記者会見の壇上に立った同社先端技術フェローの会田昭二郎氏は、サシムについて「もちろんタイヤに使っていきたいが、タイヤだけではもったいないという想いが非常に強い。今後このサシムという素材を使って社会全体を支えていきたいが、その方法は我々だけでは考えられない。皆さんと一緒に作っていきたい」と呼びかけているが、果たしてタイヤ以外にどのような用途が考えられるだろうか?
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢/ブリヂストン/トヨタ自動車
会田氏が説明した、サシムの主な特徴を簡潔に列挙すると、下記の通りになる。
【サシムの主な特徴】
・ブタジエンやイソプレンなどの合成ゴム成分と、エチレンなどの樹脂成分を、同社独自の改良型Gd(ガドリニウム)重合触媒を用いることで、分子レベルで結びつけたポリマー(重合体)
・合成ゴムより耐破壊特性が高い天然ゴムと比較しても、耐亀裂性は5倍以上、耐摩耗性は2.5倍以上、引張強度は1.5倍以上
・釘などで刺しても穴が開きにくい
・穴が開いても熱を加えると修復・再生でき、元の強さを取り戻せる
・液体窒素で凍らせるような低温下で叩いても割れない
・無色透明で、機能を損なわず着色することも可能
・ゴムと樹脂の配合比率を変更することで形態や物性、性能を自在に制御可能
端的に言えば、ゴムのしなやかさと樹脂の強さを両立した、透明かつリサイクル可能なポリマーということになる。
その特徴を最大限活用したコンセプトタイヤは、従来のタイヤに相当する赤い部分に柔らかいサシム、ホイールに相当する白い部分に硬いサシムを用いるとともに、3Dプリンターによって両者をシームレスにつなげて組成。また、サシムのしなやかで美しく機能的な性質を表現すべく、そのデザインには日本伝統の竹細工がモチーフとして採り入れられている。
さて、そんなサシムをタイヤ(およびホイール)以外に使うとすれば、どんな用途があるだろうか?
前述の歩行者保護性能と裏返しになるが、インパネやトリム類などの内装材に用いれば、衝突時の乗員保護性能を高めることもできるだろう。あるいは形態や物性、性能を自在に制御可能な特徴を活かせば、フィット感とホールド性、クッション性を高い次元で兼ね備えた、一体成形のシートも作れるのではないだろうか。
以上はあくまでも筆者の推測であり、性能面のみ考慮しても実現可能かどうかは、現時点の情報だけでは未知数だ。そしてこれら以外にも、クルマ以外にも範囲を広げれば、適した用途は星の数ほどあることだろう。
2020年代が目標という商品化の際、サシムは実際にどのような姿で我々の前に現れるのだろうか? 興味は尽きない。