ジョルジェット・ジュジャーロ率いるイタルデザインが手掛けた初代を中心として日本にも根強いファンが多い、フィアットのAセグメント5ドアハッチバック「パンダ」。日本においては6速MT車としての役割も担っている4WDモデル「4×4(フォーバイフォー)」に、、東京都および神奈川県内の一般道と高速道路で試乗した。なお、テスト車両は2018年11月に発売された最新の限定車「イタリアーナ」ではなく、同年7月発売の限定車「フォレスタ」。タイヤもスタッドレスのピレリ・アイスアシンメトリコプラスを装着していた。




REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)


PHOTO●遠藤正賢/FCA

初代フィアット・パンダ4×4
二代目フィアット・パンダ4×4


 イタリア車といえば官能的なデザイン、サウンド、ハンドリングというイメージが根強いものと思われるが、ことデザインに関して歴代パンダはこの通例に当てはまらない。1980年デビューの初代は極めて合理的なスペース効率重視のパッケージングをそのまま形にしたスクエアな形状の3ドア。5ドア化された2003年デビューの二代目では大幅にモダナイズされたものの、直線基調のデザインは少なからず踏襲された。

フィアット・パンダ4×4フォレスタのサイドビュー

 そして11年に本国デビューし、13年6月に日本上陸を果たした現行三代目は、四角に丸を組み合わせた「スクワークル」をテーマとし、肩の力が抜けた雰囲気になっているものの、基本的なフォルムとパッケージングは二代目の拡大版というべきものだ。

外観同様「スクワークル」をテーマとした運転席まわり

助手席側収納に携帯電話、財布、メモ帳を置いても余裕タップリ

 その合理性と気安さが同居した「スクワークル」デザインは室内も同様。インパネの助手席側はリッドの付かない収納となっており、携帯電話や財布はもちろんハンドバッグも直接放り込めるほど広大なスペースとなっている。

使い勝手に優れる荷室。容量は225~870L

 荷室も使い勝手に優れている。ほぼ垂直に近いバックドアと後席背もたれのおかげで背の高い荷物も積みやすく、また6:4分割の背もたれをワンタッチで倒しても、フロアの傾斜はごく少ない。スペックシート上の荷室容量は225~870Lとされているが、体感上はそれ以上に感じられた。

見た目以上にサポート性に優れる前席。中央には飛行機のスロットルレバーに似た形状のパーキングブレーキが備わる
アップライトなポジションで広さ“感”のある後席。サイドウィンドウの開閉は今や希少な手動回転ハンドル式


 そんな懐の深さはシートも同様。一見小ぶりでサイドサポートも弱そうなシートだが、実際に座ってみると、柔らかな感触で適度にクッションが沈み込み、身体の凹凸にピッタリフィット。サイドサポートも必要充分な高さとなり、全身を心地良く支えてくれる。このシートの感触は、フランス車のお株を奪う出来と言っていい。




 なお後席は、身長176cm・座高90cmの筆者が適切なドライビングポジションに合わせた運転席の後ろで、ヘッド・ニークリアランスとも10cmという必要充分レベル。しかしながら、高い全高に対し座面が高く背もたれも起きているため、広さ“感”は数値以上だった。サイドウィンドウの開閉が電動ではなく手動なのは玉に瑕だが。

パンダ4×4のシャシー。サスペンションはフロントがストラット式、リヤがトーションビーム式

175/65R15 84Qのピレリ・アイスアシメントリコプラスを装着

 そして、シート以上にフランス車顔負けなのが、シャシー性能である。路面の凹凸を大小問わずしなやかにいなすため、突き上げをほとんど乗員に伝えることなく、また車体を不必要に揺することもない。また旋回時は、適度にロールを許容しつつ、粘るようにゆっくりと外輪側を沈み込ませていく。




 一方でステアリングはイタリア車らしくクイックで、コーナーが連続する場面でも軽快に走ることができた。しかも、今回のテスト車両が装着していたのはサマータイヤではない。オールシーズンどころかQレンジのスタッドレスタイヤである。

875ccの直列2気筒「ツインエア」ターボエンジン

210km/h、8000rpmスケールのメーターパネル

 500譲りの875cc直列2気筒「ツインエア」ターボエンジンも、シャシーと同様に粘り腰だ。メカニズムの詳細は下記の記事に詳しいが、2気筒独特の低いビートを奏でながらも決して不快ではなく、しかも低回転域からレッドゾーンの6500rpmまで淀みなく元気に吹け上がり、1130kgの車体を力強く引っ張ってくれる。

唯一無二の自動車用2気筒エンジン。フィアット500のツインエア
インパネに設置された6速MT。その奥には4WDの電子式デフロックスイッチが備わる

 ただし、周囲のクルマ流れに遅れずスムーズに加速させるには、インパネにシフトレバーが設置された、柔らかなシフトフィールでストロークも長い6速MTを積極的に操る必要がある。最終減速比は5.308と低いため力不足を感じることはないが、その分エンジンを高回転域まで回しても速度は大して上がらないため、シフトワークは忙しくなりがちだ。

【パンダ4×4 6速MTのギヤ比】


1速 4.100


2速 2.174


3速 1.345


4速 0.974


5速 0.766


6速 0.646


後退 3.818


最終減速比 5.308
全体的に左側へ配置されたABCペダル。フットレストはセンターコンソールを抉ることで設けられている

 しかしながら輸入車の常で、ABCペダルは左側へオフセットされており、必然的に身体をやや捻った状態でのペダル操作を強いられる。だが面白いのは、フットレストがセンターコンソールを抉ることで半ば強引に設置されており、その高さはクラッチペダルとほぼ同じ。左足の移動量を最小限に抑えようという工夫が見て取れた。

フィアット・パンダクロス

 このフィアット・パンダ4×4、率直に言って見た目は地味で安っぽいのだが、実際にはかえってプラスに作用しており、日常の足として遠慮なく使い倒せるクルマに仕上がっている。また快適装備も決して充実しているとは言えないが、それでも機能面の不足を感じることはなかった。そしてあの、フランス車顔負けのシートと乗り心地、イタリア車らしい快活なハンドリングとパワートレインが、このクルマにはある。




 これぞまさに、コンパクトカーのお手本中のお手本だろう。見た目品質や装備の充実度、絶対的な広さでは日本の軽自動車が遥か先をいっているのだが、安楽さと使い勝手の良さでこのパンダ4×4を超えている日本車は、残念ながら軽自動車はおろかA~Bセグメントのモデルにも存在しない。




 現行パンダ4×4が日本で初めて設定されたのは2104年9月だが、常に限定車として販売されながらも新たな限定車が絶え間なく発売されており、実質的には5速ロボットMTを搭載し全高も65mm低いFF車の「イージー」と同じカタログモデルだ。




 ならばいっそ正式にカタログモデル化し、内外装のカラーバリエーションをもっと充実させるべきだ。欲を言えば欧州仕様に設定のある、よりSUVらしく分かりやすい専用デザインを備えた「クロス」も日本に導入してほしい。




 それが実現した日、私がフィアットディーラーで注文書にハンコを押している可能性は充分に考えられる。事程左様に、パンダ4×4は理想のコンパクトカーだった。

【Specifications】


<フィアット・パンダ4×4フォレスタ(F-AWD・6速MT)>


全長×全幅×全高:3685×1670×1615mm ホイールベース:2300mm 車両重量:1130kg エンジン形式:直列2気筒SOHCターボ 排気量:875cc ボア×ストローク:80.5×86.0mm 圧縮比:10.0 最高出力:63kW(85ps)/5500rpm 最大トルク:145Nm(14.8kgm)/1900rpm JC08モード燃費:15.5km/L 車両価格:251万6400円
フィアット・パンダ4×4フォレスタ

情報提供元: MotorFan
記事名:「 〈試乗記:フィアット・パンダ4×4〉見た目と装備は控えめながら乗り心地と使い勝手の良さは桁外れ。これぞ理想のコンパクトカーだ!