TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)
アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違い事故が続いている。池袋の事故も市原市の事故も、加害者は踏み間違いを認めていないが、踏み間違いを自覚して踏み間違えるドライバーなどいるはずはなく、いずれも状況証拠から、踏み間違いであると僕は見ている。
池袋の事故は20系プリウスなので、踏み間違い防止装置は装着されていなかったが、市原市のケースは50系プリウスなので、踏み間違い防止装置が作動しなかったか、解除されたかどちらかの可能性が高い。駐車料金を支払う際の急発進だから、遮断機のバーが降りているはずだが、それが超音波センサーの検出範囲から外れていたのかも知れない。暴走を開始した後も、直近にあったのは高さ70cmぐらいのポールと金網フェンスだったので、プリクラッシュブレーキシステムのカメラやレーダーでは検出できなかったか、ドライバーがアクセルを全開にしてしまったため、システムが「回避行動」と認識して制御を止めてしまった可能性もある。
また、池袋の事故のケースで誤発進防止装置が付いていたとしても、走行中の路上で起きた暴走なので、作動条件を満たさなかったと考えられる。すなわち現状のシステムでは、同様の事故は防げない、ということだ。
現在の衝突被害軽減ブレーキは、ドライバーがアクセルを深く踏んだり、ハンドル操作をしたりすると、システムが「回避操作が行われた」と判断して、制御を解除するロジックのものがほとんどだ。しかし僕は、以前から「それはアプローチの仕方が間違っているのではないか」と考えている。
ペダルを踏み間違えたドライバーは、アクセルペダルをブレーキペダルと信じて踏み込んでいるのだから、暴走し始めたら力の限り(ブレーキペダルだと思って)アクセルペダルを踏み込むだろう。それでシステムが解除になるようでは、何のために付いているのかわからないではないか。
ならば、かつて欧州のAT車に装備されていたようなキックダウンスイッチを付けておき、これを踏み抜いたらエンジン出力を絞り、同時に全力制動に入るというロジックにしたほうが、踏み間違い防止事故は防げるのではないか。
実はこのアイデアは、もう何年も前から、機会あるごとに各メーカーの担当エンジニアには提案しているのだが、ほとんどの回答が「意図的に全開にしなければならないケースもある」というものだった。例えば踏切に閉じ込められたケースで、踏み間違い防止装置が作動し続けると、踏切から脱出できずに列車と衝突する可能性が出てくる、という説明だ。
これに関しては、最近は「遮断機を押しのける程度のトルクまでしか出ないようにし、完全解除はしない」というシステムも出てきているが、踏切に閉じ込められるということは、遮断機の向こうにはクルマがいるはずで、アクセルを全開にして脱出しようと思うドライバーはいないと思う。対向車線などクルマのいないスペースにハンドルを切ってから、必要なだけアクセルを踏むのではないか。
あるいは、意図的に全開にするということは、それなりに冷静に操作できているということ。だからキックダウンスイッチが付いていたとしても、それを踏み抜くところまで踏み込むことはないだろうし、仮に踏んだとしても、ロジックを思い出して修正操作ができるのではないか。
大津市で起きた園児死亡事故の際にも、衝突軽減ブレーキは作動しなかった(または途中で解除になった)ようだが、例えばバンパーが破壊される程度の衝突が起きたら、自動的に全力制動するようなシステムにしたほうが良いのではないか。
急制動すると追突される可能性は出てくるが、それを言い出したら、衝突被害軽減ブレーキを作動させることさえできなくなる。それに、事故車両を道路内に止めることを優先したほうが、路外の歩行者を死傷させる可能性は減らせる。鉄の外皮で守られたクルマ同士をぶつけたほうが、生身の人間を跳ね飛ばすより総合的な被害は少ないはずだ。
ともあれ「できない理由」を考えるのではなく、もう一度、基本的なロジックを精査して、より安全を高めるアプローチ方法を再考するべきではないかと思う。