TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
PHOTO:市 健治(ICHI Kenji)/motor-fan.jp
用意されたのは、「リーフ」をベースに後輪にもモーターを加えて4WD化した車両。大きな狙いは「走りの質の向上」である。
EVは電池容量が大きいため、減速時には電池の受け入れ容量を考えることなく回生発電が行える。しかしリーフは前輪駆動。回生ブレーキは前輪にしかかからないから、回生を強めるほどにピッチング挙動が大きくなり、乗員は不快感を覚え始める。そこで後輪にもモーターを装備し、4輪でバランス良く回生を行えば、全体が沈み込む自然な挙動になるはず、というのがひとつ目の狙いだ。
説明を聞いた段階では、「減速Gが同じなら、乗員に作用する加速度は変わらないはずで、体感に差はないのではないか?」と疑問になったのだが、指定されたメニューである40km/h〜20km/hの加減速を繰り返してみると、明らかに4輪回生のほうが快適。車両のピッチングが抑えられているだけでなく、Gの作用点高さが低くなったように感じられ、頭の動き量が減るのがはっきりわかるのだ。
ならば4WDにしなくても、後輪駆動/後輪回生にすれば良いのでは?と思うかも知れないが、後2輪では制動時に荷重移動で接地圧が抜けるから、路面μと相談しながら回生量を決める必要があり、滑りやすい路面になるほど具合が悪くなってダメなのだ。
次なる試乗メニューは、操安性の向上制御。速度や操舵角に応じて前輪の駆動力負担を減らし、操舵に割り当てる摩擦力を増やすことで旋回力を高める、という制御が導入されている。
試乗メニューは2パターンあり、まず60km/hまで加速しながらスラロームに進入するコース。これはターンインの滑らかさがまったく違った。制御無しでは初期アンダーと相談しながらアクセルコントロールする必要があったが、制御ありでは無造作にコーナーに入っても、前輪が路面をしっかり捉えてきれいに曲がり始める。イメージで言うなら「フロントが軽くなった」ような感じである。
ただしここからが、この職業の悪いクセで、「ならば」とタイヤが滑り出すまでハンドルを切り込んでしまったため、スラローム後半ではあまり違いはわからず。旋回限界そのものはタイヤのグリップ力総和で決まってしまうため、操舵で旋回Gを高めてしまっては、駆動力制御の力は及ばないという当たり前の結論を体感するに止まった。
そんな間抜けなジャーナリストのために用意されたのが、次のメニューであるウェット路の加速円旋回。スキッドパッドの円に沿って30km/hまで加速し、所定の場所からアクセルを深く踏み込む。舵角は一定なので、駆動力制御の恩恵が確実に体感できるという寸法である。
これはまさしくメーカーの意図した通りで、制御なしの場合、アクセルを踏み込んだ途端に前内輪が路面を掻き始め、盛大なアンダーステアが出るのに対し、制御ありではほとんど進路を乱さずに旋回できる(トルク総量も少し絞っているように感じられたが)。
しかしそれなら、内燃機関+オンデマンド方式の4WDでもできるのではないか?と疑問になるかも知れないが、エンジンとモーターでは応答性がまったく違う。エンジンはスロットル開度が変化して空気流量が変わらなければトルクは変化しないが、モーターなら電流値を変えた瞬間にトルクがコントロールできるから、ドライバーが挙動の乱れを感じる前に制御を行うことができる。しかも、前輪に回生制動をかけながら後輪にトルクをかけるという芸当も、技術的には可能である(試乗車がそれをやっているわけはない)。
ただし制御なしの場合も(ノーマルの2WD車でも)、クルマそのもののスタビリティは申し分なく、派手にアンダーステアが出ても、アクセルを戻すだけで穏やかに収束させることができた。むしろ駆動力制御でターンインを滑らかにしすぎると、ドライバーが滑りやすい路面を認識するのが遅れてしまうのではないかという懸念が出てくるのではないか、と思った。
そのあたりは制御のさじ加減にかかっているから、いかようにもできるはずだが、試乗を通じて改めて感じたのは、「今後ますます、人間の感度の研究が重要になってくる」ということだった。