縦置きもしくは全輪駆動のスポーツカー用に開発された8速デュアルクラッチ・トランスミッション(8DT)は、ダイナミックなギヤチェンジを可能にする。ZFは現在、この8DT用のプラグイン・ハイブリッドをオプションとしてポルシェと共同開発中。100kWのパワーと400Nmのトルクを発生し、最高時速140kmにモーター走行のみで到達させる性能を発揮する計画だ。トーションダンパー、アクチュエーターとモーターを含む分離クラッチは、8DTのクラッチ・ベルハウジングに収められている。全輪駆動向けの場合には、トランスファーもこのトランスミッションに統合されている。走行状況に応じて、トルクをフロントアクスルに伝える。
一方で、ZFの電動アクスルはトランスミッションではなくアクスルに直接作用する設計になっている。「プラグ-アンド-ドライブ」コンセプトによって、モーター、ディファレンシャルと連動するための平歯車による2ステージ・シングルスピードギア、パーキングロック、ハウジング、クーリングユニット、インバーターおよび制御ソフトウェアなどの主要コンポーネンツがコンパクトなモジュールの中に収められている。トランスミッション、モーター、インバーターを一つのシステムとして統合し提供するノウハウは、自動車メーカーとのビジネスを行う上でのZFの強みだ。ZFの電動アクスルは最大150kWの出力と3,500Nmの軸トルクを発生する。例えば、ZFの「mSTARS」(modular Semi-Trailing Arm Rear Suspension = モジュラー・セミ・トレーリングアーム・リヤサスペンションの略)モジュラー・リヤアクスル・システムをエンジン付きFF車両のリヤに装着すれば、アクスルハイブリッド車両および電動全輪駆動車両に変換することができる。また、ZFの「eAMT」(electrified Automated Manual Transmission = 電動自動変速マニュアルトランスミッションの略)コンセプトは、自動変速マニュアルトランスミッションにおいて発生するシフトチェンジの際の動力切断を補うことができるため、現状では非常に複雑なハイブリッド構造によってのみ可能な、スムーズで力強い加速を実現する。
ZFは、商用車にも電動化技術を用意している。「TraXon(トラクソン)ハイブリッド」オートメーテッド・トランスミッションは、40トントラックやバスの燃費を7%向上させることができる。エンジンとトランスミッションの間に取り付けたモーターは、最大で130kWの出力と1,200Nmのトルクを発生。TraXonハイブリッドはディーゼルエンジンと組み合わせての長距離輸送に適しているが、都市中心部やバス停留所周辺において騒音と排気ガスのない輸送手段としてもメリットがある。また、発電モード時には例えば冷蔵コンテナへの電力供給源としても活用できる。さらに、完全電動走行だけでなく、回生、ブースティング、アイドリングストップなど一般のハイブリッド機能も備えている。このトラクソンハイブリッドは、2019年よりDAFに供給が開始される。
ZFは、電動車両用のパワートレインもハイブリッドドライブと同様、幅広い製品ラインナップをそろえている。ザックス・ミクロ・モビリティ社との合弁事業を通じて、超小型車両分野への進出を計画している。例えば、電動アシスト自転車や電動バイク用の「ザックスRS」コンパクトモーターは、その他の用途への活用が可能。最高出力700ワット、最大トルク110Nmを発生するこのモーターは、毎分60回程度のペダル回転時においても太いトルクを発生しインテリジェントな冷却システムによってその性能を長時間保つことができる。また、モーターが作動しない時は、2つのワンウェイクラッチが抵抗の発生を抑える。
こうした超小型電動ドライブを開発する一方で、ZFは電気自動車によるモータースポーツ、「フォーミュラE」に参戦するヴェンチュリーチームへのパワートレイン供給も行っている。インバーター、新開発のレース用ディファレンシャルおよび高精度のトランスミッションと組み合わされた最高出力250kW(レギュレーションによって規定されている)のモーターが、レースカーを最高時速280キロで走らせる。また、このトランスミッションは初のシングル・スピード・コンセプトにより、昨シーズンのものと比較すると40%の軽量化が図られている。このパワートレインは、モータースポーツ専用にZFが開発した最初の電動アクスルだ。
最高出力150kW、最大トルク3,500Nmを発生する電動アクスルモジュールは欧州の自動車メーカー向けに2019年に量産が開始される。フロント、リヤ、どちらにも使用可能なこの製品は、バッテリー使用の電気自動車、燃料電池車およびハイブリッド向けに理想的なシステム。また、既に「ZFビジョンゼロ・ビークル」コンセプトカーや、今年量産が始まる電動シャトル「e.GO Mover」に搭載されて走行を重ねており、性能は実証されている。
「アドバンスト・アーバン・ビークル」にも、ZFの小型電気自動車用パワートレイン技術が使われている。このコンセプトカーには、ツイストビーム式リヤアクスルの左右両側のホイールに出力40kWの小型駆動ユニットが取り付けられたZFの「eTB」電動ツイストビームが取り付けられている。また、このeTBは左右のリヤホイールにそれぞれ異なる駆動力をかけることができるため(トルクベクタリング)、アドバンスト・アーバン・ビークルの75度という前輪の最大切れ角と相まって小回りの良さを実現している。
ZFのインテグレーテッド・クローズ・トゥ―・ザ・ホイールコンセプトを採用した「AxTrax AVE」電動ポータルアクスルは、既に都市部を走る低床バス向けに量産されている。それぞれ最高出力125kW、最大トルク11,000Nmを発生する2基の水冷非同期モーターが、都市内における走行ニーズに対応する。最高レベルの効率性能を実現し、電気での航続距離を最大限にするため、ZFはAxTrax AVEをインバーターおよび駆動制御システムと完全統合している。この電動ポータルアクスルは、シリーズハイブリッドおよび、バッテリー、燃料電池または架線を使用したハイブリッドおよびフル電動車両に対応する。
低床および一般バス向けには、CeTrax電動セントラルドライブも供給している。300kW、4,400Nmを発生するこの製品は、重量と効率性を含め、高い性能要求に応えられるよう設計されている。「プラグ・アンド・ドライブ」アプローチによって、CeTraxはシャシ、アクスル、ディファレンシャルなど既存の車両プラットフォームに大幅な変更を加えずに組み込むことが可能で、エンジン搭載モデルの電動バージョンを比較的容易に生産することができる。インバーターと駆動制御システムも統合しており、完成車メーカーには動力性能、効率、メンテナンス面を最適化したシステムとして提供する。
「CeTrax lite」は7.5トンまでのバンおよび小型商用車向けの製品で、150kWの最高出力と380Nmの最大トルクを発生。重量はシングル・スピード・トランスミッションを含め、120キロに抑えられている。19トンまでの車両向けには、「CeTrax mid」を用意。並行に並べられた2基の非同期トラクションモーターが発生する300kW、760Nmを、2ステージ・パワーシフト・トランスミッションがタイヤに伝える。
農業および建設機械分野でも、ZFは電動化を進めている。「eTRAC」電動ホイールヘッドは、高出力密度の水冷3ステージ非同期モーターとブレーキが内蔵された2ステージ・トランスミッションから構成されるシステムで、トレーラーや様々なアタッチメントに対応した農業機器などへの活用が可能だ。連結車両が駆動力を持つことには多くのメリットがある。コントロールされた駆動配分によって、例えば悪天候下や濡れた土壌の上でも耕作を行うなど、難しい条件下での作業を容易にすることが可能。さらにトレーラー自身が駆動力を持つことで、トラクターに要求される駆動力も少なくなる。従って、より大きなアタッチメントを動かして生産性の向上を図ったり、トラクターのサイズを小さくして燃費を低減したりすることができる。
このモジュラーシステムは、そのほか様々な車両への活用が可能だ。例えば、簡単に組み付けが可能なオールインワンタイプのモジュールによって、高効率で静かな電動フォークリフトが製造できる。さらにZFは、船舶、鉄道、産業機器向けにもハイブリッドや電動ソリューションを提供している。