秘められた進化は、もちろん乗ってみなければわからない。日本上陸を果たした新型911の実力を、大谷達也、佐藤久実の2人のジャーナリストが試す。
REPORT◎佐藤久実(SATO Kumi)
PHOTO●小林邦寿(KOBAYASHI Kunihisa)
※本記事は『GENROQ』2019年10月号の記事を再編集・再構成したものです。
そして、この爽快さはもちろんエンジン単体での話ではない。今回、従来の7速から8速になったデュアルクラッチトランスミッションは、パドルのクリック感も軽く、スポーツプラス時のシフトチェンジは電光石火。ステップ比もちょうどいい感じで、エンジンのフィールとシフトのレスポンスがシンクロして、爽快さ倍増といった感じだ。特に下りのリズミカルな走りっぷりは楽しすぎる。今までもブレーキに応じてシフトダウンする機能はあったが、さらにキレ味が鋭くなっている。たとえば4速で走っていて緩めのコーナーの手前で軽めにブレーキを踏むとスッと3速にシフトダウン、立ち上がりでシフトアップしてくれる。ヘアピンのようなきついコーナーの手前で強く長めのブレーキを踏めば、一気に2速までギヤが落ちる。踏力やブレーキの長さなどのパラメータがあり、加速側もアクセルの踏み込み量やスピード、そして走行モードによってもシフトタイミングは変わるようだが、ペダル操作でギヤまでコントロールして走れるので、ドライブの楽しさが増す。
一方、シャシー性能も進化している。先代でホイールベースが約100㎜延長され、それだけでもかなり安定感は増した感じが強かったが、今回はトレッドが拡大されたとのこと。この、基本的なディメンジョンだけでも、安定性とハンドリングは向上しているだろう。それに加え、さまざまな電子制御による飛び道具も装備される。ワインディングを走っていて、わかりやすく恩恵を感じたのは、リヤアクスルステアリング。違和感はないのだが、コーナーにアプローチした際のステリアング舵角の少なさや姿勢変化、旋回性能から、「これ、リヤステアが付いているんだろうな」と思ったら大当たり。オプション装備で、お値段は36万8000円也。シャシーは、エンジンやミッションなどの走行モードと別でノーマルモードとスポーツモードが選べるが、乗り心地も先代より一段と快適で洗練され、コンフォートとダイナミクスのバランスが絶妙だ。
一方、今回から、走行モードに〝ウエット〟が加わった。試乗日は天候に恵まれ、残念ながら、その恩恵にあずかることはなかったが、ハイパワーなスポーツカーを雨でも安心して走らせる装備は絶対的に有難い。
ちなみに、今回の試乗車はほぼフルオプションでオプション総額は約860万円にもなる! シャシー関連だけで約250万円。いろんな機能の相乗効果でこのハンドリングや性能となっているのだろうが、基本性能が高くなければ後付けの機能装備は活かされない。「素」の性能やキャラクターがどのようなものか、乗ってみたいとすごく興味を惹かれた。
新型911カレラS、個人的には、空冷から水冷になった時に匹敵するくらい、革新的な変化を感じた。大げさな、と言われるかもしれない。が、あの時はドラスティックにクルマの仕組みが変わったから、フィーリングも変わって当然。しかし今回は技術的アップグレードは多々あるが、991型の正常進化といえるだろう。にも関わらず、こんなにもドライブフィールが変わったことに強いインパクトを受けた。モデルチェンジの度に進化を感じるのは毎度のことではあるが、改めて、恐るべしポルシェ、と思った。
これはポルシェ911史上、最高に乗りやすいモデルではないだろうか? あくまで、ワインディングを走っただけだから限界域のハンドリングはわからないが、クルマの動きを見ていると、多分サーキットでも乗りやすくて速いだろう。是非、試してみたい! ね、編集長!
SPECIFICATIONS ポルシェ911カレラS
■ボディサイズ:全長4520×全幅1850×全高1300㎜ ホイールベース:2450㎜ ■車両重量:1540㎏ ■エンジン:水平対向6気筒DOHCツインターボ 総排気量:2981㏄ 最高出力:331kW(450㎰)/6500rpm 最大トルク:530Nm(64.2㎏m)/2300~5000rpm ■トランスミッション:8速DCT ■駆動方式:RWD ■サスペン
ション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡマルチリンク ■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ245/35ZR20(8.5J) Ⓡ305/30ZR21(11.5J) ■パフォーマンス 最高速度:308㎞/h 0→100㎞/h:3.5秒 CO2排出量:205g/㎞ 燃料消費量(EU複合):8.9ℓ/100㎞ ■価格:1666万円