近年のさまざまな環境の変化を受けた後の、三菱巻き返しの先鞭をつけるのがエクリプスクロスだ。スタイリッシュなクーペフォルムを与えられたこのSUVは、決して市場におもねった妥協の産物などではない。その中身には、三菱がこれまで営々と培ってきた四輪制御技術の粋が集められているのである。




REPORT●高平高輝(TAKAHIRA Koki)


PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)/宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)




※本稿は2018年3月発売の「三菱エクリプスクロスのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。

久々となる三菱ブランドの完全なる新規モデル

 実際に座ってみるまで実はちょっと心配だった。クールなクーペスタイルを大きな特徴としてカッコいい事前PRを展開している新型SUVとなると、後席の天井に頭がつっかえるのではないか、後方視界はこの程度で十分と割り切ってしまっているのではないか……などと要らぬ心配をしていたのだが、それはまったくの杞憂に終わった。新しいエクリプスクロスのスタイリングは当世風に洗練されてはいるが、リヤシートもしっかり使える真っ当な、実用的なコンパクトSUVだった。




 エクリプスクロスは三菱にとって、本当に久しぶりのニューモデルである。最も新しいモデルは2012年発売の現行型アウトランダー(PHEVは13年)。その後何度かマイナーチェンジは行なわれているものの、まったくのニューモデルはそれ以来だ。デリカD:2というスズキから供給されているOEMモデルはもう少し後にデビューしているし、軽自動車の新型も発売されているが、軽以外の自社開発車となると何年もニューモデルを投入していなかった。13年ぐらいには計画がスタートしていたというが、ご存知のようにその後軽自動車の燃費不正事件が起こり、結果としてルノー日産グループ入りすることになった。その間に紆余曲折があったことは関係者の言葉の端々からもうかがえるし、落ち着いて開発に集中することも難しかったのではないだろうか。それでも17年春のジュネーブショーでお披露目され、ちょうど一年後のこの3月に日本でもついに発表されることになった。なかなか現物に触れることができなかった上に、まだテストコース内での試乗に限られているのが何とももどかしいが、その範囲で試した限りではかなりしっかり真面目につくられていることが確認できた。




 若いユーザーは馴染みがないかもしれないが、「エクリプス」とは89年に三菱自工が海外向けに発売したスポーツクーペの名で、米国では一時かなりの人気を博し、日本にも少数輸入されたこともあったが、ヒット作にはならなかった。米国では未だに根強いファンがいて、エクリプスの名前をSUVに使うなんて、という反対意見もあったという。その名前をあえて使うのだから、力の入れ方が分かろうというものだ。それにクロスオーバーを足して「エクリプスクロス」である。

エンジンは新開発の1.5ℓ直噴ターボ1本。アウトランダーガソリン車の2.4ℓエンジンを上回るトルクを、僅か2000rpmから発揮しつつ、高い燃費効率を示す。レギュラーガソリン対応というのもうれしいポイント。トランスミッションは8速スポーツモード付きのCVTだ。

健康的で実用的な仕上がりの新型ダウンサイジングターボ

 エクリプスクロスに搭載される4B 40型1.5ℓ4気筒直噴ターボエンジンも、久々の新型エンジンだ。海外向けには2.2ℓディーゼルターボ&8速ATモデルも用意されるというが、日本向けは当面いわゆるダウンサイジングターボの1.5ℓ4気筒+8速スポーツモード付きCVTに限られる。75.0× 84.8㎜というボア×ストロークは、スマート・フォーフォーに搭載されていた4A 91型と同じだからそれをベースにしていると考えていいが、中身はなかなか凝っている。シリンダー内への直噴用だけでなく吸気ポート内にもインジェクターを備えるデュアルインジェクターであり、ウェイストゲートは電動式を採用している。レギュラーガソリン仕様ながら最高出力/最大トルクは150㎰/5500rpmと24.5㎏m/2000-3500rpmを発揮するという。




 実際、低い回転域から十分なトルクを生み出すターボエンジンのおかげで、スルッと身軽にスタートし、そこから先もドライバーの期待通りに気持ち良く回る。特別に静かというわけではないが、十分にスムーズであり、何より活気にあふれた清々しいユニットだ。また小排気量ダウンサイジングターボにありがちな高回転で急に詰まるといった頭打ち感もない。CVTながら、ステップ変速のようなメリハリの利いた変速制御を盛り込んだというが、確かにエンジン回転数だけが上昇して速度が追い付かないという違和感もほとんどないようだ。とはいえ、例えばスロットルを半分ぐらい開けて少しだけ元気よく加速するような場合は、途中で速度の伸びが若干足踏みするようなもたつきも垣間見られた。できればもっとコンパクトなクルマに積んで、マニュアルギヤボックスで乗ったら敏捷で楽しいだろうなと想像してしまうようなエンジンである。




 ドライバーズシートに座ってみると非常に視界が良く、室内も明るく、クーペという言葉から想像されるタイト感はまるでない。ドライバーの視点が高いうえに、ダッシュボードの形状やピラーの処理なども奇をてらわず、水平基調のインストゥルメントパネルも比較的整理されていて好感が持てる。歳を取ってくると一番苦手なのが、ちまちま細かいメーターグラフィックやスイッチ類である。かつては三菱も劇画調というか、メカメカしい計器類が多いことが特徴だったが、さすがに最近は簡潔で見やすく、使いやすいスタイルに転換したようでホッとする。さらにエクリプスクロスにはパネルが立ち上がる方式(コンバイナー式)のカラーヘッドアップディスプレイが備わる。インフォテインメント用にはレクサス車のようなタッチパッドコントローラーが設けられているが、個人的にはこれが唯一残念な点だった。走行中にも使用するなら依然としてダイヤル式が最も使いやすいと考えるからである。私が不器用なだけかもしれないけれど。




 さらに後方視界も斜め後方視界もまったく問題ない。スタイル優先のお洒落SUVなどでは、ルーフ後端部を下げたり、リヤウインドウを寝かせたり、さらにはリヤドアのアウターハンドルを上部に隠したりといったデザイン処理のために、どうしても視界が悪化しがちである。ところがエクリプスクロスはその悪弊(とあえて言おう)に手を出さなかった。ドアハンドルは通常位置にあり、リヤサイドウインドウも広く、そしてハッチゲートガラスは二分割として後方視界を確保している。リヤガラスを上下二段式にすれば、垂直のリヤガラスの分だけもちろんコストは増すが、やはりそこはまあいいじゃないか、と済ますことはできなかったという。真面目かっ! と古い突っ込みを入れたくなるところだが、事実真面目なのである。今どきは、もっと割り切って小賢しく処理されているクルマなど山ほどあるのに、こんなもんで大丈夫だろう、とユーザーを軽く見ないところがスリーダイヤモンドの矜持である。




 リヤシートの居住性についてもまったく同じことが言える。実はウェッジシェイプが強調されたエクステリアから想像するほど全高は低くないのだ(1685㎜)。従って天井の高さも十分に確保されており、ボディサイドの絞り込みもきつくないので後席は広くルーミーだ。一般的な身長の大人が座っても髪の毛が内張に触れることはない。そのうえリヤシートは200㎜の前後スライドが可能で、バックレストも9段階(16°-32°)にリクライニングできる。そんな実用性の高さを考えると、クーペと呼びたい気持ちも分からないではないが、相応しくないと思う。真っ当な実用的コンパクトSUVでいいじゃないか、と言いたいところだが、それでは振り向いてくれないのが昨今の実情かもしれない。

エクリプスクロスはスタイリングだけのクルマにとどまらない。前後の駆動力配分のみならず、左右の駆動力配分をコントロールするAYCを備えたSAWCにより、四輪を高度に制御。舗装路から雪道まで、あらゆる路面でドライバーの操作に忠実に応えてくれる。

エアコン吹き出し口をグッとせり出させたフォルムが特徴のインテリア。画面レイアウトやデザインをエクリプスクロスに最適化したスマートフォン連携ディスプレイオーディオ(SDA)を用意。メータークラスターの上にはヘッドアップディスプレイを備える。

SDAの操作には、シフトレバー横の手を伸ばしやすい位置に配置したタッチパッドコントローラーを使う。その奥にはS-AWCのモード切替スイッチが備わる。

身軽に、そしてリニアに反応するハンドリング

 ラインナップにはFFも用意されているが、試乗できたのは三菱自慢のS-AWC(スーパーオールホイールコントロールシステム)を備えた4WDモデルのみ。3種類のドライブモード(オート/スノー/グラベル)をセンターコンソールのスイッチで選択できるようになっている。電子制御カップリングによって前後の駆動力配分をコントロールするタイプで、さらにブレーキ制御によるAYC(アクティブヨーコントロール)機能が盛り込まれている。かつては“生活四駆”と呼ばれた4WD車のジャンルがあり、それは不整地からの脱出や雪の坂道での発進の際だけ主に4WDの効果を発揮するという簡便なシステムを装備したモデルだったが、現在では電子制御カップリングの性能も向上し、事実上駆動力配分のタイムラグなどは感じ取れない。




 ドライ路面のテストコースでは、4WDを感じさせない軽快さだが安定したハンドリングが好印象だった。スポーティさを強調するためにステアリングレスポンスをピーキーに設定するクルマもまだあるが、エクリプスクロスはドライバーにとって分かりやすくリニアな反応を維持する。S-AWCも姿勢を安定させるためにスロットルを絞り過ぎず、ちょうどいいレベルで介入してくれる。この辺りの制御のノウハウは、それこそランエボ時代から積み重ねてきた経験が活かされているはずだ。特別スパッ、スパッとシャープに向きを変えるわけではないが、不安感も遅れもないリニアな反応が清々しい。ジリジリと外に膨らみそうになったら少しだけスロットルを戻せば、これまた穏やかにフロントがインを向くので、自信を持って走ることができるだろう。




 路面状態のいいテストコースだけの試乗ゆえに、乗り心地については情報不足と感じていたが、別の機会に雪上特設コースをスタッドレス付きのエクリクプスクロス4WDで走るチャンスがあり、そこでボディが十分に頼もしいことが確認できた。身軽でカジュアルな雰囲気で身構えずに走ることができるが、骨格はしっかりしているようだ。フロントサスペンションのカウル上部などボディ各部に追加したブレースやストラットタワーバー、さらにはドア開口部やテールゲート、リヤホイールハウス周辺などへ構造用接着剤を多用して剛性を向上させた(そのために生産ラインに接着剤工程を新設したという)ことが効いているに違いない。元はと言えばRVR(現行型は10年発売)と同じプラットフォームでありながら、その違いは驚くほどだ。鳴り物入りの新世代プラットフォームでも大したことのないクルマもあれば、時間が経っていても改良・熟成で高いレベルを実現することもできるという好例である。




 お洒落なクーペSUVかと思いきや、意外に実用的で手堅い4WD車がエクリプスクロスの実像ではないだろうか。全長4.4m級のコンパクトSUVで、軽快だが華奢ではなく骨太な感覚が伝わってくるクルマはなかなか見つからない。この辺に三菱らしさが残っていると言えるだろう。この時代、もっと大胆に突き抜けてもいい、という意見もあるだろうが、質実剛健な技術の背骨が一本通っているのが三菱の伝統だろう。開発陣に聞いたところでは、このエクリプスクロスでも三菱の4WDとしては相応しくない(もっとタフであるべき)と不満を漏らすパジェロ系のベテランたちもいるのだという。さすがに今時のコンパクトSUVでそこまで無骨なのは勘弁してほしいが、カッコつけたあげく使い勝手が悪いのはもっと我慢ならん、という方や、大きく重く燃費も悪いSUVではなく、カジュアルに使えてかつ悪路雪道での走破性は必須、という降雪地域のユーザーにも自信を持ってお薦めできるように思う。エクリプスクロスはそんな真っ当なコンパクトSUVである。

三菱の最新デザインコンセプトであるダイナミックシールドにより、力強さと突き抜けるような勢いあるフォルムが与えられたフロントマスク。その裏には切り詰めたオーバーハングなど、SUVとしての機能の裏付けも込められている。

このクラスのSUVとしては珍しく、リヤシートには9段階のリクライニングと、最大200㎜ものスライド機構が備わる。乗車人数を減らすことなくラゲッジ容量をフレキシブルにアレンジできるのは、エクリプスクロスの強み。

全長(㎜):4405


全幅(㎜):1805


全高(㎜):1685


室内長(㎜):1870


室内幅(㎜):1490


室内高(㎜):1240


ホイールベース(㎜):2670


トレッド(㎜) 前:1545 後:1545


車両重量(㎏):1550


定員(名):5


型式:4B40


種類:直列4気筒DOHC直噴ターボ


ボア×ストローク(㎜):75.0×84.8


総排気量(㏄):1498


圧縮比:10.0


最高出力(kW[㎰]/rpm):110[150]/5500


最大トルク(Nm[㎏m]/rpm):240[24.5]/2000-3500


燃料供給装置:ECI-MULTI(電子制御燃料噴射)


燃料タンク容量(ℓ):60(レギュラー)


形式:CVT


変速比 前進:2.631-0.378 後退:1.960


最終減速比:6.386


駆動方式:4WD


パワーステアリング:電動式


サスペンション 前:ストラット 後:マルチリンク


ブレーキ 前:ベントレーテッドディスク 後:ディスク


タイヤ・サイズ:225/55R18


最小回転半径(m):5.4


JC08モード燃費(㎞/ℓ):14.0


車両本体価格:309万5280円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 【試乗記:三菱エクリプスクロス】ミツビシ初のクーペSUVは骨太な一台|SUVレビュー