REPORT●萬澤龍太(MANZAWA Ryuta)
PHOTO●宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)
ルノー・メガーヌR.S.のカップ仕様にMTがラインアップされたおかげで、ホンダ・シビック Type Rと限りなく同じ土俵で比べられるようになった。この2台のどちらを買おうかと悩む人は少なく、きっとホンダファンとルノーファンがそれぞれ「ウチのほうが速い!」といいながらお互いをリスペクトするなんていう構図になっているんだろうと想像するが、いずれにせよ、2台のコクピットがそれぞれどんな「仕事場」になっているのかが気にならない人はいないだろう。
2台を同時に借り受けられるこのタイミングを逃す手はない。同じアングルから、2車の様子をご紹介しよう。
シビックのコクピットはセンターコンソールが見事な対称形。ホンダの美しい伝統なのか、ステアリングホイールからなんの意識もなく左手を下ろすとシフトレバーに触るという絶妙な位置にセットされている。レバー先端はアルミ製の球形で、押し引きいずれのアクションによっても掌への感触が変わらないのが美点だ。シフト/セレクトのトラベルも大きくなく、ギヤ入りの感触も「ゴクッ」という調子で非常に気持ちがいい。
リバースレンジへ入れるには、5/6速方向のセレクト操作(横方向)からさらに右手に倒し、下方向にシフト操作(縦方向)する構造。個人的には「さらにセレクト」という動作にいまいち確証が持てず、狭いところの切り返しで前進/後退を繰り返すようなシチュエーションでは使いにくさを覚えた。
ステアリングホイールは下面を薄く切り飛ばしたD型で、全周がスムースレザー。水平方向は370mm、鉛直方向は365mmの寸法だった。チルト/テレスコピック調整は手動式で、コラム下面のレバーをこちら側に引いてフリー/奥に戻して固定する仕組み。上下方向に42mm(チルト)/前後方向に33mm(テレスコ)の調整幅を持つ。
ステアリングシステムはSHOWA製のダブルピニオン式EPSで、非常に正確かつ手応えにあふれた快作である。重い!と言えばそれまでなのかもしれないが、むしろ旋回時に「曲がっている」というインフォメーションを強くドライバーに与え、どれだけいま切っているのか、切り増すとどうなるのかといった情報に富んでいるので、不安が一切ない。「デュアルアクシスストラット」を採用しているので、旋回時のアクセル踏み増しでもステアリングが取られるようなことはなく、安心してコーナリングを楽しむことができた。
エンジンスターターボタンはコラム右手に備わる。パーキングブレーキは電動式で、操作の一切がドライバーの操作による。つまり、停止すると自動的にかかるとか発進するときに自動的に解除するとか、そういった仕組みは一切ない。また、解除時にはブレーキペダルを踏んでいないとパーキングブレーキを解けず、ここは少々煩雑な印象を受けた。
ダッシュボード上端に向かって傾斜している構造のためか、パッと見たときの開放感が高い。また、センターディスプレイがメーターパネルより低い位置にあり、運転時の視界に入らないのは、右へ左へコーナリングを繰り返すようなシーンでは好感である。ただし、差し色として各部に配されている赤が映り込むことがあり、気になることがあった。
メガーヌのコクピットもセンターコンソールが対称形。ただし、写真でご覧いただけるようにレバー式のパーキングブレーキは左側に収まったままで、右ハンドル化にあたっての移設は見送られた。シフトレバーの位置は筆者にとって少々前に遠い印象。ラテンのクルマによくあるような前寄りの位置にセットされているのだろうか。ルノー車ではしばしば言われる特質のようだ。
加えて、シフトレバー先端部も筆者には大きく、持て余し気味の形状だった。なんとなく、はるか昔のサンクGTターボを思い起こした次第。頭が重いのか、操作時のイナーシャが大きい感じで、いまいち「シフトが決まった!」とならなかったのは残念。エキスパート向けのセッティングなのだろうか。ただし、リバースレンジに入れるときの、リング持ち上げで1速の位置に入れるという操作は非常にやりやすかった。
ステアリングホイールはこちらもシビック同様にD型形状で、上下部がスウェード調、左右部がスムースレザーを用いている。操舵角が一瞥してわかるように12時の位置には赤いリングが埋め込まれる構造だ。水平方向は375mm、鉛直方向は365mmである。チルト/テレスコピック調整は手動式で、コラム下面のレバーを奥に倒してフリー/手前に戻して固定する構造。上下方向に32mm(チルト)/前後方向には50mm(テレスコ)もの調整幅を実現している。
ステアリングインフォメーションは4CONTROLと称する後輪操舵のシステムとの相乗効果により、「思ったより曲がる」「気がついたら美しく曲がっていた」という印象だ。かといって大きくて重たいものが不自然にいきなり旋回するという不安はなく、そのあたりのチューニングには細心の注意が払われている感想。高速域と低速域で後輪操舵の位相を異らせていて、低速域での旋回性能と高速域の安定性を両立させている。アイシン製のアクチュエータによってリヤのナックルを直接押し引きすることで操舵角をつける仕組みだ。
エンジンスターターボタンはシビックと異なり、コラム左手。パーキングブレーキはレバー式で、先述のようにセンターコンソール左側。ドリンクホルダーを挟んでの配置となるため、仮にペットボトルなどを差し込んでいるとそれを乗り越えての操作になるだろう。
ダッシュボードは比較的立っている設計。メーターベゼルとセンターディスプレイベゼルが同じデザインコンセプトで囲まれ、同じ程度の高さにセットされているためか、一体感は大きい。センターコンソールが非常にフラットなパネルで形成されていることからシンプルな印象を与える。残念ながら撮影車はセンターディスプレイにナビゲーション機能が備わっていなかったので、運転中は「黒いパネル」に徹していたため運転中の視野妨げにはならなかった。
オレンジ色の線がシートセンター。全体的にABCペダルが左寄りの印象を画像からは受けるが、着座時や操作時の違和感はなかった。ブレーキペダルとクラッチペダルのプレートは同じものが装着されている模様。アクセルペダルは吊り下げ式。
オレンジの線がシートセンター。シビックよりもオフセットは少ない。左足のフットレストも同じ意匠で目をひく。左膝を押し当てる位置のセンターコンソールにはボリュームがあり、旋回時に踏ん張るときなどに具合が良かった。ちなみにシビックはこのセンターコンソールが柱構造になっていて中間部が空いており、しかし膝を当てるには不具合はなかった。時折、ここの部分がデザイン優先なのかエッジが立っていたり間が抜けていたりするクルマもあり、往生することがあるだけに、さすがこの性質のクルマはそのあたりがきちんとしているなと感心した次第である。