図版解説●安藤 眞/編集部 フォト●宮門秀行 ※本稿は2018年7月発売の「ホンダ クラリティPHEVのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
風を味方につける流麗なデザイン ミドルサイズセダンに相応しい、堂々たる車格と未来感を両立した流麗なデザインは、決して見た目を満足させるだけのものではない。開口や段差をなくすのではなく、穴を開けるべきところは開け、積極的に風を流すという新たな手法を採用したエアロデザインとなっている。
次世代電動車で実現した世界基準のパッケージ エンジンや、モーター&バッテリーなど、多岐にわたるデバイスを搭載しながらも、ミドルサイズセダンとしての使い勝手や快適性を犠牲にしない設計が施され、5人の大人がゆったりと乗れるDセグメント車として満足できる居住スペースが確保された。
共通のプラットフォームで3種のモデルを集約する クラリティPHEV
3つの異なる電動パワートレーンを共通のプラットフォームに搭載し、Hondaクリーンカーの象徴となるクルマを創造するという「3in1コンセプト」のもとに、先行して発売されたFCVに、(米国向けの)バッテリーEVと今回のPHEVが追加され、遂にクラリティシリーズが完成した。
最小限のデザイン変更で差別化を図る FCVとのデザイン面での差別化は最小限で、よりシャープな印象となったPHEV専用のグリルデザインとリヤのメッキガーニッシュ、そして専用色となった樹脂カバーが装着される18インチホイールという構成。
トランク容量の拡大で使い勝手も向上 428ℓだったFCVに対し、PHEVはDセグメントの競合車と同最小限のデザイン変更で差別化を図る等以上の512ℓのトランク容量を誇る。ゴルフバッグなら4個、29インチのスーツケースであればふたつを飲み込むほか、トランクスルーも可能となった。
PHEVならではの充電のしやすさ EV走行の魅力と価値を最大限に引き出すために、充電のしやすさも追求されている。スマートキーからでも開けられる普通充電ポートの他に、国際標準規格に対応した急速充電ポートも装備。また、設定時刻に充電するタイマー充電も可能。
飛躍的に進化した次世代ハイブリッドシステム アコードPHEVに搭載したシステムをベースに、大幅な進化を遂げた「SPORT HYBRID i-MMD Plug-in」。アコードPHEVよりも大容量化されたバッテリーと高出力/高エネルギー容量化に対応するため、バッテリーの冷却には水冷方式を採用。VCUも瞬時出力/連続出力ともに高められたほか、モーターに関しても油路構成を改善することで冷却を強化し、高出力化を図っている。
より高トルクかつ高出力なi-MMD
EV領域の拡大に伴うモーターの冷却を強化。走行抵抗とフリクションが低減されたほか、バッテリーやモーター、パワーコントロールユニットなどの性能向上によって、ベースとなったアコードPHEVに対して最高出力が9%、最高トルクが3%増とシステムとして高性能化された。
■SPORT HYBRID i-MMD plug-in 最大駆動電力(V):650 最高出力(kW[㎰]):135[184] 最大トルク(Nm[㎏m]):315[32.1] 最高回転数(rpm):13000 発熱量の増大に対応する高効率水冷システム
リチウムイオン電池にとって理想的な温度は、おおむね25℃〜35℃の間。それより低過ぎると出力が低下するし、高過ぎると劣化が加速する。しかし、外気温との差が小さいため、温度管理が非常に難しい。熱の移動は温度差が大きいほど速くなるから、外気温との差が小さいほど冷えにくいのだ。そこで、バッテリー冷却系のラジエーターをいちばん前に配置して、優先的に冷却している。
冷却水はIPUに入った後、3系統並びに4系統のウォータージャケットに分散(1ジャケットで2モジュールを冷却)。各ジャケットの流量を均等化するため、流路設計は何度もやり直したそうだ。
高性能EV+高効率エンジン EV走行駆動力を高めることにより、アクセルを踏んでもEV走行を持続しやすい性能を獲得。JC08モード114.6㎞/hという航続距離を持つ。また、組み合わされるエンジンの高効率運転領域も拡大され、従来のPHVに対してエンジン回転上昇を抑制。静粛性と燃費に貢献する。
高出力しながらも軽量・コンパクトなシステム
アコードPHEVのシステムをベースに、トルクリミッターの内蔵や回転角センサー中央配置などの改良で大幅な小型軽量化と高トルク・高出力化を実現。従来の丸型銅線から角型銅線に替えて高密度化されたモーターは従来型に対し25%の小型化と23%の軽量化がなされている。
EV走行をサポートするペダルクリック機構 より長いEV走行を支援するために、クリック付きのアクセルペダルを装備。パワー/チャージメーター上にブルーのラインでEV可能領域を表示しており、その範囲内であればEV走行が可能となっている。またECONモードではEV可能領域を超えてアクセルペダルを踏み込もうとした場合、クリック感を感じる構造としており、EV走行の維持を支援する。
EV走行を中心に3つのドライブモードを最適制御
バッテリーに蓄えられた電力によりモーターのみで走行する「EVドライブモード」のほか、高負荷やバッテリー残量の少ない際にエンジンの高効率領域を使って、発電しながらその電力でモーターを駆動する「ハイブリッドドライブモード」、高速クルージングなどで、エンジンが直結クラッチを介して駆動する「エンジンドライブモード」と3つのモードを最適に切り替えて走行する。
EV走行性能の向上に貢献するPCU(パワーコントロールユニット) コイルを並列に巻いた従来構造の磁気結合インダクタでは双方のコイルから発生する漏れ磁束が同じ向きになり強めあうため、周辺回路に影響を与える。そこで磁束が相殺されるよう、コア(鉄芯)を“日”の字の真ん中を切ったような形にし、コイルを2分割して左右に分けて巻き、自分の漏れ磁束を自分で相殺する新構造を開発した。
直列4気筒アトキンソンサイクル1.5ℓエンジン
フィットハイブリッドの1.5ℓエンジンをベースに各種の新技術が投入され、効率改善に加え低エミッションを追求。その成果としてBSFC(正味燃料消費率)は2.5%低減され、最大熱効率40.5%という高効率エンジンとなった。
エンジン型式:LEB 排気量(㏄):1496 種類・気筒数:直列4気筒 弁機構:DOHC16バルブ ボア×ストローク(㎜):73.0×89.4 圧縮比:13.5 最高出力(kW[㎰]/rpm):77[105]/5500 最大トルク(Nm[㎏m]/rpm):134[13.7]/5000 使用燃料:レギュラー 高タンブルインテークポートによる急速燃焼 形状を最適化することで、筒内に強いタンブル(縦渦)を生成する吸気ポートを採用。筒内のガス流動と空燃比も均質度を改善し、急速燃焼を実現している。また、アトキンソンサイクルの高膨張率化のメリットを活かし、耐ノッキング性の向上も図ってる。
冷却損失を低減する燃焼室 シリンダーヘッドとピストンで形成する燃焼室をコンパクトな形状とするとことでS/V比(表面積/容積)を最適化。冷却損失を低減し、熱効率の向上に寄与する。
フリクションを低減する進化型プラトーホーニング 油膜保持性能を維持しながら摺動抵抗を低減する進化型のホーニングを採用。砥石や加工の仕方をさまざまに試行錯誤して導き出された最適な面性状がフリクションの低減を実現。
高λ型980MPa級高張力鋼板を広範囲に採用
成形の制約により、従来は形状がシンプルな部材のみに使用されていた980MPa級高張力鋼板だが、2種類の新しい980MPa級合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を実用化。これまで590MPa級などを使用していた箇所に採用し大幅な軽量化を実現した。
前面衝突ロードパス構造
フロントサイドフレームやアッパーメンバーに加え、フロ ントサブフレームも活用し、衝突エネルギーを効率的に分散できる構造とされた。その上でフロントサブフレームの後端を前面衝突時に脱落させ、ステアリングギヤボックスなどのキャビンへの侵入を防止する。
側面・後面衝突ロードパス構造
側面はセンターピラー、ルーフ及びフロアクロスメンバ ーにより強固な環状骨格を形成。後面はリヤフレーム後端を衝撃吸収構造とすることで、衝突エネルギーを効果的に分散、吸収する。
新材料・新工法による世界最軽量ピストン HPDC(ハイプレッシャーダイキャスト製法)に適した新材料を開発し、最適設計による斜め抜きなどで、従来では考えられない薄肉化を実現。同ボア径サイズとして世界トップの軽量化を達成している。
適材適所で軽量化を促進 軽量素材としては、ドアなどの“蓋物部品”とフロントフェンダーにアルミ合金を使用。フロントバンパービームには、強度の高い7000系合金を採用しており、トータルで約28㎏の軽量化を達成している。GFRP部品も重心から遠い部分に採用し、ヨーモーメントの縮小に寄与。フロントのバルクヘッド(ラジエーターコアサポート)は、スチールのフレームを一体成形したハイブリッド構造、リヤバンパービームは長繊維と短繊維を積層したハイブリッド成形だ。
冷却を促進するブロック軸間スリット ナトリウム封入バルブと同様に燃焼室の冷却効果を高めるために、シリンダーブロックのスリーブとスリーブの間にスリットを設定。冷却水を循環させて効率的に冷却を促進し、ノッキングを抑制する。
冷却性に優れるナトリウム封入バルブ 排気バルブはバルブステムから傘部にかけて中空構造とし、内部にナトリウムを封入することでバルブの温度を下げ、ノッキングを低減。レーシングエンジンやスポーツエンジンに採用される手法だ。
ミドルセダンに相応しい走りをもたらす足まわり フロント(左)には軽量化に有利なストラット式を採用し、L型ロワアームとすることで高い横剛性を実現。リヤ(右)は5本アームのマルチリンク式とし、高い操安性を獲得しながら、すべてのアームをアルミ鍛造とすることで40%もの軽量化を達成。タイロッドもアルミ製だ。
アルミ製リヤサブフレーム 大型の井桁リヤサブフレームは、燃料タンクなどの重量物を保持するとともに、車両重量によるサスペンションの入力増加に対応するために開発された。翼のような特徴的な形状のスティフナーにより、フロントサブフレーム同様の横剛性を確保している。
乗り心地と操安を高めるジオメトリー リヤはトレーリングアームを後傾させることでアクスルの揺動を後傾化させ、入力を後ろにも逃しつつショックを吸収(下)。また、ロワリンクの支持スパンが広がったことでトー剛性が従来から1.6倍に向上(上)。
各所に静粛性を高める施策を投入 静粛性対策としては、エンジンルームからの吸遮音性能を向上。3兄弟のうち、パワーユニットから出る音が最も大きいのがPHEVだからだ。具体的には、フードインシュレーターの目付(密度)アップと裏地フェルト追加、ダッシュボードアウターインシュレーターの目付アップ、ダッシュボードアッパーインシュレーターの追加、フロントフェンダーインシュレーターの追加などが行なわれている。
4つの機能で室内の空気を清浄にする
車内の空気環境を車外より良好に保つのが、Total Air Quality Management 。フロントグリルに付けられたエアクオリティセンサーで排ガスや臭気を検知し、自動的に内気循環に切り替え。空調にはアレルフリー高性能脱臭フィルターが採用されており、活性炭による脱臭と、抗アレルゲン剤によるアレルギー物質の失活を行なう。センタークラスターのエアコン吹き出し口には、プラズマクラスターを装着し、ウィルスや雑菌、ダニや花粉などのタンパク質を分解する。フロアマットには、酸素触媒作用を利用してアレルゲンやホルムアルデヒドを分解するアレルキャッチャー加工が施されており、4つの機能を組み合わせて室内の空気環境を改善する。
環境に配慮された素材を各所に採用 内装材は表面積の約70%にCO2排出量を削減する素材を採用する。ルーフライニングやサンバイザー、シート表皮やサイドステップガーニッシュには、サトウキビ由来のバイオプラスチックを、ダッシュインシュレーターやカウルサイド、トランクボードにはリサイクル素材を採用するほか、リヤトレーやピラーガーニッシュ、トランクライニングには、金型製造時にCO2排出量が減らせるアルミ製金型を使用した製品が採用されている。
充電しながらも室内は快適
急速充電には、“コンフォートチャージ”という機能も用意。充電しながら空調やシートヒーター、AV機器を稼働させられるようになっており、パーキングエリアなどでの急速充電中に、車内で快適に過ごすことができるようになった。
直感的にシステムの状況を把握できるメーター パワー/チャージメーターに、EV走行可能域をブルーのラインで表示し、現在のシステム出力(≒アクセルペダル踏み込み量)を白い指針で表示。電池残量や走行モードに応じて変化するEV走行可能域を視覚的にわかるようにし、どのくらいの加速をすればエンジンが掛かるのか、直感的にわかるようにしている。
“相応しい走り”のためのタイヤサイズ タイヤはクラリティFCと共通の、BSエコピアEP160。サイズは235/45R18を装着する。コストや重量の点から、上層部から「17インチでできないか」と言われていたのだが、クラリティの車重で17インチでは、シャシー性能に見合ったコーナリングパワーが出せず、操安担当者が「17インチじゃロナウドに革靴を履かせてサッカーやらせるのと一緒だ!」と言って、首脳陣を説き伏せたそうだ。
画期的なスマートクリアワイパー デザインとパッケージングを成立させるため、ワイパーの反転リンク機構を廃止し、モーターシャフトを正逆転させる制御ワイパーを採用。ウォッシャーノズルはワイパーアームに設定されており、ウォッシャー液の噴射タイミングも制御。ワイパーの進行方向にのみ噴射することで、飛沫による視界の消失を防ぐと同時に、ウォッシャー液の消費量も約50%低減している。