REPORT●橋本洋平(HASHIMOTO Yosuke)
PHOTO●井上 誠(INOUE Makoto)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)/宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)
まだボクが子供だった頃、新型のスカイラインが登場することは一大イベントだった。それは新型が出ればすぐにディーラーへ出向き、必ずと言っていいほど即決してしまうスカイラインフリークの父がいたからだ。
何台かの試乗をした後にカタログを見て、いつの間にか契約。近くで遊んでいる少年時代のボクはそのことを知らないのだが、その行事が終わった数週間後には自宅に新型のスカイラインが来るという工程を繰り返していると、買ったと聞かされなくても「どうせまた新しいのが来るんでしょ」と次第に理解するようになっていた。どうやら父は納車までナイショにして、ボクを驚かせてやろうと目論んでいたようなのだが、ワンパターン過ぎて見破ることは簡単だったことを思い出す。
そこから先は買ったことを察知していると思われないようにコチラも装う。カタログが茶の間にあろうとも、それを父の前では広げることなく、仕事で留守をしている最中に隅々まで読み込んでいた。
「そうか、今度のスカイラインはこんな装備を搭載しているのか!」とか、「コッチのグレードの方が、メーターがカッコイイな」なんてワクワク感が高まっていた。一体、どのグレードを注文したのか? ボクの希望通りならいいな、なんて思いを巡らせていたのだった。
それは、今考えてみればスカイラインが時代の最先端を突き進み、いまだかつて見たことのない技術をふんだんに盛り込んでいたからだろう。足まわりの減衰調整スイッチ、GTオートスポイラー、さらにカーナビの前身と言っていいドライブガイドシステムにはかなり興奮したことを覚えている。
そして今以上に様々なグレード展開を行なっていたから、写真を見ているだけでも面白かった。今では考えられないが、セダンやクーペに加えてワゴンやハッチバックもあったし、エンジンだって4気筒から6気筒、さらにNAからターボまでなんでもござれ。いやはや、良い時代でしたね。
今回、本誌の執筆のためにV37スカイラインのマイナーチェンジに関する資料をもらい、3グレードの試乗をするにつれ、久々にその頃の記憶が蘇ってきた。プロパイロット2.0の搭載や「400R」の登場は、時代の先端を睨みつつ、その一方でスポーツ性も忘れはしないアノ頃のスカイラインが戻ってきたと感じずにはいられなかったからだろう。こんなに心躍る試乗もクルマも久々だ。
センターコンソールにあるスイッチで、ドライブモードを変更できる。エンジン、トランスミッション、ステアリングを始め、エンジンサウンドまでモードに応じて切り替わるほか、パーソナルモードでは最大で336通りの走りから好みの仕様をチョイスできる。
それはとにもかくにも、ハイブリッドモデルにプロパイロット2.0が搭載されたから。高速道路においてハンズオフドライブを可能にしたこのシステムは、一体どんな走りを示すのかは興味津々だ。
早速ーズコントロールを制限速度内のスピードにセットしている場合に限り、プロパイロット2.0が介入することがまずは確認できた。制限速度を大きく超過するとハンズオフは機能しない。今回は試乗中に故障車があり50㎞/h規制の区間があったのだが、50㎞/h速度看板を通過した瞬間、「ステアリングを握ってください」とのアナウンスがあり、ハンズオフは終了することになったのだ。周囲の交通の流れを考えると突然減速するのはかえって危ない。制限速度が変わった途端に急減速するのではなく、自然に減速させながら、その間はドライバーがステアリングを握り状況の変化に備える。現実に即したこの制御は、ある意味で融通が利くもので有難いとさえ思えた。
ただし、速度規制が解除となっているにも関わらず、なかなかクルマが認識しないこともあった。速度規制「50」の看板の下に解除を示す左矢印「↓」が存在したのだが、それまでは読んでくれなかったようだ。ずっと先にある速度規制「100」の看板が出てくるまでハンズオフは使えないことがあったのだ。これからは速度規制看板を増やすか、もしくはより読み込み制度を高めるなどの対策が必要かもしれない。
また、トンネルを走行してGPSが途切れるような状況になると、ハンズオフはできなくなる。システムのすべてが完全に機能する場合に限りプロパイロット2.0を作動させる状況をつくっていることは、かえって安心だ。何から何まで全自動としないところに日産の良心を感じる。
ただし、ハンズオフが行なえない状況であっても運転支援は続いている。ステアリングは車線の中央を突き進むかのように保持されることから、実際にはステアリングを軽く握っているだけでドライブは可能だ。これは疲労の低減にかなり役立つように感じた。
こうした大前提がある上で、プロパイロット2.0は条件が整ったところではじめて機能する。今回は東北自動車道を北上し、北関東道の途中までそれを試したのだが、9割以上でハンズオフドライブが可能だった。ワインディングが続こうとも、きちんと車線の中央を滑らかにキープ。アップダウンが存在したとしても、速度変化をもたらすことなく設定速度を維持していたところが好感触だった。また、スイッチひとつでスムーズに遅いクルマに追い越しを掛けることも可能だし、インターチェンジにアクセスすることもできる。ここまで支援してくれるとは、衝撃的だった。
ハイブリッドのドライバビリティの高さ、そしてこうしたシステムとのマッチングが高いであろう、ステアバイワイヤのDAS(ダイレクト・アダプティブ・ステアリング)、さらには3D高精度地図データがあってこその仕上がりなのだろう。不安な感覚を一切持つことなく、ハンズオフドライブを可能としたことは本当に凄いことだと感心する。普段のロングドライブでは首や肩が張ってくることが当たり前なのだが、手を下にダランとさせられることで、そんな疲労を感じることは皆無だった。これならプレミアムセダンの新たなる価値として、プロパイロット2.0はかなりのアドバンテージとなることだろう。
そして何より、このシステムがあるならば、速度違反などしようとも思えなくなるところが意外な発見だった。制限速度を守って走っていればハンズオフというメリットがある。ならば飛ばす必要などないじゃないか、という考えになるのだ。いつの間にやら安全運転の方がオトクという思考になり、かなり改心させられている自分がいた。人の心まで誘導する、それが運転支援の最先端を行くプロパイロット2.0なのかもしれない。
ハイブリッドモデルの魅力はもちろんそれだけでは終わらない。1モーター2クラッチという独特なシステムを搭載するこのクルマは、トルクコンバーターを使うクルマとは違い、アクセルのダイレクト感が非常に高い。ミリ単位の操作がそのまま直結してトラクションとして跳ね返ってくるのだ。MT車に乗るかのようなこのフィーリング。ある意味スポーティだ。それはモーター走行であっても同様。よく調教されたレーシングユニットに乗るかのような感覚がそこにある。ただし、タウンスピードでは状況次第で「コンッ」と変速ショックが感じられる部分はご愛嬌か!?
おそらくダイレクト過ぎるゆえの動きだろう。
ストップ&ゴーを繰り返すシティユースでも10㎞/ℓ、郊外や高速道路も含めたトータルでは14㎞/ℓを実現していたこともハイブリッドの魅力。後に乗ったV6ターボモデルではリッター8〜10㎞/ℓだったことから、ハイブリッドのメリットは大きいようにも思えた。
続いて試乗したV6ターボモデルのGTは、今回新たに3.0ℓのVR30DDTTエンジンを搭載。これでベースモデルという位置付けとなるわけだが、走ってみると滑らかさがありつつも、十分なトルク感と高回転へ向けた爽快な吹け上がりがなかなかのバランスだと思えた。もちろん、上には「400R」がいるわけだから、パンチがあるという部類のグレードではないのだが、プレミアムセダンとして必要十分以上の仕上がりに感じたのだ。かつての4気筒ターボが廃止となり、これに代わったわけだが、滑らかさも力強さも明らかにそれよりは上。これがベーシックだと言うにはもったいないくらいに感じる。
残念ながらプロパイロット2.0は搭載されていないわけだが、セーフティシールドはきちんと機能しており、例えば前走車に近付き過ぎた時にアクセルを踏み続ければ、アクセルは徐々に跳ね返され、最終的にはブレーキを作動させて停止までしてくれる。電動パーキングを搭載していないため、停止保持まではしてくれないが、実質ワンペダルで動かせてしまうから安全性は十分かもしれない。
ハンドリングはハイブリッドモデルに比べてリニアに仕立てられており、微操舵から切り込み応答まで自然な切れ味なところが気に入った。V6ターボモデルはDASをチューニングし、レスポンスやライントレース性能を高めたというから、それが功を奏しているのだろう。
プロパイロット2.0が新型スカイラインの機能の目玉なら、走りの目玉は“史上最強のスカイライン”「400R」の存在だ。3.0ℓ V6ターボエンジンはさらなるチューニングが行なわれ、標準のV6ターボモデルから101㎰/7.6㎏mアップの405㎰/48.4㎏mを発揮! 外観上は400Rのエンブレムと専用ホイール&キャリパー、シートと大きな違いはないが、それが「羊の皮を被った狼」感を醸し出してスカイラインらしいといえばらしいところだ。
最後に試乗した「400R」は、何もチェックせずに走り出したのだが、動き出した瞬間から感じるものがこれまでの2台より濃く仕上がっているように感じられた。特にブレーキのタッチに関しては段違いに向上しており、右足が求めた通りに細かく制動感が生み出せる感覚があったのだ。後にクルマを見れば対向キャリパーが装着されていたから理由はハッキリしたのだが、こうしてスペックや見た目を確認しなくても即座に伝わるほどブレーキは好感触だった。
動力性能についてはスペックやエンブレムできっと豪快なのだろうという先入観があったのだが、街中を静かに走らせている限りでは荒々しさは感じられない。GTと変わらずのフィーリングだ。だが、アクセルを深く踏み込めばタービンが変更されたVR30DDTTは一気に目覚めてくる。低回転からグッと前に出る感覚に優れ、それがレブリミットとなる7000rpmまで連続して続いていくその感覚は、かなりのスポーティさだ。ややスロットルオフ時の追従性が鈍いようにも感じるが、そこはこれからということか!?
だが、いずれにしても積極的にパドルシフトしたくなるその仕上がりは、走りのスカイラインがカムバックしたかに思えるほど。いよいよスポーツセダンの復権だ。R34くらいまでの懐かしいスカイラインがようやく戻ってきたか、そんな風に感じてしまうのだ。
そしてシャシーもかなり引き締められたイメージで、フラットな路面におけるキビキビとした身のこなしは気持ち良い。荒れた路面になるとランフラットタイヤを装着していることもあってか、ややしなやかさに欠けるような気もするが、それもスポーツモデルだと捉えれば納得のレベルだろう。
今回のマイナーチェンジでは顔付きもテールもデザインを改め、スカイラインらしさ、そしてインフィニティではない日産らしさが戻ったかに思える。賛否両論あるらしいが、古くからのファンからすれば、そのヤンチャな仕上がりはうれしい。
そしてなにより、時代の最先端を行くスカイラインならではの世界観が今蘇ったことも喜びだ。「技術の日産」、「先進のスカイライン」が令和の現在でも続いたことに感動した。
実は冒頭に触れたスカイラインファンの父はもうこの世にいない。だが、もし生きていたならきっと飛びついていただろう。今度のスカイラインは、そう思えただけで価値ある一台だ。