ノートに先行搭載されたe-POWERは、分類としてはハイブリッドに属するがメカニズム詳密解説エンジンは発電専用で駆動は100%モーターという日産独自のシステム。このパワートレーンを高出力化しセレナのボディに搭載。空力を含む内外装とシャシーも最適化のためリファインされた。




REPORT●安藤 眞(ANDO Makoto)


図版解説●編集部

ノートで好評のe-POWERを搭載より商品性が向上

発売以来好評を博しているノートe-POWERと同じユニットを、エンジンとモーターともに出力を向上して搭載。マイルドハイブリッドしか設定のなかったセレナに新たな魅力が加わったことで商品性が高まった。

ボディ骨格も従来通り

フロアやピラーなどの結合構造(○で示した部分)を見直すことでボディ剛性が高められたボディは既存のものをそのまま使用する。その中に大型化、複雑化するe-POWERのユニットを搭載するために地道な開発が行なわれた。

システム全体をブラッシュアップ

使い勝手がセールスポイントのミニバンだけに、室内環境に影響を与えないようハイブリッドバッテリーはセンターコンソール/1列目シート下に配置。エンジンルーム内は鉛バッテリーやVDCユニットの移動などに伴って、新型車の設計では発生しない課題も解決していくこととなった。

メーター表示もe-POWER専用

メーター表示ももちろん専用。エコゾーンに入るよう出力をコントロールすれば燃費良く走れる「パワーゲージ」及び、エンジンの稼働や回生による充電状況など、システムの状況を直感的に把握できる「エネルギーモニター」と、e-POWERの機能を活かして効率的に、燃費良く走るのに有効なふたつの表示を設定。



e-POWER専用のインターフェース

100%モーターで走るe-POWERらしいアイコンとして目立つのは、シフトバイワイヤのシフトレバー。このほかインパネにはマナーモード、チャージモードのスイッチなどe-POWER専用の操作系が機能的に配置される。

しっかり身体を支持する2列目キャプテンシート

「スーパーマルチセンターシート」のないe-POWERの2列目シートは、パーソナル感を出すために、専用のキャプテンシートを設定。高いフィット感を出すためにクッション素材やサイドサポートの形状をチューニングしている。1列目同様、背もたれに中折れ(スパイナルサポート)形状を採用。



疲労感を軽減するゼログラビティシート

「ゼログラビティシート」と名付けられた1、2列目シートは、中折れ形状の背もたれで骨盤の後傾を抑え、自然な角度で胸郭を支えて背骨の負担を軽減。長時間座っても疲れにくいシートとされている。

高さを抑えてウォークスルーも可能な大型センタートレー

ハイブリッドバッテリーの搭載に由来する床の盛り上がりを吸収するハンデを逆に利用して、使い勝手を向上するセンタートレー。ウォークスルーを邪魔しない絶妙な高さに設定し、手回り品を置くのに便利な形状とした。

各部に最新の知見が投入されたe-POWER

エンジン、バッテリー、インバーター等のハード面と各種制御や冷却など、システム全体を統合的に仕様変更することで、出力性能と燃費性能がレベルアップした。

HR12DE直列3気筒エンジンを高出力化

コンベンショナルなガソリンエンジンとしての設定もあるHR12DE エンジンだが、発電用に最適化するため高圧縮比化とミラーサイクルが採用されている。さらにセレナ用としてノートよりも5㎰高出力とされた。

エンジン型式:HR12DE


排気量(㏄):1198


種類・気筒数:直列3気筒


弁機構:DOHC 12バルブ


ボア×ストローク(㎜):78.0×86.3


圧縮比:12.0


最高出力(kW[㎰]/rpm):62[84]/6000


最大トルク(Nm[㎏m]/rpm):103[10.5]/3200-5200


使用燃料:レギュラー


燃料タンク容量(ℓ):55


モーター型式:EM57


最高出力(kW[㎰]):100[136]


最大トルク(Nm[㎏m]):320[32.6]

ノートe-POWERと同じながらパワー&トルクを向上

エンジン同様にモーターもバッテリーとインバーターなどの改良により、ノートe-POWERよりも出力を20%、トルクが30%アップとブラッシュアップされ、Mクラスミニバンに見合う動力性能が与えられている。

e-POWERは100%モーター駆動のHV

他社のハイブリッドシステムはモーターとエンジン双方の出力によって駆動されるが、日産のe-POWERはハイブリッドに分類されるものの、モーターの駆動力のみで車両を動かす。ピュアEVであるリーフで培った技術が活きている。

EV走行を活用できるふたつのモード

EV走行優先のマナーモード機能を有するのがセレナe-POWER の大きな魅力のひとつ。十分に充電された状態であれば約2.7㎞もEV走行が可能。チャージモードで充電しておくこともできる。

ボタンひとつでドライブモードを切り替え

e-POWER Driveの「ECO(エコ)モード」と「S(スマート)モード」は、モーター回生が強められ、減速から停止までをアクセルペダルのみでコントロールできるワンペダルドライブが楽しめる。

走行状況の90%をペダルの踏み替えなしで走行できる

e-POWER Driveは最大0.15Gの減速度を発生し、走行状況の90%をブレーキペダルへ踏み替えずに走りきれる。ノーマルモードはガソリン車に近い乗り味を演出。

e-POWER Driveは約8割の使用比率

ノートe -POWER のオーナーの実績では、「ECO」と「S」の使用比率が各40%という。

「Sモード」のSは“スマート”のS



「Sモード」はノーマルモードと同様の走りを楽しめる加速性を持ちながら、「ECO(エコ)モード」と同レベルのブレーキ回生により、バッテリー走行の比率が高く実用燃費を20%向上できる。

エンジンルーム内の乱流を抑える

エンジンルーム内は空気の乱れによる抵抗が大きいため、高速走行時に閉じて空気抵抗を低減するグリルシャッターを設定。車速やエンジンの冷却状況により自動で開閉する。ハイウェイスターは元々の空力性能が高いので非採用。

リヤタイヤの空気抵抗を低減するデフレクター

ボディ下面にはエンジンアンダーカバー以外にも空力デバイスを装着。リヤタイヤ前面に整流板を設置して乱流の発生を抑制。車両の前方と後方でそれぞれ空力処理が施されている。

空力性能を向上

既存のS-HYBRIDに対して上記の3種類の空力処理で空気抵抗を3%低減した。空気抵抗の低減は特に高速走行時の燃費に大きく貢献する。JC08モード燃費はもとより、実燃費の向上に影響は大きいはずだ。

空力ホイールの採用で車両サイドを整流

リヤサイドスポイラーで車両後方への風の巻き込みを抑制

エンジンアンダーカバーの装着で床下を整流

上記3点のうち、特に寄与率が高いのはサイドスポイラーなのだが、アピアランスへの影響もあるので見た目と空力効果を両立させるために苦労が多かったという。

ガソリン車に対して25アイテムの遮音仕様を向上

● ルーフ前側制振材追加


● フロントルーフレールマスダンパー追加


● フロントウインドシールド遮音ガラス化


● Ext.カウルトップ吸音材追加


● フロントドアガラス厚板化


● 高遮音性ダッシュインシュレータ


● 高遮音性フロントカーペット


● 高遮音性センターカーペット


● ダッシュ/フロアメルシート追加


● フロントキッキングプレート裏吸音材追加


● ダッシュサイドフィニッシャー裏吸音材追加(RH)


● フロントフェンプロ吸音材追加


● フードインシュレータ厚みアップ


● インパネ裏吸音材追加


● ダッシュロア吸音材面積拡大


● CPMダクト吸音材追加


● カウルカバー吸音材追加


● エアインテーク遮音構造強

● エンジンマウントブラケット高剛性化


● 吸気チューニングホール追加


● エキマニカバー発音低減ビード追加


● EGRカバー発音低減ビード追加


● ドライブシャフトダイナミックダンパー周波数変更


● エンジンアンダーカバー吸音素材化


● フロントサスペンションメンバーダイナミックダンパー追加

ひとクラス上の静粛性を実現

ノートe-POWERよりも上級及び多人数乗車のセレナだけに、室内の静粛性もノートを超える性能を与えるために多岐に渡る遮音策が講じられている。右記の遮音材や制振材の追加を中心とした25アイテムに及ぶ遮音仕様のグレードアップのほか、エンジン回転数の制御などによってノートe-POWERより3dB室内騒音を低減した。

マクファーソンストラット式フロントサスペンション&トーションビーム式リヤサスペンション

〈マクファーソンストラット式フロントサスペンション〉
〈トーションビーム式リヤサスペンション〉


前後のサスペンション形式は従来通りだが、スプリングとスタビライザー、前後のダンパーは専用チューニングによってe-POWERに最適化された。ガソリン車に対し重い重量は乗り心地に活きた。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 独自リソースをブラッシュアップ