REPORT●西川 淳(NISHIKAWA Jun)
まずスタイリングに関しては写真を見てもらえばもう一目瞭然で、先に発表されたAMG A35とはまるで違ったツラ構えを見せる。特にグリルのデザインと前フェンダーの膨らみが凄まじい。CLA45も同様だが、そもそもノーマルモデルでも前トレッドの広いCLA45ではフェンダーの膨らみはA45ほど強調されていない。いずれも最新のAMGテイストでまとめられており、A45とCLA45とでもバンパーまわりのデザインが違っている。
次にエンジン。AMG35用がノーマルシリーズに積まれたM260型2.0L直4ターボのパワーアップ版であったのに対し、AMG45用には新開発のアファルターバッハ御謹製M139型を用意した。このM139型、ボア×ストローク(83mm×92mm)に関していえば、M260型はもちろん、前世代のM270型や旧AMG45用のM133型とも同じ、けれども、中身やシステムはまるで別物。内容を見ればAMG63用現行4.0L V8エンジン「M178型」の半分、に近い。
スペックは2種類。45S用が最高出力421ps&最大トルク500Nmで2.0Lエンジン世界最強となった。45用でも387ps&500Nmで、それでも先代AMG45用M133型より、パワー、トルクともに引き上げられている。ただし日本市場へは45Sのみの導入になる予定だという。
このスペックを得るために、メルセデスAMGのエンジニアは大型ボールベアリングターボチャージャーと燃料デュアル噴射(直噴+ポート噴射)の採用という、割とシンプルな手法を採った(もちろん、それ以外にも沢山の技術的積み重ねがあった)。
ただし工夫も必要だった。AMG35やノーマルモデルと同様にノーズ側へ大型のタービンを配置しようとすると新型Aクラスの低いノーズに収まらない。かといってノーズをむやみに高くしたくない。そこで、AMG35の補機類配置を180度回転させ、タービンをフロントバルクヘッド側に持っていくことを思いつく。
熱対策が問題となったが、空気の採り入れ方を工夫することで解決し、むしろ以前より効果的なインテーク側およびエキゾースト側へのエアフローを確保。重量バランス的にもプラスに作用した。コペルニクス的転回、と言わないまでも、結果的にはAMGらしい解決策だったと言っていい。
組み合わされたトランスミッションもまた新開発のAMGスピードシフトDCTの8G(8速)である。
最後に4WD駆動システム。メルセデスの4マチックシステムそのものは変わらないが、AMGトルクコントロール(=左右のドライブシャフト上に電子制御多板クラッチ)を備えたリアアクスルを新たに採用している。
AMGパフォーマンス4マチックは基本的にFF状態(前100:後0)から、フロント〜50、リア〜50の割合まで連続的に駆動力を配分している。AMGトルクコントロールとは、リアへの配分(最大50分)をさらに左右輪に向けてアクティヴに各々0:100まで分割伝達するというもの。たとえばタイトベントでは外側の後輪により多くのトルクを配分すればより素早く内側へと切り込んでいける、というわけだ。さらに積極的に活用すれば、4WDドリフトも比較的容易にできる。
そう、新型AMG45には流行りのドリフトモード(Sに標準装備、AMGダイナミックプラスパッケージにも装備)も用意されていた。ドライブモードをレースにセットし、ESPを解除、手動のギアシフトを選んで、左右両パドルを同時に引けば、いわゆるドリフトモードに入る。
これだけのハイパワー&ビッグトルクを与えたからには当然、ボディの補強も徹底された。エンジン真下に巨大なアルミニウム製補強プレートを入れたほか、ダイアゴナルストラットやストラットタワーバー、ショットガン、などなど床面やメンバーにも念入りな補強が施されている。
国際試乗会はマドリード近郊のハラマサーキットを起点に行なわれた。
サーキットに到着するなり、XLサイズのヘルメットを被って派手なイエローのA45S 4マチック+に乗りこむ。
インテリアの印象はA35のそれとさほど変わらない。専用のディスプレイ(三種類のモードがある)やS標準のパフォーマンスステアリング(ドライブモード選択機能付き)、本格レザーバケットシートが目立っている。
先導車はベルント・シュナイダーの駆るグリーンのメルセデスAMG GT Rだった。6つのドライブモードのなかからレースモードを選んでスタートするや否や、うれしいことに気がついた。旧型A45にはあった、ガッチガチに固められた分厚い板の上に乗っているような感覚がない。これは一般道での乗り心地にも期待が持てそうだ、と、まずはひと安心。
一周目からぐいぐい飛ばしたベルント(ここ走るのボク初めてだって言うたやん!)は、二周目になるといっそう速く“逃げ始めた”。とはいえ、さすがにGT Rだ。コーナーで追いつくも立ち上がりでさっさと置いていかれる。だから、しばらく自分の運転が遅いと感じていたのだけれども、スピード計や流れる景色を見れば、A45Sだって相当な速さで周回していた。スーパーカーのGT Rに不安なく付いていけている、と思えば、逆に凄いというほかない。
とにかく、車体が面白いようにインを向いてくれる。ハッチバックのA45Sの場合は特にオシリがないぶん、ステアリング操作とともにシートの背後がごそっとエイペックスへ寄って行く感覚があった。カントのついたコーナーでは脱出時にリヤが気持ちよく流れ出す。そのままアクセルペダルを踏んでさえいれば、強引にでも曲がっていけてしまう。これはこれで愉快だ。
エンジンフィールも素晴らしい。実をいうとスペックほどの迫力は感じなかったし、サウンドもさほど爆音系ではなかった。けれども、豊かなトルクの波に乗り、回せば回していくほどにパワーがリニアに付いてくる。特に4000〜5000rpmあたりでパワー、トルクともにさらにひとつの山を超えていく感じがあって、その付近では力強いサウンドと相まって震えるくらい面白い。
さらに、ストレスなく7000rpmまで回っていく。これはもう、高回転型マルチシリンダー自然吸気エンジンのようなパワー&トルクフィールだ。普段は8気筒以上のエンジンにしか興味を示さない筆者が、この4気筒には心底参ってしまった。AMGエンジンでこれほど感動するのは、かの自然吸気V8、M156型以来ではないだろうか。
できれば、ミッドシップカーにも積んでみたい。アライアンスを使って、アルピーヌA110のシャシーに積んでみるのは、いかが?
サーキットではCLA45Sにも試乗した。トランクのあるぶん、重量バランスがいいのか、とても乗りやすいという印象が強く残った。後輪の滑りはじめもA45Sに比べてゆるやかに感じられ、シャシー制御の強引さも薄まる。
それだけ自分で操っている感に浸れる。キレッキレの走りならA45Sだが、プロセスを楽しみたい向きにはCLA45Sのほうだろう。乗りやすいという印象は、一般道でも同じだった。オトナのクルマ好きオッサン用バカッ速セダンとして、なかなか有望な選択肢になるだろう!
コンフォートモードで一般道へも繰り出してみた。試乗車はオプションの19インチタイヤを履いていたが、予想通り、乗り心地が旧型に比べて相当マトモになっている。ただただ重厚さだけが目立った旧型とは違って、硬質ではあるけれど、路面からのショックを気持ちよくいなして進むという感覚が常にある。
ボディが強くなったこともさることながら、ダンピングのモード変更ができるようになったことも効いているのだろう。
ほどなくして山間部に入った。モードをスポーツ+にし、サスペンションのみコンフォートに。サーキットでは物足りなく思ったエンジンフィールだったが、さすがに公道では恐ろしいまでの速さを生み出す。とはいえ決して過激ではない。力感が底なし、とでも言おうか。しかも安心して踏んでいける。それだけ車体の安定感が素晴らしいのだ。
パドルでの変速にちょっと疲れて、フルオートマチックに戻してみた。道と連動するかのようにタイミングのいいシフトダウンを繰り返す。隣と会話しつつ、ちょっと速めのドライビングを楽しむことができる。目を三角にしなくてもドライビングファンがある。本当にいいクルマの証拠であろう。
現時点で世界最高と言っていい4気筒エンジンを積んだコンパクトなスーパーカー。日本での発表は今年終盤になりそうだ。その価格設定にも期待したい。
メルセデスAMG A45 S 4MATIC+
全長×全幅×全高:4445×1850×1412mm
ホイールベース:2729mm
車両重量:1550kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1991cc
最高出力:310kw〈421ps〉/6750rpm
最大トルク:500Nm/5000-5250rpm
燃料タンク容量:51L
トランスミッション:8速AT
駆動方式:フロントエンジン・オールホイールドライブ
サスペンション形式(前/後):マクファーソンストラット/4リンク
0-100km/h加速:3.9秒
最高速度:270km/h(リミッター介入)
メルセデスAMG CLA45 S 4MATIC+
全長×全幅×全高:4693×1857×1413mm
ホイールベース:2729mm
車両重量:1600kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1991cc
最高出力:310kw〈421ps〉/6750rpm
最大トルク:500Nm/5000-5250rpm
燃料タンク容量:51L
トランスミッション:8速AT
駆動方式:フロントエンジン・オールホイールドライブ
サスペンション形式(前/後):マクファーソンストラット/4リンク
0-100km/h加速:───秒
最高速度:270km/h(リミッター介入)