メルセデス・ベンツ唯一のミニバン、Vクラスが大幅なフェイスリフトを受けた。今回のテーマは、ずばり「商業車の派生から乗用車へ」で、日本をはじめアジア市場で覇権を握っている日本製ミニバン、とりわけアルファードやヴェルファイアなども意識して開発されたという。スペインはバルセロナ近郊で開催された国際試乗会からレポートをお届けする。




TEXT●山本シンヤ(YAMAMOTO Shinya)

商用車の派生から乗用車への進化

 メルセデス・ベンツと言うと、多くの人は「高級車ブランド」をイメージするが、実は商用車や特殊車両、軍用車両まで幅広いモデルを扱う総合自動車メーカーである。




 そんな幅広いラインナップの中、唯一のミニバンが「Vクラス」だ。1998年に初代が登場して以降、欧州のミニバン需要をけん引してきたモデルで、現行モデルは2014年に登場した三代目。開発は商用車部門が担当しており、「華やかさ」、「スポーティ」な乗用車系とは違い、「質実剛健」、「実用性重視」と昔のメルセデス・ベンツの匂いが残されている。




 ビジネスユースがメインの欧州ではそれで問題ないが、日本のミニバン文化が伝わったアジア圏では大きなウィークポイントになっていたのも事実である。この地で爆発的な人気を誇るのは、「アルヴェル」ことトヨタ・アルファード/ヴェルファイア。現行モデルはミニバンと言うより「大空間の高級車」と呼ぶにふさわしい一台で、アジア圏では高級リムジンと同じステイタスが与えられるほど。




 Vクラスも販売されているが、アジアでは残念ながら成功しているとは言えない。しかし、「今後も拡大予定の市場は無視できない」ことから、初の大幅改良を実施。開発のテーマはズバリ「商用車の派生から乗用車への進化」である。

 エクステリアは開口部が拡大されたフロントバンパーやLEDヘッドライト、新デザインのアルミホイール(17/19インチ)を変更。最新のメルセデス・ベンツのデザイン言語を盛り込むことで“力強さ”がアップ。更にスポーティなルックスのAMGラインはダイヤモンドグリルやクローム装飾で“スポーティさ”や“華やかさ”もプラスされている。




 インテリアはインパネデザインが変更され、タービンルックのエアベントや装飾パネルなどによりスポーティイメージがプラスされているが、インターフェイスは最新ではなく従来のままでフル液晶メーターや新ステアリングスイッチ、MBUXなどは採用されず。開発の優先度があると思うが、メルセデス・ベンツにとっては、まだミニバン=パーソナルユースではないのかもしれない。




 しかし、今回の最大のポイントは2列目にオプション設定される「ラグジュアリーシート」の採用だろう。大型キャプテンシートには、アームレスト/エアクッション付ヘッドレスト/オットマン/シートヒーター&クーラー/マッサージ機能など、Sクラス譲りのアイテムを水平展開。加えて、クーラーボックスや保温機能付カップホルダーと言った快適装備も用意されている。

 パワートレインはガソリン/ディーゼルが用意されるが、ガソリンは変更なし。一方、ディーゼルは従来の2.2Lターボ「OM651」から2.0Lターボ「OM654」に刷新。このエンジンは2016年にEクラスに導入されて以降順次採用が行なわれているエンジンで、オールアルミ製で軽量(OM651比で約35kg)、低フリクション(シリンダー内部の「NANOSIDE」採用や新形状ピストンなどで25%低減)、2500バールの第4世代コモンレールインジェクションの採用などにより、燃費(従来比13%アップ)や環境性能(Euro 6d TEMP)を実現しながらパフォーマンスもアップしていると言う次世代ユニットだ。3つの仕様が用意されており、「V220d」は163ps/180Nm、「V250d」は190ps/440Nm、「V300d」には239ps/500Nmとなっている。




 また、トランスミッションも変更されており、従来の7Gトロニックから軽量/コンパクト設計の9Gトロニックを採用している。




 予防安全技術の充実もポイントで、アクティブブレーキアシスト/ハイビームアシストプラス/ブラインドスポットアシスト/レーンキーピングアシスト/プリセーフ/アクティブパーキングアシスト/エマージェンシーコールシステム/アテンションアシスト/アクティブディスタンスアシストディストロニック/トラフィックサインアシスト/インテリジェントライトシステム/クロスウィンドアシスト/360°カメラと、現在のクルマに必要であろうデバイスはすべて用意。




 なかでも横風を認識して車線に留まるようにサポートするクロスウィンドアシストは、ボディ形状が不利なミニバンにはありがたい機能だ。

ミニバンのメルセデスではなく「メルセデスのミニバン」

 今回、ひと足先にスぺイン・バルセロナ近郊の一般道、高速道路、ワインディングで試乗を行なってきた。いきなり結論になるが、新型は「ミニバンのメルセデス」から「メルセデスのミニバン」に変貌していた。




 パワートレインはターボラグをほとんど感じない全域トルクフルな特性と荒々しさが消えた滑らかなフィーリングに加えて常にトルクバンドをキープする9Gトロニック、そして室内にいる限りはディーゼルを感じさせない静粛性と低振動を実感。これはエンジン単体の進化や多段化されたATに加えて、車両各部に効果的に配置した遮音/吸音アイテムも大きく寄与しているはず。




 パフォーマンスは220dで十分以上で、最もハイパワーなV300dはフル乗車にならない限りは「パワー有りすぎ!!」と思ってしまったくらい。個人的にはVクラスのキャラクターを考えると250dがベストバランスだと思う。




 シャシー系の変更は“公式”にはないが、確実に進化をしている。具体的には良く言えば穏やか、悪く言えばダルさがあったハンドリングが精緻になっている。




 ギヤの精度が上がったかのように正確さが増したステアリング系、ボディサイズや車両重量を感じさせない身のこなしとライントレース性、やや硬めだがアタリが優しく収まりが良いしなやかな足回りなどが挙げられる。ちなみにワインディングではキビキビした動きではないものの、4つのタイヤを効果的に使う……と言う意味では乗用車と同じ味を感じたし、高速道路での直進安定性の高さにも正直驚いた。




 サスペンションセットはコンフォートサス/スポーツサス/アジリティコントロールサス(走行負荷に応じて減衰力を可変)の3タイプが用意されるが、ハンドリングと快適性のバランスが最も良かったのはアジリティコントロールサスだ。ちなみに2列目の試乗もしてみたが、アルヴェルと比べるとややコツコツ感はあるものの、目線がブレないのとシート&シートレールの剛性が高いので無駄な振動も伝わないので快適性は非常に高い。ただ、これ以上となると電子制御ダンパーが必要になってくると思う。

 試乗後、エンジニアに走りの印象を伝えたら、「エンジン/トランスミッションで前後バランスが良い方向になった結果でしょう。サスペンションは従来モデルから変更していませんが、“匠の技”は入っています」と語る。つまり、走りの味付けは従来モデルから変更していないが、エンジン/トランスミッション変更に合わせた微調整をしているのだろう。




 さらに驚いたのは、「新型を開発する際に『トヨタ』を強く意識した」、「現地法人からのフィードバックを反映している」と。つまり、アルヴェルをベンチマークにしたと言うのだ。日本のミニバン文化が、あのメルセデスを動かしたのである。ちなみに開発陣は「Vクラスには四輪駆動(4MATIC)も用意されている」と言うが、筆者が「日本には三菱デリカD5というSUVとミニバンのクロスオーバーがありますよ」と写真を見せるとビックリしていた。さらに上海モーターショーでお披露目された「レクサスLM」の情報を伝えると、「もっと研究する必要がありますね」とも……。




 日本導入は年内ギリギリ、もしくは来年初頭の予定と言われている。上記のようにアルヴェルと“ガチ”で戦える実力を持っているので、気になる人は待ったほうがいい。

メルセデス・ベンツ マルコ・ポーロ 250d


全長×全幅×全高:5140×1928×1980mm ホイールベース:3200mm 車両重量:2487kg エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 総排気量:1950cc ボア×ストローク:82.0×92.3mm 最高出力:140kW(190ps)/4200rpm 最大トルク:440Nm/1350-2400rpm トランスミッション:9速AT 駆動方式:FR フロントサスペンション形式:マクファーソンストラット リヤサスペンション形式:セミトレーリングアーム 乗車定員:5名 タイヤサイズ:225/55R17

情報提供元: MotorFan
記事名:「 新型メルセデス・ベンツVクラスはアルファード&ヴェルファイアも意識していた!〈海外試乗記〉