REPORT/PHOTO●伊藤英里(Eri Ito)
ネイキッドスポーツバイクのジクサー250とフルカウルスポーツバイクのジクサー SF 250は、新設計の油冷SOHC 4バルブの単気筒エンジンを搭載する。今回はジャパンプレミアということで参考出品車として登場したが、どちらも日本での発売が進められているモデルだ。
実はこのバイク、インドでは今年に入ってすでに販売が開始されている。弟分には空冷4ストロークSOHC 4バルブの単気筒154ccエンジン搭載の『ジクサー』があり、こちらはすでに2017年から日本で販売中。発売までの経緯もインドが先行して日本へ投入……と、新顔の兄貴分たちと同じだ。
そんなジクサー250とジクサー SF 250が登場した第46回東京モーターショー2019で、開発担当者を直撃。話を聞いたのは、スズキの二輪カンパニー 二輪企画部 チーフエンジニアの野尻哲治さんと、同じく二輪カンパニー 二輪設計部 エンジン設計グループの森公二さんだ。
「このバイクのコンセプトは、スポーツバイク、それも(価格面でも)若者の手が届く範囲のバイクを作ろう、というものだったんです」と語るのは開発でチーフエンジニアを担った野尻さん。
バイクのユーザー層を若者に広げ、エントリー層のすそ野を広げたい、という思いがジクサー250、ジクサー SF 250の根底にあったそうだ。エンジンの冷却システムに油冷を選んだのも、それが理由の一つだった。エントリー層に受け入れられるために、大きくて重いバイクではなく、小さくて軽いバイク。スズキはそこに焦点を当てた。
エンジン開発を担当した森さんは「このエンジンのコンセプトは、高出力ながら小さく、軽い。現行の排出ガス規制をクリアして、扱いやすく耐久性があるもの……でした。小さく軽くまとめるために、油冷SOHCエンジンを選択したんです」と語る。
油冷エンジンは水冷と違って冷却水が不要な分、軽量化が期待できる。さらに、冷却性能の選択肢の中で、油冷がジクサー250、ジクサー SF 250に合っていたということもある。空冷では性能が不足するが、水冷ほど高い冷却性能は必要なかった。
「そう考えて、(エンジンに合った冷却性能の)油冷を選んだわけです。もちろん、我々が1985年からずっと培ってきた油冷に対する誇りや、現代では生産技術が進化して(油冷の)性能も向上した、ということもあります」
さらには2気筒という選択肢はなかったのか、という疑問も投げかけた。250ccクラスのスポーツバイクには、2気筒エンジンを搭載するモデルが多かったからだ。しかし、このバイクのコンセプトを考えれば、単気筒エンジンの選択に、うなずけようというものである。小さく軽いバイク、そして価格帯を抑える。そのため、2気筒という選択肢はなかったそうだ。かと言って、乗り味に不足はないという。
「ビギナーライダーの手が届きやすいバイクだからといって、ベテランライダーが乗ってつまらないかというと、そうではありませんよ。ビギナーさんからベテランさんまで、楽しんでいただける1台にしました」と野尻さんが話せば、その先を受け取って「非常に懐の深いバイクになっていると思います」と森さん。
「テストライダーの方は、乗ってみて『普段使いにちょうどいいだろうな』と言っていました。日常使いから週末のワインディングでも乗れる、という幅広さを持っている。この2台の領域はそういうところなんですよ」
ジクサー250、ジクサー SF 250ともに見た目のハンドル位置は高めだ。絞り込まれたシート、そして単気筒エンジンから、足つき性のよさも感じられる。そうしたフレンドリーな印象ながらもエンジンの造形に感じるバイクの無骨な格好よさは、確かにエントリー層に親しみやすいだろう。
ちなみにこの2台、ほぼ違いはない。ハンドルが、ジクサー250の場合はバーハンドルでジクサー SF 250はセパレートハンドル。乗車姿勢の違いによるフロントフォークのバネ荷重は変えてあるが、リヤショックのセッティングは同じだ。灯火類などには若干に違いがあるものの、フレームも共通のもので、タイヤは前後ラジアルを履く。
バイクのエントリーユーザーのすそ野を広げたい。そんなコンセプトで生まれたジクサー250、ジクサー SF 250。昨今はバイクが高性能化するとともに、価格帯もどんどん上がっている。バイクに乗ってみたいと思う潜在的ライダーにとって、そういった側面で気軽に乗り始めることが難しくなっているのだ。
このジクサー250、ジクサー SF 250が市販車として登場すれば、そうした現状に一石を投じることができるのではないだろうか。その役割を、ぜひとも期待したいモデルである。