TEXT◎鈴木慎一(SUZUKI Shin-ichi/MotorFan.jp)
初代のワゴンRが発売されたのが、1993年9月(平成5年です)だから、ヴィジョンA 93コンセプトとほぼ同時期だったのか、と調べながら思った。当時、クルマ好きにとって軽自動車は視界の外。ほとんで誰も気にしない存在だったと思う。ワゴンRの登場で、それが一気に変わった。とにかくこれまで見たことのないカッコ良さとユーティリティ、軽の概念を変えた1台だと思う。自分で買うことはなかったけれど、初めて「これなら自分で買ってもいいかも」と思う軽自動車だった。
アウディが1999年に発売したコンパクトカーがA2。変わったスタイルだが、びっくりしたのは「オールアルミボディ」だったこと。アウディのASF(アウディ・スペース・フレーム)を使った革新的なボディだった。97年に登場した初代メルセデス・ベンツAクラスのライバルだったわけだが、A2の方が「フツウ」じゃなかった。
Aクラスより200kg以上も軽量でディーゼル直噴エンジンを搭載。とはいえ、このクラスでオールアルミボディでは、超高コストは避けられず、おそらく売れば売るほど赤字が嵩むモデルだったのだろう。日本には正式輸入はされなかったが、好事家がたぶん個人輸入したA2を近所で見かける機会が最近まであった。セールス的には大失敗でも、記憶に留めるべきモデルだと思う。
欧州メーカーは、ときに振り子の思い切り振り切ったモデルを市場に投入する。前述のアウディA2もそう。どう考えても、儲かりそうもない。売れたら売れただけ赤字を増えそうなクルマも、将来の可能性にかけて敢えて作ってみる。そして、二代目モデルでは調整が入り、三代目モデルでは革新性は薄れるが商品性は高いクルマができあがる……というわけだ。
このi3もそういうクルマだと思う。アルミ合金製のシャシーにバッテリーをパッケージする、発電用の小さなエンジンを載せる、CFRP製のボディを被せる、CFRPの製造もクリーンエネルギーでやる……投入された技術は枚挙に暇がない。カッコイイとか走りがどうとか、値段がどうとか、ではないクルマ。BMWにとっては2020年代を電動化で生き抜くためのノウハウとイメージ作りのために、ぶっ飛んで作ったクルマなのだろう。
まもなく、平成が終わり令和が始まる。世界的に見たら日本の改元はあまり関係がないのかもしれない。しかし、日本国内は違う。きっと空気がガラッと入れ替わり、新鮮でびっくりするようなニューモデルが日本メーカーから出てくるはず。
「令和○年間で記憶に留めておくべきクルマ」について僕が書くことはおそらくないだろうけれど、来たるべき令和の自動車世界がよりエキサイティングであることを願っている。