REPORT●石井昌道(ISHII Masamichi)
PHOTO●神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本稿は2019年8月発売の「新型スカイラインのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
十代目までは日本国内専用モデルだったスカイラインだが、21世紀に入った段階で登場した十一代目は国外の高級ブランド、インフィニティの一員として北米に主戦場を移した。そこでの敵は欧州のDセグメント・セダン。
FRということもあってBMW3シリーズとメルセデス・ベンツCクラスは特にガチンコだろう。だから今回、ビッグマイナーチェンジで日産エンブレムを取り戻した最新モデルの試乗でドイツの強豪と比べるのは楽しみだった。また、レクサスGSもライバルだろうが、それよりも世代の新しいプラットフォームを採用するクラウンを国内ライバルとして起用。スカイラインは設計年次が古く、最新のライバルとぶつけるのはいささか心配ではあるが、技術の日産を象徴するクルマに仕上がったと自信を見せているので忖度せずに比較試乗に臨みたいと思う。
試乗車は話題の「400R」にハイブリッド、V6ターボの3台が揃ったが、ここではスタンダードなV6ターボを中心にするのが、ライバルたちと比較する上で都合がいい。基本はワインディングを走らせることにしていたが、せっかくなのでプロパイロット2.0を試すべく、先にハイブリッドで高速道路を目指した。
カーナビのルート設定をしてディスプレイのアイコンが青くなったのを確認しプロパイロット2.0を作動。おそるおそるステアリングから手を離してみると設定した90㎞/hで走り、なんの警告も出ないままカーブに合わせて操舵してくれた。曲率がきついと設定よりも速度を少し落としてくれて自然かつ安心。
前方の遅いクルマに追いつくと、クルマ側が車線変更を促してくる。ステアリングを握って車線変更支援ボタンを押せば、右に車線変更。設定速度まで上がって追い抜きを敢行した後はウインカーを操作して左に戻った。今回はチョイ乗り程度なので評価を下すにはもう少し乗り込みたいところだが、三眼カメラや3D高精細地図データを採用しているだけあって車線維持支援の精度は高く、車線中央付近をピタリとスムーズに走行していく。今ある高度なレベル2として最高峰であることは間違いないだろう。
WLTCモード燃費:10.0㎞/ℓ
V型6気筒DOHCツインターボ/2997㏄
最高出力:304㎰/6400rpm
最大トルク:40.8㎏m/1600-5200rpm
車両本体価格:455万4360円
WLTCモード燃費:13.2㎞/ℓ
直列4気筒DOHCターボ/1998㏄
最高出力:258㎰/5000rpm
最大トルク:40.8㎏m/1550-4400rpm
車両本体価格:632万円
プロパイロット2.0を体験した後はワインディングに戻り、まずはスポーツセダンのベンチマークと名高いBMW3シリーズを走らせた。今年フルモデルチェンジしたばかりのパリパリの新車でプラットフォームも新世代。先代モデルも走りは一級品だったが、新型はさらに上回っている。
印象的なのはステアリングを含むフロントまわりの剛性感が凄まじく高く、操舵に対する正確性が極めて高いことだ。フロントサス取り付け部がアルミダイキャストとなり、先代比で50%も高剛性化が図られたことを実感する。
今回の「Mスポーツ」はスタンダードよりもハードなサスペンションで19インチのランフラットタイヤを履くため全体的に少々硬めだが、動きのクオリティは高くスムーズ。また、初期のわずかなところはロールスピードが早めで、スッと外側前輪に荷重を載せられるから狙ったラインをトレースしやすいのも特徴。ハンドリングに関してはピカイチだ。
2.0ℓ直噴ターボのハイパフォーマンスバージョンとなるエンジンは、超低回転域から図太いトルクをレスポンス良く発生。おそらくターボの使い方が上手なのだろう。街中から高速巡航まで優れたドライバビリティを見せつける。その一方で、アクセルを深く踏み込んでいった時の興奮度も高い。6800rpmまでスムーズに回り、サウンドもそれなりにエキサイティングだ。
先代に比べると、特にこの「Mスポーツ」は3シリーズ本来のキャラクターである駆け抜ける歓びを強調したような乗り味。路面によっては硬い乗り心地を示すこともあるが、好き者だったら許容範囲だろう。
JC08モード燃費:13.6㎞/ℓ
直列4気筒DOHCターボ+モーター/1496㏄
最高出力:184㎰/5800-6100rpm
最大トルク:28.6㎏m/3000-4000rpm
車両本体価格:560万円
WLTCモード燃費:12.4㎞/ℓ
直列4気筒DOHCターボ/1998㏄
最高出力:245㎰/5200-5800rpm
最大トルク:35.7㎏m/1650-4400rpm
車両本体価格:559万4400円
3シリーズと永遠のライバルともいえるCクラスに乗り換えると、同じドイツのFRセダンながらまったく違う世界観が広がっていた。走り始めてまず思うのは「快適だな」ということ。昨年7月のビッグマイナーチェンジで約6500点もの改良を施したというが、それゆえ大いに熟成された乗り味なのだ。
試乗車はAIRBODY CONTROLサスペンションを装備。このクラスでエアサスとは贅沢だが、これによって乗り味がマイルドなのだ。コンフォートモードで走っていると、路面からの入力によってフンワリとした動きをみせ、それなりに上下動するのだが、動きのバランスがいいからか、決して不安でも不快でもないのが絶妙なところ。剛の3シリーズに対して柔のCクラスといった対照的な特性だが、どちらも高度だ。
快適だからハンドリングもおっとりしているかと思えば、そうでもない。コーナーへの進入は3シリーズほどには小気味良くないが、サスペンションはジワリジワリと安定したストロークスピードを見せ、イン側のタイヤも上手に使いながら素直な動きをみせる。ハードなコーナリング中に大きな凹凸があって底づきするような状況での動きは見事で、懐の深さを見せつける。
「C200」はビッグマイナーチェンジから1.5ℓターボ+BSG(マイルドハイブリッド)となった。最高出力の184㎰は以前の2.0ℓターボと同じ。48Vのマイルドハイブリッドはそれなりに低回転域のトルクを補うからターボをパワー型として使ったのだろう。絶対的にはそう速くはないが、排気量の割にはよく走ることには感心させられる。
最近はBMWとメルセデスの乗り味がやや似てきたと思っていたが、3シリーズはよりスポーティ、Cクラスはよりコンフォートと再びキャラがはっきり分かれたのが興味深い。
昨年発売された十五代目クラウンはTNGAのGA-Lプラットフォームのナロー版を採用。走る・曲がる・止まるといった走りの基本性能のポテンシャルが飛躍的に高まっている。
走り始めてまず感じたのが全体のスムーズな動きだった。あらゆる可動部のフリクションが低く、綺麗にタイヤが回転していくような滑らかな感覚。「RS」はスポーティなグレードだが、クラウンらしい高度な快適性は健在だ。
AVS(電子制御ダンパー)をコンフォートにしてワインディングを駆け抜けるとボディの上下動が気になるのだが、これをスポーツ+にするとぐっと硬さを増した。ロール剛性は思いのほか高く、ハードなコーナリングでも安心して駆け抜けていける。グイグイと曲がるのが痛快な3シリーズ、弱アンダーで安心感があるCクラスとの中間的な特性で、適度にスポーティだ。
エンジンは2.0ℓターボで8速ATとの組み合わせは「330i」と同様でスペック的にもそう離されているわけではないが、少し物足りないところもあった。全体的にトルクの太さを感じづく、回転上昇にも鋭さがないのだ。「330i」は6800rpmまで回るが、クラウンは5600rpm程度しか回らないので楽しさも今ひとつ。トヨタにとって久々のターボだったので苦労がうかがえる。最新セダンのダイナミックフォース・エンジンに切り替われば、フィーリングは劇的に良くなるだろう。
スカイラインはビッグマイナーチェンジによってダイムラーから供給を受けていた2.0ℓターボが消滅し、代わりに最新世代の3.0ℓ V6ツインターボがスタンダードとなった。「400R」じゃない方のV6ターボは、当然パフォーマンスが低くなるが、それでも最高出力304㎰、最大トルク400Nm。今回のライバルたちをスペックで圧倒する。
「330i」が2.0ℓ 直4ターボながら400Nm/1550-4400rpmなのに対してスカイラインは400Nm/1600-5200rpm。低回転域はほぼ同等のトルクを発生しているはずだがフィーリングは大きく違う。「330i」はターボの効果と立ち上がりが早く、2.0ℓながらモリモリとくる感じだが、スカイラインは排気量の優位性を生かしているため、滑らかで上品な回転フィーリングをもたらす。レスポンスも上々なので街中レベルの低速域のドライバビリティは良好だ。
だが、ハイライトはアクセルを気持ち良く踏み抜いていった時の官能性。さすが6気筒だけあって回転上昇感は鋭く、回れば回るほどに力が漲っていく感覚がある。Dレンジでは6600rpmあたりが上限だが、もっと回ってもいいと思えるぐらいだ。さらに、サウンドの良さが直4勢を霞ませてしまう。エキゾーストノートではなく、V6らしい綺麗に整ったエンジンのメカニカルノートを一度耳にすると、不必要にアクセルを踏みたくなるほどだ。「400R」はさすがに速さが増して今回の試乗車の中では別次元。発進時からアクセルを踏みつけていくとリヤタイヤがホイールスピンすれすれのフィーリングとともに猛ダッシュ。304㎰バージョンでも今回のライバルに対して十分に速いが、「400R」は歴代スカイラインが持っていた雄々しさを感じる。
設計年次の古さを懸念していたが、駆動系のフリクションは少なく、現代的なスムーズな走りが見られた。ボディなどにも目立つ古くささはなく、ライバルたちにひけをとるようなことはない。
ランフラットタイヤを履いているので路面によってはタイヤのあたりの硬さを感じることもあるが、そこは「330i」と同等だ。
新型スカイラインは全車がステアバイワイヤーのDASになる。従来モデルに初めて乗った時は、時折違和感を感じたものだが、新型はだいぶ改善されたようだ。コンベンショナルなパワーステアリングのライバル車から乗り換えると、走り始めこそ直進状態から微舵領域でのフィーリングの違いを感知するが、以前のように無反応から唐突に切れ始めるようなことがなくなった。全体的にカクカクッとした動きが是正され、いい意味で穏やかになったのだ。すぐに身体に馴染み、コーナーの連続を走り始めると、他よりも舵の正確性が高く感じられ、ライントレースが容易になってくる。実際よりも車体がコンパクトに思えてきてどんどんと攻め込む気になるのだ。
V6搭載モデルだけあってノーズは重いはずだが、シャープな旋回特性も持ち合わせている。ステアリングの切り始めから、あまりロールを感じさせずミズスマシのようにノーズが平行移動していくような感覚で走る。「330i」とはずいぶんと違う特性だが、重いノーズでも俊敏性を出せるわけだ。
電子制御ダンパーのインテリジェントダイナミックサスペンション装着車は、ボディの上下動が抑えられ、よりフラットな挙動となる。DASとの相性も良く、特に低・中速コーナーではノーズの動きを正確にコントロールできる感覚が強く、一体感のある走りが楽しめた。
インフィニティ顔だった従来モデルに対して、正真正銘の日産スカイラインとなって帰ってきた感のある新型モデルは、長い歴史を誇るスカイラインの伝統をより濃厚に受け継いでいるように思う。パフォーマンスが高く官能的なエンジン、シャープなハンドリングなどかつての名車たち同様のキャラクターを今の最新技術で実現しているからだ。
それでいて普段乗りでは安心・安全を高め、疲れも抑制するプロパイロット2.0など運転支援技術も充実。想像していたよりもずっと大きなビッグマイナーチェンジなのだった。