REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
ガソリンとディーゼルのイイトコ取りの革命的なエンジンとして、ついにスカイアクティブ-Xがマツダ3に搭載されて姿を現した。
まずはどこが革命的なのか、あらためて簡単に整理しておこう。
スカイアクティブ-Xとは、SPCCI(火花点火制御圧縮着火)を世界で初めて実用化したエンジンだ。
そして通常のガソリンエンジンよりも燃料の薄い混合気を圧縮させ、スパークプラグによって膨張火球炎を作り、シリンダー内の混合気をさらに圧縮させ、混合気が同時多発的に急激に燃焼する。
スパークプラグを用いるのはガソリンエンジン的だが、同時多発的に素速く燃焼する点はディーゼルエンジン的だ。
圧縮比は欧州仕様で16.3、日本仕様で15.0といずれもガソリンエンジンとしては異例に高く、これもガソリンとディーゼルの中間的と言える。
ご存知の通り、ガソリンエンジンは伸びやかな加速や排気ガスの浄化性に優れる。一方のディーゼルエンジンは低回転のトルクや燃費に優位性がある。
スカイアクティブ-Xは、そんな両者の長所を両立させたエンジンというわけである。
とりわけ、期待されているのはその高い環境性能だ。内燃機関の存続の希望の星と言ってもいい。マツダ自身のアナウンスを見ても、各メディアの報道を見ても、それは明らかだし、日本初試乗の機会を利用して我々が行った燃費テストでも、その片鱗は十分に感じさせてくれた。
しかし……である。実際にステアリングを握ってみると、環境性能よりもドライビングプレジャーのほうが際立つ。
発進時に巨人の手で背中を押されるような感覚はいかにもディーゼルに似た感覚だが、そこから高回転まで伸びやかに吹け上がるのは自然吸気ガソリンのような素直さで、ズォーンという快音を伴う。
実際にはディーゼルに似たカリカリという音が発生しているらしいが、燃費向上を主たる目的としてエンジンをカバーによってカプセル状に覆っており(コールドスタート時はエンジンを暖めるために燃料を多く使うため、カプセル化することで保温性を高め、再始動時などの燃費向上を図っている)、これが吸音にも効いているという。聞かせたい音だけをドライバー&パッセンジャーに届かせ、不快な音を抑えているのだ。
さらに驚かされたのが、マニュアルトランスミッションの高い完成度である。
まず、ABCペダルの配置が完璧だ。オフセットの類は一切なく、ヒール&トーが難なく決まる。左側のフットレストも十分な大きさがあり、クラッチペダルに足を置き換える際にペダルの裏側につま先が引っかかることもない。NFLやNBAの選手のように靴のサイズが30cm以上もあるような大男でもない限り、ペダル配置に不満を覚えることはまずないだろう。オルガン式アクセルペダルを採用していることもあって、微妙な操作がしやすいのも美点だ。
肝心のシフトフィールも滑らかかつ節度感があり、ゲートに吸い込まれるように入っていく。とりわけ、3速から2速へ、5速から4速へのダウンシフト時のようにシフトレバーを斜めに操作する際の引っかかりのなさが印象的だ。
だが、ここまではガソリンやディーゼルのマツダ3と同じ。話はこれからだ。
では、マツダ3スカイアクティブ-Xの6速MTモデルにはどんな秘密が隠されているというのか? なんとこのクルマは、シフトアップ時にエンジンの回転合わせをやってくれているのだ。
「シフトダウン時の間違いでしょ?」
多くの方がそう思われたことだろう。
確かに日産フェアレディZやホンダ・シビック タイプRには、シフトダウン時にブリッピングを入れてくれるレブコントロールシステムが採用されている。二輪のスーパースポーツ系モデルに搭載されているクイックシフターと呼ばれるシステムも、シフトダウン時にブリッピングを入れて回転を合わせてくれる。
だが、スカイアクティブ-Xはシフトアップの時なのだ。
シフトダウン時ほどは気にならないかも知れないが、実はシフトアップの際にもエンジン回転をうまく合わせる必要がある。
例えば、1速で30km/h走行時に3000rpm、2速で同じく30km/h走行時に2000rpmというギヤ比だったとする。
すると、30km/hで1速から2速にシフトアップする際、クラッチを切って2速に入れ、2000rpmに落ちるのを待てばスムーズにクラッチがつながる。
ところが急いで2500rpmあたりでつないでしまうと、ドンッと後ろから押されるようなショックが発生するし、遅れて1500rpmぐらいまで落ちてしまうと、シフトアップしたはずなのにエンジンブレーキがかかって前につんのめってしまう。
だから我々は無意識のうちに、うまく回転が落ちたところを狙ってクラッチをつないでいるのだが、回転の落ちる速度は当然ながらエンジンによって異なるし、変速時の回転数によっても違ってくる。2000rpmよりも6000rpmのほうがエンジン回転の落ちる速度が速いのは当然だ。
そこでスカイアクティブ-X搭載車はどうしているのかというと、クラッチを切るとマイルドハイブリッドの回生を強めて瞬時に適切な回転数まで落として素速いシフトチェンジに対応してくれるのである!
逆にシフトチェンジ操作が遅すぎる場合は、適切な回転数を維持して待ってくれるのだから驚かされる。
これによりシフトアップ時のギクシャクした動きは皆無となり、エラく運転がうまくなったような気になるのだ。
試しにクラッチを切ってシフトアップしつつも、わざとクラッチをつながずに放っておくと、速度に見合ったエンジン回転数を維持してくれているのが明らかにわかった。
維持してくれる時間は1秒くらいだろうか。つまり、多少モタモタしていても回転が落ちきらず、ショックなくシフトチェンジができるのだ。
面白いのは、シフトダウン時の回転合わせは一切やってくれないことだ。シフトアップでこれだけ緻密なアシストを行ってくれるのだからシフトダウンでも技術的には可能なはずだと開発陣に問えば、「だって、わざわざマニュアルに乗る人は自分でアクセルを煽りたいでしょ? ヒール&トーをやりたいでしょ?」と痛快な答えが返ってきた。
この発想は、間違いなく普段からMTに乗っている人のものだ。そして普段からMTに乗っている上司でなければ、ゴーサインを出さないだろう。
これがロードスターという嗜好品ではなく、マツダ3という基幹モデルの話であるということも忘れてはならない。
さらに補足しておくと、発進時に少しだけエンジン回転を上げるアシスト機能もついている。ビギナーにとってはエンストを防いでくれるから心強いし、慣れた人なら左足によるクラッチ操作だけで簡単に発進できるから渋滞中のノロノロ走行時などにとっても楽ちんだ。
MTにこれだけの手間暇をかけるマツダの心意気に、我々クルマ好きが応えなくてどうするのか?
アナタが、そしてクルマを共用するご家族がAT限定免許でなければ、もはやマツダ3のスカイアクティブ-XでMTを選ばない理由などない、と記者は言いたい。
MAZDA3 FASTBACK X L Package(AWD)
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4460×1795×1440mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1490kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.3m
燃料タンク容量:48L(無鉛プレミアム)
■エンジン
型式:HF-VPH
形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1997cc
ボア×ストローク:83.5×91.2mm
圧縮比:15.0
最高出力:132kW(180ps)/6000rpm
最大トルク:224Nm/3000rpm
燃料供給方式:筒内直接噴射
使用燃料:無鉛プレミアム(RON 100)
■モーター
型式:MK
形式:交流同期電動機
最高出力:4.8kW(6.5ps)/1000rpm
最大トルク:61Nm/100rpm
■駆動系
トランスミッション:6速MT
駆動方式:フロントエンジン+オールホイールドライブ
■シャシー系
サスペンション形式:ⒻマクファーソンストラットⓇトーションビーム
ブレーキ:ⒻベンチレーテッドディスクⓇディスク
タイヤサイズ:215/45R18
ホイールサイズ:7.0J×18
■燃費
WLTCモード:16.8km/L
市街地モード:13.6km/L
郊外モード:16.9km/L
高速道路モード:18.6km/L
■価格
361万6963円