エンジンレスポンスを向上させ、シフトスケジュールを変更するなど、走りに磨きをかけた。
MY19となり、走りが大幅にレベルアップしたホンダNSXと比較試乗を試みた。
果たして日本を代表するスーパースポーツ2台はどちらに軍配があがるのだろうか?
REPORT◉橋本洋平(Yohei Hashimoto)
PHOTO◉神村 聖(Satoshi Kamimura)
※本記事は『GENROQ』2019年9月号の記事を再編集・再構成したものです。
世界中に強烈なインパクトを残した日本のスーパースポーツ、それが日産GT-RとホンダNSXだろう。タイムをはじめとする速さ。そして他では味わえない独特な走り味。従来のセオリーからすれば並外れたところにある独創性は、間違いなく世界のスポーツカーの開発者たちの心を動かしたことは言うまでもない。GT-Rが持つニュルブルクリンクのタイムを追いかけた数々のライバル。次世代を睨みNSXを購入して研究していたと噂されるフェラーリの存在もそうだ。NSX同様のレイアウトを持つSF90ストラダーレの存在はその証拠といっていい。
だが、その一方で、共に登場時には粗削りだったことは否めない。クルマからドライバーに伝わるインフォメーションが少なく、どこか仲良くなれないと言ったら良いだろうか? 共通していた課題は、「血の通った乗り味」を手にすることだった。
GT-Rの2020年モデルは、ビッグマイナーチェンジを行った17年モデルの進化版だ。17年モデルをおさらいすると、まずフロントのAピラー周りの構造を変更することでボディの前後バランスを適正化。それに合わせて足まわりやブッシュなどを改めた。また、Cピラー周りの折れ目がなくなり、そこで発生していた空気の渦も解消。GT-R NISMOが採用していた気筒別最適点火を採り入れることで、約6割の領域でトルクアップをも果たした。出力が高まったことで、冷却が厳しくなり、フロントの開口部を拡大。そこで失ったCd値を取り返すために、サイドスカートやリヤエンドの形状を変更している。
実はこの時、あらゆる領域で走りが改善されたと感じていた。直進安定性も、一体感溢れるコーナリング性能も納得のいくものだった。だが、20年モデルはさらなる高みを目指して足まわりを変更。剛性を維持したまま、面剛性を引き上げたホイールを採用している。一方でターボチャージャーはNISMOに採用していたものを奢った。これはタービンのハウジングに樹脂を射出することで、シール機能を持たせるアブレダブルシールを採用したもの。レスポンスの向上にひと役買っている。また、ATはRモードを使用時に積極的に低いギヤを使う制御も盛り込まれた。
今回はウエット路面でのワインディング試乗だったが、クルマとの一体感は以前よりも高まっていた。ステアリングを切り込めば間髪入れずにボディが反応。けれども、そこにはリニアな感覚があり、実に扱いやすい。日産によれば17年モデルに対して、ステアリングを切ってからヨーの発生までの応答性が3%向上しているという。たった3%、されど3%である。不安が残る路面状況ながらも、安心して狙い通りにコーナーのインに付く感覚はなかなかだ。また。ダンピングも悪くなく、カリカリのスポーツカーになっていないあたりは好感触。オールラウンドスポーツカーとしてのメンツを保つ。
エンジンの応答性もまた爽快だ。わずかな右足の要求にも、即座に応えるトルク特性は心地いい。それがどんな回転域であっても展開されるところはさすがだ。これもまたリニアリティに溢れている。そしてさらに感心したのはアクセルオフやダウンシフト時に排気音をバラバラと響かせる演出がようやく行われたことだ。欧州車によくある演出手法ではあるが、これがまた官能的だ。
対するNSXは登場後にはじめて改良が施された19年モデルである。発表時の17年モデルは、ミッドシップ+SH-AWDという他にないユニットを誇示するかのように、ヨーゲインの立ち上がりばかりを際立たせた仕上がりで、鋭すぎるコーナーリングを展開。また、直進安定性も薄く、そのインパクト重視の仕上がりには賛否両論があった。
対する19年モデルは開発トップに日本人のトップガンを起用。当初はアメリカ主体の開発だったものを日本に移し、実質1年でかなりの改良をした。足まわりはバネダンパーを改め、リニアな特性に変更。スタビライザーの剛性もフロント26%、リヤ19%アップ。また、リヤのコントロールアームブッシュの硬度も21%引き上げたほか、リヤのハブベアリングの剛性も6%アップした。
さらにポイントとなるのはSH-AWDの制御変更だ。これまではフロント左右に持つモーターのトルク差を使い、ビクッと動くような味付けを行っていた。イン側は回生方向、アウト側は出力方向でトルクを与えることで、操舵初期のゲインの立ち上がり重視で動かしていたのだ。だが、19年モデルはコーナー進入時にイン側の回生ブレーキは与えるものの、アウト側の出力方向でトルクを17年モデルに対してかなり少なくしている。また、ステアリング操舵の瞬間からすべてのトルクをジワリと動かすように改めたことがポイント。意のままに操れるようにと考えた結果の変更だという。
走れば路面の荒れを吸収しながらフラットに突き進み、直進安定性はかなり向上した。コーナーリングで感じられていたギクシャクした感覚は皆無となり、コーナーアプローチ時にはSH-AWDでなければ達成できなかったであろうヨーを発生させ立ち上がりへ向けて姿勢を整える。脱出方向はフルタイム4駆のような動きでSH-AWDらしさは薄まったが、血の通った仕上がりになったことは間違いない。
GT-RもNSXも共にじっくりと煮込んだことで、日本ならではのダシの効いた乗り味になったことは共通している。この奥深い味わいをぜひ楽しんでほしい。
DCTの操作スイッチを縦型に配置した独特のインパネ形状を採用する。ステアリング上部が水平形状となるため、運転席からの視認性も良い。身体を包みこむシート形状もグッド!
3.5ℓV6ツインターボとモーターを組み合わせることでシステム出力581㎰を発生する。装着タイヤは専用開発されたコンチネンタル・スポーツコンタクト6を履く。
ホンダNSX
■ボディスペック
全長(㎜):4490
全幅(㎜):1940
全高(㎜):1215
ホイールベース(㎜):2630
車両重量(㎏):1800※
■パワートレイン
ハイブリッド方式:フルハイブリッドシステム
システム合計出力:427kw(581ps)
システム合計トルク:646Nm(65.9kgm)
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCターボ
総排気量(㏄):3492
最高出力:373kW(507㎰)/6500〜7500rpm
最大トルク:550Nm(56.1㎏m)/2000~6000rpm
電気モーター出力:Ⓕ27kW(37㎰)×2 Ⓡ35kW(48㎰)
電気モータートルク:Ⓕ73Nm(7.4㎏m) Ⓡ148Nm(15.1㎏m)
■トランスミッション
タイプ:9速DCT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン
サスペンション リヤ:ウイッシュボーン
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:245/35ZR19
リヤ:305/30R20
■環境性能
燃料消費率:12.4(㎞/ℓ:JC08モード)
■車両本体価格(万円):2370
※カーボンセラミックブレーキローター装着車は1780㎏
2020年モデルはRモード専用のASCのシフトスケジュールをよりアグレッシブな設定に変更した。写真の50th Anniversaryはミディアムグレーの専用内装色を採用している。
ターボ効率化技術「アブレダブルシール」を採用したことでエンジンレスポンスが向上。50th Anniversaryのワンガンブルーには記念ロゴ入りブルースポークホイールを標準装備。
日産GT-R 50th Annivaersary WANGAN Blue
■ボディスペック
全長(㎜):4710
全幅(㎜):1895
全高(㎜):1370
ホイールベース(㎜):2780
車両重量(㎏):1770
■パワートレイン
ハイブリッド方式:−
システム合計出力:−
システム合計トルク:−
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量(㏄):3799
最高出力:419kW(570㎰)/6800pm
最大トルク:637Nm(65㎏m)/3300~5800rpm
電気モーター出力:−
電気モータートルク:−
■トランスミッション
タイプ:6速DCT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:255/40ZRF20
リヤ:285/35ZRF20
■環境性能
燃料消費率:7.8(㎞/ℓ:WLTCモード)
■車両本体価格(万円):1351.62