「几帳」とは平安時代の貴族が自身の姿を隠すために使用した間仕切りを意味する。几帳の柱に使われた角を丸め両側に刻み目を入れる特徴的な面取り(角を滑らかにする仕上げ)から、几帳面と呼ばれるようになった。緻密さが求められる細工であったことから、「几帳面だ」といえば、物事を正確に行なうさまを意味する言葉となっている。
センチュリーのボディでは、熟練の作業者の手で、わずかな面の歪みを修正しながらこの几帳面が仕上げられている。プレス機で加工されたボディパネル上の凹凸を微調整しながら、滑らかで精度の高いラインを生み出す。面を平らに仕上げていくサンダー掛けは、作業者の息継ぎさえも力の伝わり方に影響するほど、繊細な調整が求められる作業だ。
センチュリーのボディを仕上げるうえで、几帳面のラインがフロントからリヤまで段差なく合っているのは当然のこと。しかし高級車ゆえにドアが非常に重く厚いため、後の組立工程で内装品の重量が加わると、ドア後端が下がり段差が生じてしまう。
そのためまずは「戸上げ」と呼ばれる技法を使っているという。ドアが下がることを見込み、あえて段差を付けた状態で取り付けることで完成時に美しく見えるように調整することを意味する。
この作業の最後にボディが寸分の狂いなく仕上がっているかどうかを確認。すべてのボディパネル面に対して横から目視で確認する「透かし見」で品質確認を行なっている。
ボディカラーの設定は4色だが、なかでも代表的な色は新規開発のエターナルブラック「神威(かむい)」。独自の工程により、奥深い艶と輝きをもつ漆黒を追求した。
ひとつ目は塗膜層の多さ。一般的なクルマが4層構成であるのに対し、センチュリーは黒染料入りのカラークリアなど7層を重ねている。
これにより奥深い色味をつくり出す。ふたつ目は「水研ぎ」と呼ばれる工程。塗装と塗装の間で3回、塗装面の微細な凹凸を流水の中で研いでいき、滑らかで均一な表面に整えるのだ。塗装の下地を丁寧につくることが綺麗な仕上がりの要。そして最後に「鏡面磨き」によって、一点のくもりも残さないように仕上げていく。
ちなみに、新型センチュリーの生産開始前に作業者たちは、石川県にある輪島塗の工房を訪れたという。日本伝統工芸の漆塗りを学び、最高品質の漆黒を実現するうえで、平滑で艶やかな漆黒を生み出す漆塗りの技術を参考にするためだ。
このクルマを手にするお客様の多くはVIPの方々。彼らが後部座席から降りる際、ボディが上質な鏡となりさりげなく身だしなみを確認できるよう、センチュリーのリヤドア後方のピラーは鏡面仕上げになっているのも、センチュリーならではの心遣いだろう。
フロントシートの間に設置するタワーコンソールの取り付けも手作業で精密に行なう。シートとの隙間を均等にすることが肝要だが、熟練の作業者は左右への傾き度合いを感じ取り、タワーコンソールの傾きを調整するボルトを回して微調整。これは数値化できるものではなく、トヨタで「カン・コツ」と呼ばれている、作業者の感覚や熟練度への信頼で成り立つ工程だ。
最高品質を保証するために、最終検査は非常に重要となる。こだわりの塗装面は2種類の照明を使い分けて品質を検査する。まずは蛍光灯を当てて塗装面に反射する光の映り方を見ながら、面の歪みやキャラクターラインの通り方を確認する。
次に使うのは人工太陽灯。新型センチュリーでは屋外など、顧客の使用環境により近い状態で念入りに評価をするため、全生産車両に対して人工太陽灯による検査を行なうという念の入れ具合。時間と手間を惜しまず最高品質をつくり込むための検査だ。
このようにして生産されるセンチュリーの工場内には、「ヒストリーブック」が保管されている。生産された全車両に対し各工程を終えるたびに、担当者の名前や日時、検査結果が記録されている。手作業で時間をかけて誕生するまでの軌跡が大切に刻まれている。