG GTの新たなバリエーションとなる4ドアだ。傍目にはそういう風にもみえるモデルだが、実際に試乗してみると、どうも単純にそうとはいえないことに気付かされる。




 果たしてそれは、有り体なスポーツサルーンとは一線を画する実力の持ち主なのか。Lセグメントに多彩な価値観を持ち込んだパナメーラのトップグレードと共に向かったのは都心近郊のワインディングだ。




 パナメーラ ターボSEハイブリッドは4ℓV8ツインターボに100kWの電気モーターを組み合わせ、クラッチを介して8速PDKでドライブする。システム最高出力は680㎰、トルクは850Nmを発揮。0→100㎞/h加速は3.4秒、0→200㎞/h加速は12秒を切るという。その動力性能はパナメーラの中でも圧倒的トップだ。




 標準装着サイズとなる21インチのパイロットスポーツ4はさすがにタイヤの縦バネ感が現れてか、これまた標準のPCCBを装着していながらその乗り心地はタウンスピードにおいてやや粗目だ。が、速度が中〜高速域へと増すにつれてフラット感はぐんぐんと高まっていく。




 高速域では2310㎏に達する車重がむしろ積極的に快適性の側に現れる。ポルシェのブランドイメージからすれば望外にゆったりした乗り心地に驚かされた。また、日本の高速道路の速度域でも積極的にエンジンの稼働を落としてコースティングやEVドライブに徹することもあり、車中はアクセルのオンオフを繰り返さない限り努めて静か。シートバックが大きく前席下部への爪先の足入れにもきちんと考慮された後席は乗員の収まりもよく、なんとあらばショーファドリブンとしてもしっかり務めを果たしてくれそうだ。

 AMG GT63Sはトップパフォーマーたる63Sということもあり、パナメーラ同様に低速域での乗り心地には時折ドライさが窺える。が、勇ましい外観や639㎰の動力性能を思えばそれはむしろ当たり前、20インチのパイロットスポーツ4Sはロードノイズも控えめで、スポーツセダンと考えればその快適性は十分許容範囲といえる振る舞いをみせてくれた。ただし後席の居住性やトランクの容量はパナメーラの側にやや見劣りする感は否めない。




 むしろGT63Sの美点は、この日常的な速度域でもパワートレインがリニアに応答し、思い通りの速度管理が簡単にできることだろう。右足の微妙な塩梅を察して加減速のゲインも優しく引き出すことが出来るし、ブレーキの調律も強力な制動力を無用に意識させず踏力や踏量でのコントロールも自在だ。この点、パナメーラはPHVということもありパワートレインのシームレス性においてはやや癖が残っていたし、10ピストンキャリパーのPCCBもさすがにダイナミックレンジが広いこともあってか、温度を問わず効き始めの微細なのGの管理にやや気を遣うところがある。




 もっとも、ワインディングを気持ちよく走り始めればその圧倒的な容量に全幅の信頼を置いてコーナーに入っていけるから、そこは一長一短ということだろう。パナメーラの走りは操作に対する応答の正確性に加えて、モータードライブが加わった際の怒涛の加速力など、ハイブリッドならではの魅力もしっかり感じられる。さすがに車重自体をまったく感じないというわけにはいかないが、重量配分は限りなく50対50に近くその姿勢変化に大きなマスの変化からくる怖さはない。試乗車はオプションの後輪操舵システムも装着されていたがアプローチから旋回にかけての効果は絶大で、とにかくグイグイと車体をインに向けていく。




 対すればパナメーラより約200㎏近く軽いGT63Sは、さすがに振る舞いに軽さが感じられるし、姿勢づくりにも不自然さは皆無だ。ブレーキで荷重を綺麗に配分することもアクセルで後輪側に駆動を掛けていくことも……と、操作の自在性、素直さが際立っている。もちろん630㎰越えのパワーはやすやすと車輪を空転させるが、その際の前輪側の駆動やボディコントロールデバイスの作動にも興ざめさせるような違和感はない。AMG銘柄に共通するところとして、ドライブモードがレースであれシフトフィールにもやっとした感触は残るのが惜しいが、操舵ゲインの立ち上がりの丸さをみてもこれが彼ら流のクルマの躾け方なのだろう。いかなる乗り方であれ、その挙動はドライバーに対する優しさを基に構成されるというそれは、4ドアスポーツセダンというコンセプトに見合ってもいる。




 平日は街中で限りなくBEV的な使い方をしながら、休日は山向こうのリゾートまでダイナミックなドライブを楽しむ。日々のオンオフを今日的な配慮をもって使い分けることがパナメーラのあるべき姿だとすれば、GT63Sは週末のサーキットドライブをも念頭に置ける、運転好きに捧げるマルチパーパスなスポーツサルーンという位置づけを狙ったことになるだろう。同様の世界観を持つようにみえて、結果的にその価値軸は微妙に異なっている。

Panamera Turbo S E-Hybrid

インパネ中央に鎮座する12.3インチタッチスクリーンは視認性、操作性ともに良好だ。体をしっかりと支えるセミバケットシートは質感も高い。

136㎰を発生する電気モーターと550㎰を絞り出す4ℓV8ツインターボを組み合わせる。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ4を装着する。

ポルシェ・パナメーラ ターボS E-ハイブリッド


■ボディスペック


全長(㎜):5049


全幅(㎜):1937


全高(㎜):1427


ホイールベース(㎜):2950


車両重量(kg):2310


■パワートレーン


ハイブリッド方式:フルハイブリッドシステム


システム合計出力:500kW(680㎰)/5750~6000rpm


システム合計トルク:850Nm(85.7㎏m)/1400~5500rpm


エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ


総排気量(cc):3996


最高出力:404kW(550㎰)/5750~6000rpm


最大トルク:770Nm(78.5㎏m)/1960~4500rpm


電気モーター出力:100kW(136㎰)/2800rpm


電気モータートルク:400Nm(40.8㎏m)/100~2300rpm


■トランスミッション


タイプ:8速DCT


■シャシー


駆動方式:AWD


サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン


サスペンション リヤ:マルチリンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:275/35ZR21


リヤ:325/30ZR21


■環境性能


燃料消費率:2.9ℓ/100㎞(EU複合モード)


■車両本体価格(万円):2961.8519

GT 63S 4MATIC+

V8エンジンをモチーフとしたスポーティなセンターコンソールが一際目を引く。ダイヤモンドステッチ入りの上質なレザーシートはホールド性も高い。

639㎰/900Nmを発生する4ℓV8ツインターボエンジンを搭載。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ4Sを装着する。

メルセデスAMG GT 63 S 4マティック+


■ボディスペック


全長(㎜):5050


全幅(㎜):1955


全高(㎜):1445


ホイールベース(㎜):2950


車両重量(kg):2150


■パワートレーン


ハイブリッド方式:―


システム合計出力:―


システム合計トルク:―


エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ


総排気量(cc):3982


最高出力:470kW(639㎰)/5500~6500rpm


最大トルク:900Nm(91.8㎏m)/2750~4500rpm


電気モーター出力:―


電気モータートルク:―


■トランスミッション


タイプ:9速AT


■シャシー


駆動方式:AWD


サスペンション フロント:4リンク


サスペンション リヤ:マルチリンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:265/40R20


リヤ:295/35R20


■環境性能


燃料消費率:7.7㎞/ℓ(WLTCモード)


■車両本体価格(万円):2397
情報提供元: MotorFan
記事名:「 オーバー600psの超弩級サルーンの頂上決戦!【Porsche Panamera Turbo S E-Hybrid × Mercedes-AMG GT 63 S 4MATIC+比較試乗】