新型トヨタ・スープラの試乗会に姿を現した開発責任者の多田哲哉さん。我々として最も聞きたいのは「共同開発されたBMW Z4とは、どうやって作り分けたのか?」である。そんなわけで質問をぶつけたわけだが、話はいつのまにか脱線していき……。我々の質問にスペースを割くのはもったいないので、多田さんのひとり語り形式でお送りする。




TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)

スープラはガソリンを無駄に噴きまくっています

 Z4との違い? もちろん何度も聞かれましたよ。ひと言で答えるなら「まったく違う」なんですけれど、誰も納得してくれないでしょ? だからちゃんと説明しますね。




 ご存知のとおり、BMWとは共同開発しました。プラットフォームもエンジンも共通ですし、マグナシュタイヤーの生産設備も共有しています。それはトヨタが久々の本格的FRスポーツを復活させ、BMWがZ4を存続させるためには最適の方法だったから。でも、それだけです。




 最初にホイールベース、トレッド、重心といった基本的ディメンション、パワートレインが決められるまではトヨタとBMWの間で徹底的に協議しましたが、その後、どのように仕立てていくかはそれぞれ完全に独立した作業でした。

 あるとき私がBMWの責任者に「共用できるパーツがあればお互いコストを削減できる。開発を進める前に、すり合わせておかないか?」と提案したんです。すると彼は「オマエは何を言っているんだ? そんなことでオマエの理想とするスポーツカーが作れるのか? ある程度できあがってから、『これとこれは共有できるかもしれない』って考えればいい」と返してきました。




 ようは順番が逆だろ、と。まったく仰るとおりなんですよ。




 それ以来、私はZ4がどうやって開発されているのか、まったく知ることはありませんでした。向こうも同じです。プロトタイプが出来上がったところで、ようやく「ちょっと乗ってみるか?」と、互いのクルマを交換して乗ってみたのが最初です。




 それと、スープラとZ4の「内外装のパーツ」は9割が独自のものです。共有パーツは1割しかありません。ウソだろって思うでしょ? じゃあスープラとZ4を並べて数えてみてくださいよ(笑)。

 エンジンはBMW製ですが、味付けはまったく違います。わかりやすい話としては、「我々は会社から燃費のことをまったく言われていない」ということが挙げられます。今どきこんなのってありませんよ。BMWの人たちには羨ましがられています。




 なぜ我々は自由にできるかというと、トヨタ全体の売り上げから見たらスープラの販売台数なんて雀の涙だからです。だからCAFE(メーカー別平均燃費)にもまったく影響を及ぼしません。BMWはそうはいかないでしょう。




 でね、今度のスープラ、アクセルを戻すとパパパパパンッて威勢良くアフターファイヤー音が出るんですけれど、あれは本当にガソリンを噴いているんですよ、無駄に。もうホント、無駄ですよ。でもね、楽しいでしょ? こういうことは、できるうちにやっておかないとね。

BMW M3のパーツが流用できるかも!?

 みなさんご存知の通り、トヨタには世界最高レベルの社内品質基準があって、「BMWとの共同開発で、その社内基準をクリアできるのか?」ということもよく聞かれますけれど、もちろん問題なくクリアしています。サービス体制も、パーツ供給もトヨタ基準です。




 ただ、明確な基準にはない、過剰ともいえるような部分については、ピュアスポーツカーとして省いたところもあります。




 たとえば、料金所でコインを床に落としたとします。拾おうとしてシートの下に手を伸ばしますよね。そうすると、シートレール回りの出っ張りかなんかに指が当たって切ってしまうことがあるかもしれません。万にひとつよりも低い可能性だと思いますが。で、トヨタの場合はそういうことのないように、そんな出っ張りがあったら樹脂などのカバーで覆ってしまうんです。




 でも、それスープラに必要あります? スープラを選ぶ人の大部分は運転スキルが高く、そうでなくても運転に前向きな姿勢を持っています。ですからそんなカバーをつけるより、ほかにお金をかけたほうがいいですよね。

 それと車高はね、スポーツカーに乗る人にとっては、絶対に低い方がかっこいいんですよ。だからできる限り低くしました。




 でも、そうすると当たり前ですが段差などで下回りをヒットしやすくなる。で、どうしたか? 当たっても大して悪影響がないパーツを、あえて最初に当たるようにデザインしてもらったんです。そこが最初に当たれば、「あ、これ以上進むとやばいな」ってわかる。いわばセンサー代わりですね。いきなり高価なパーツが壊れるよりマシでしょう。

 そうそう、最近のBMWはおいそれとイジれなくてつまらない、っていう話をチューニング屋さんからよく聞くんですよ。だからスープラもそうなんじゃないか、と。




 もちろん昔のようにはいきませんが、できる限りイジる余地は残しています。




 たとえば、フロントのグリルは現状では必要以上に大きくて、一部をわざわざ塞いでいるのです。ですから、チューニング等で必要が生じたら開けてもらえばいいのです。フェンダー回りのスリットなども、ストック状態ではダミーですが、簡単に開けられます。




 デフにもね、ドレンボルトを設けてあるんです。そして手前にはスペースがあるので、デフクーラーも簡単につけられるはずです。




 エンジンフードを開ければ、いかにもタワーバーを付けてくれ、って感じでしょう?




 パーツメーカーさんとの情報共有も早い段階から進めていますよ。とくにスロベニアのね、アクラポヴィッチが開発したマフラーはすごいですよ。もう本当にいい音。たぶん、お値段もすごくなると思いますけれど(笑)。

 話をBMWとの共同開発に戻しますけれど、結局ね、スープラとZ4を合わせたって、たいした利益にはならないんです。だから新しいパーツをおこしてもペイできない。




 ですから、見えない部分で新型3シリーズと互換性のある部分も実は少なくないんです。……するとどういうことになりかすか? 遅かれ早かれ、M3が出るでしょう? そうなるとチューナーのみなさん、どうします? M3の純正パーツやチューニングパーツがスープラにも流用できないかと奮闘されるんじゃありませんか?




 いやはや、面白いことになりそうじゃありませんか。

 結局、話を戻したようで脱線したまま終わったような感じだが、Z4と共通する部分とスープラならではの部分について率直に語ってもらえたため、ずいぶんとスッキリした気持ちになれた。




 個人的には、「悪影響の少ないパーツをあえて最初に当たるようにデザインした」のくだりが心に響いた。かつてロータス・エスプリを所有していた頃、フロントエアダムのアンダーパネルを留めていた金具をあえて下方に伸ばし、センサー代わりにしていた記憶が甦ったのだ。




 二十代の若造の思いつきであったが、大メーカーの開発責任者も同じことを考えていたのだ。実際にスポーツカーを所有して、走り回っていなければ、こんなアイデアは出てこない。やはりスポーツカーは、こういう人に作ってもらいたい。
情報提供元: MotorFan
記事名:「 車高を低くしたらアゴを擦る? それならこうして解決! トヨタ・スープラ開発責任者の多田哲哉さんが激白「BMW Z4とはこんなに違う」