ブリヂストンが2018年5月に「ハイストレングスラバー(HSR)」として技術概要を発表し、19年10月16日にその進化版として名称も新たにした、ゴムと樹脂を分子レベルで結びつけた世界初のポリマー「SUSYM(サシム)」。その特徴を最大限活用したコンセプトタイヤが24日、第46回東京モーターショー2019の会場で披露された。




記者会見の壇上に立った同社先端技術フェローの会田昭二郎氏は、サシムについて「もちろんタイヤに使っていきたいが、タイヤだけではもったいないという想いが非常に強い。今後このサシムという素材を使って社会全体を支えていきたいが、その方法は我々だけでは考えられない。皆さんと一緒に作っていきたい」と呼びかけているが、果たしてタイヤ以外にどのような用途が考えられるだろうか?




REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)


PHOTO●遠藤正賢/ブリヂストン/トヨタ自動車

サシムの実物を用いて特徴を説明するブリヂストン先端技術フェローの会田昭二郎氏

 会田氏が説明した、サシムの主な特徴を簡潔に列挙すると、下記の通りになる。

HSRに用いる材料および分子結合のイメージ

【サシムの主な特徴】




・ブタジエンやイソプレンなどの合成ゴム成分と、エチレンなどの樹脂成分を、同社独自の改良型Gd(ガドリニウム)重合触媒を用いることで、分子レベルで結びつけたポリマー(重合体)




・合成ゴムより耐破壊特性が高い天然ゴムと比較しても、耐亀裂性は5倍以上、耐摩耗性は2.5倍以上、引張強度は1.5倍以上




・釘などで刺しても穴が開きにくい




・穴が開いても熱を加えると修復・再生でき、元の強さを取り戻せる




・液体窒素で凍らせるような低温下で叩いても割れない




・無色透明で、機能を損なわず着色することも可能




・ゴムと樹脂の配合比率を変更することで形態や物性、性能を自在に制御可能
サシムを材料着色したシートのサンプル。透明度を保つことも、右から2枚目の通り1枚のシートの中で色を自在に変えることも可能
サシムコンセプトタイヤの部分カットモデル。赤い部分はわずかな力で簡単に曲がるが、白い部分は目一杯力を込めても曲がらない


 端的に言えば、ゴムのしなやかさと樹脂の強さを両立した、透明かつリサイクル可能なポリマーということになる。

サシムコンセプトタイヤの特徴を解説した動画の1シーン。階段の角に当たった赤い部分がしなやかに変形しつつ、白い部分は元の形状を保っている

 その特徴を最大限活用したコンセプトタイヤは、従来のタイヤに相当する赤い部分に柔らかいサシム、ホイールに相当する白い部分に硬いサシムを用いるとともに、3Dプリンターによって両者をシームレスにつなげて組成。また、サシムのしなやかで美しく機能的な性質を表現すべく、そのデザインには日本伝統の竹細工がモチーフとして採り入れられている。




 さて、そんなサシムをタイヤ(およびホイール)以外に使うとすれば、どんな用途があるだろうか?

レクサスLCのスケルトンボディイメージ。このような仮想上のシースルーボディを、サシムなら現実のものにできる!?

 一つはボディの外板だろう。日産の「スクラッチシールド」やトヨタの「セルフリストアリングコート」などの、小さな磨き傷程度ならば自動的に復元する性質を持つ自己修復型耐スリ傷性クリヤーが存在するが、サシムの自己修復力はこれらを遥かに上回る。つまり、現在のクルマなら大きな凹みやスリ傷が残るような接触でも、自己修復するどころか最初から凹みやスリ傷が発生しない可能性さえあるのだ。




 一方で外板には、美観や衝突時の衝撃吸収力なども求められるが、コンセプトタイヤなどを見る限り、こうした要件は充分クリアできるように感じられる。特に柔軟性と割れにくさは鋼板や樹脂の比ではなく、歩行者保護性能を飛躍的に高めることも不可能ではないだろう。




 また、サシムは元来、無色透明。イラストやコンセプトカーの世界でのみ見られるスケルトンボディのクルマを、サシムなら実現できるのでは…という希望さえ抱いてしまう。

トミーカイラZZに装着された帝人のポリカーボネート樹脂製フロントウィンドウ。同等以上の透明性を確保できればサシムでも実現は不可能ではない!?

 もう一つは、外板の発展系と言えるだろうが、窓である。特にフロントウィンドウに関しては、外板を凌ぐ強度と耐貫通性に加え、クリアな視界を確保するための高い透明性、さらにはワイパーゴムなどによる摩擦で白濁化しないことが求められるため、現時点では未知数だ。




 しかしサイドウィンドウやサンルーフであれば、着色可能な点を利して、プライバシーガラスの代替品となることは充分可能と思われる。そのメリットは成形=デザイン自由度の高さ、そして軽さだ。

 前述の歩行者保護性能と裏返しになるが、インパネやトリム類などの内装材に用いれば、衝突時の乗員保護性能を高めることもできるだろう。あるいは形態や物性、性能を自在に制御可能な特徴を活かせば、フィット感とホールド性、クッション性を高い次元で兼ね備えた、一体成形のシートも作れるのではないだろうか。




 以上はあくまでも筆者の推測であり、性能面のみ考慮しても実現可能かどうかは、現時点の情報だけでは未知数だ。そしてこれら以外にも、クルマ以外にも範囲を広げれば、適した用途は星の数ほどあることだろう。




 2020年代が目標という商品化の際、サシムは実際にどのような姿で我々の前に現れるのだろうか? 興味は尽きない。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 外板、窓、内装材、シートetc.…クルマ以外にも適した用途は数知れず