REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
ドゥカティといえば、過激なスーパースポーツ。そのイメージを覆したのが、1993年に初代が登場した「モンスター」でした。レーサーレプリカブームに湧いた80年代は、スパルタンなイタリアンスポーツをリリースし続ければファンは納得しましたが、90年代に入るとネイキッドの人気が高まり、ドゥカティにも期待がかかります。
フルカウルモデルのエンジンとフレームを用いてノンカウルスタイルに仕上げる手法は、日本製のオートバイによく見られましたが、それをドゥカティがやってのけたのですから、登場時のインパクトは絶大でした。92年秋のケルンショーで発表された『モンスターM900』は、獲物を睨みつける猛獣のようなスタイルで、アルゼンチン出身のデザイナー、ミゲール・A・ガールズィ氏の名を世に知らしめます。
シャシーや前後サスペンション、空油冷Lツインもすべてスーパーバイク851系をベースとし、ネイキッドながらロードレーサーのようにハンドル切れ角はなく、Uターンなどの小回りは不得手でした。コアなファンは、それでこそドゥカティと称えますが、エントリーユーザーには馴染みにくいモデルであったことも否めません。
その後、600や750などバリエーションモデルを増やしつつ、ユーザーフレンドリーな一面も持ち合わせるよう完成度を高め、ドゥカティに欠かせぬシリーズへと成長。日本の免許制度に合わせた「M400」も発売されました。2000年にフューエルインジェクションが採用され、01年には水冷エンジンを積む「S4」もデビュー。現行では空冷2バルブの「Monster 797/+」、水冷4バルブの「Monster 821/stealth」、そして長兄となる「Monster 1200/S/R」という布陣となっています。
「Monster 1200S(モンスター1200S)」では、お馴染みのレッドの他に、今回乗ったグレー、さらにグロスブラックのカラーリングとマットブラックのパーツを印象的に組み合わせている“Black on Black”も設定されます。低く睨みを利かせたフロントマスク、見るからにハイスペックな足まわり、エッジの効いたフューエルタンクやテールエンド、フラッグシップらしく高級感が漂い、凄みも感じずにはいられません。
「テスタストレッタ11°」と呼ばれるディアベル系の水冷4バルブL型2気筒エンジンは、美しいトレリス構造のフレームにシリンダーヘッドでマウント。最高出力147PS/9250rpmを発揮し、ライディングモードなど先進的なエレクトロニクスで制御されます。
これがじつに力強い。モードを「スポーツ」に設定すると、スロットルレスポンスが鋭くダッシュは強烈そのもの。獰猛なモンスターシリーズのなかでもっとも過激といえ、右手と駆動輪が直結したかのようなピックアップの良さを感じるのです。
低中回転域だけで街乗りは充分ですが、高回転まで引っ張り上げれば胸の空く加速が味わえ、ポテンシャルを存分に引き出すにはサーキットへ持ち込む必要のある次元であることは、誰にでも想像が容易いでしょう。
ワインディングではクセのないニュートラルなハンドリングも相まって、リッターオーバーとは思えぬ身のこなしの軽さを感じます。アップ&ダウン対応のクイックシフターやトラクションコントロール、コーナリングABSなどもハードなスポーツライディングをサポートくれるでしょう。
前後サスペンションはオーリンズ製フルアジャスタブル式で、倒立式フロントフォークはインナーチューブ径48mm、リアショックも片持ち式アルミ製スイングアームにマウントされる本格派です。初期荷重ではしなやかに動き、ストロークの奥では踏ん張って上質さもある足まわり。軽合金Y字3本スポークのアルミキャストホイールにピレリ製ロッソ3を履き、旋回中の接地感が高く安心してアクセルを開けていけるのも走りをアグレシッブにさせてくれます。
モンスターらしいすばしっこさや軽快感をそのままに、メガモンスターならではのパワフルさとハイエンドモデルに相応しい上質感も加えた欲張りなアッパーモデルに仕上がっているモンスター1200S。スポーティな走りを求める人に、自信を持ってオススメしたいです。
楕円ヘッドライトを貴重としたシリーズ共通のアグレシッブなフロントマスク。コンパクトなLEDウインカーもスタイリッシュだ。
インストルメントパネルは最新世代の見やすいフルカラーTFT 液晶ディスプレイ。表示は3種から選べ、ギヤインジケーターと燃料レベルはどの画面でも表示される。
プリ設定されているライディングモードは、ライダーの好みや状況に合わせて「SPORT」「TOURING」「URBAN」の3つ。
程良くアップライトなハンドルバー。インストルメントパネルの操作はハンドル左のスイッチで直感的におこなえる。
オーリンズ製の倒立式フロントフォークはインナーチューブ径48mm。ブレーキはブレンボ製M50モノブロックキャリパーと330mmフローティングディスクローターの組み合わせ。
水冷DOHC4バルブL型2気筒は、最新世代のテスタストレッタ11°DSエンジン。最高出力147psを発生するとともに、Lツインらしい図太いトルクを幅広く発揮する。
Sバージョンではドゥカティクイックシフト(アップ/ダウン対応)も標準装備し、スポーツパフォーマンスに磨きをかけている。
フィット性に優れるスポーティなシートは、足着き性を考慮し絞り込まれたフォルム。リヤシートとの段差がストッパーとなって、加速時もライダーの腰骨を支持してくれる。
オーリンズ製リヤショックは、スタンダードでもプリロードと伸び側調整機構付きだが、Sバージョンではフルアジャスタブルタイプにグレードアップされる。
高剛性と軽量化を高次元で両立するアルミダイキャスト製の片持ち式スイングアームを採用。スタンダードでは10本スポークだが、Sバージョンではより軽快な3本スポークホイールが与えられる。
シングルシートカバーはヘキサゴンレンチで脱着可能。スッキリとしたテールエンドを演出している。
モンスターはどの排気量のモデルに乗っても、ライディングポジションに不満を感じることはない。ゆったりとしていながら、程良く上半身が前傾し、ステップも若干ながら後ろ気味。攻めの走りを前提としているのだ。
シート高は795/820mm(可変式)で、身長175cm、体重64kgの筆者の場合、両足を地面に下ろすとカカトが少し浮いてしまう。ただし、片足出しなら着座位置が微妙にずれてベッタリ届く。乾燥重量185kg、車両重量215kgで、大排気量モデルながら取り回しに重さは感じない。
エンジン 水冷L型2気筒DOHC4バルブ
排気量 1198cc
ボア×ストローク 106x67.9mm
圧縮比 13.0:1
最高出力 147PS/9,250rpm
最大トルク 12.6kg-m/7,750rpm
電子制御燃料噴射 56mm径楕円形スロットルボディ
ギアボックス 6速
クラッチ 湿式多板
フレーム チューブラースチールトレリスフレーム
フロントサスペンション 48mmオーリンズ倒立フォーク フルアジャスタブル
フロントホイール 3本スポーク軽合金 3.50×17
フロントタイヤ 120/70ZR17
リアサスペンション オーリンズ モノショック フルアジャスタブル
リアホイール 3本スポーク軽合金 6.00×17
リアタイヤ 200/55ZR17
ホイールトラベル フロント130mm/リア149mm
乾燥重量 185kg
車両重量 215kg
シート高 795/820mm(可変式)
ホイールベース 1,485mm
キャスター 23.3度
トレール 86.5mm
燃料タンク容量 16.5リットル