不可能ではないことはわかるが、実際にどのようなデメリットがあり、そしてどのような楽しさがあるのか。
それを知るために570Sスパイダーと数日を共にした。
REPORT◉永田元輔(NAGATA Gensuke)
PHOTO◉小林邦寿(KOBAYASHI Kunihisa)
※本記事は『GENROQ』2019年8月号の記事を再編集・再構成したものです。
クルマとは人と荷物をなるべくたくさん載せて遠くへ快適に運んでくれるもの、という定義で考えれば、ミッドシップのスーパースポーツカー、しかもオープンボディとなるともはやクルマという範疇には入らないものかもしれない。実際、このようなクルマを所有しているオーナーたちも、日常のアシとして使っている人はほとんどいないだろう。
もちろん、今どきのスーパースポーツカーは安全、快適にトラブルもなく動いてくれる。それもわかっているけど、やはり実際はちょっと……と二の足を踏んでしまう。
それはなぜか? もったいないとかいう理由は別にして、スーパースポーツカーを日常に使わないのは、案外と思い込みからくるものではないのか? それならば実際にスーパースポーツカーを日常のアシにして、その実用性を肌で感じてみようではないか、と思い立ち、マクラーレン570Sスパイダーと数日を過ごしてみた。イギリスブランドというところがツウっぽくて日常の風景に合うのではないか、と考えたのと、3.8ℓのV8ツインターボのフレキシビリティの高さを以前に感じていたからだ。
果たしてこのエンジン、見事なまでの実用性を備えていた。ストップ&ゴーが頻発する街中でも気難しさを見せることなく、微低速でのアクセルワークにも実に素直で柔らかな反応を見せる。その扱いやすさをさらに高めているのが7速DCTのトランスミッションだ。発進時のスムーズな繋がりは、まるでトルコンATかのような穏やかさで、シフトアップ&ダウンのタイミングも実に的確でショックもまるで感じない。
初夏の街中をオープンで流すのは実に気持ちがいい。日本はオープンカーに不向きな気候だと言われるが、それでも気持ちのいい日は結構ある。春や秋だけでなく、冬でも雪国でなければ上着を着て暖房を入れれば大して寒くはないし、真夏の夜のオープンもなかなかいいものだ。屋根がないだけで周囲との親和性が高まり、まるで散歩しているかのような気分で街を流すことができる。60㎞/hくらいまでなら風の巻き込みはほとんどないし、気が変わったらスイッチひとつで15秒でクローズドに変身できる。その状態ではエンジン上のルーフ収納場所が52ℓの物入れとして使えるのはスパイダーだけのメリットだ。フロントにはさらに150のラゲッジスペースがあるから、実は2人での小旅行くらいこなすことができるのだ。ただ、後方のスペースに荷物を入れたらオープンを楽しむことはできないが。
もちろん日常使いで考えると、570Sには難点もある。最も気になるのはやはり乗降性だ。カーボンコンポジットのモノコックタブにより、サイドシルの幅がやや広く、そして座面はかなり低いため、身体の固い人、スカートの女性などは乗り降りがやりづらく感じるかもしれない。
もうひとつ、あえて挙げればやはり、かなり目立つ、ということだろうか。特にディヘドラルドアを開けて乗り降りする時など、珍しいものを見るような視線を感じる。これはもう、開き直って目立つことを楽しむしかない。子供が羨望の眼差しを向けている時は、笑って手を振るくらいの余裕が欲しいものだ。
SPECIFICATIONS マクラーレン570Sスパイダー
■ボディサイズ:全長4530×全幅1930×全高1201㎜ ホイールベース:2670㎜
■車両重量:1498㎏
■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:3799㏄ 最高出力:419kW(570㎰)/7500rpm 最大トルク:600Nm(71.4㎏m)/5000~6500rpm
■トランスミッション:7速DCT
■駆動方式:RWD
■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡダブルウイッシュボーン
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ225/35R19(8J) Ⓡ285/35R20(10J)
■パフォーマンス 最高速度:328㎞/h 0→100㎞/h加速:3.2秒 燃料消費率(EU複合):10.7㎞/ℓ CO2排出量:249g/㎞
■車両価格:2898万8000円