F30:320d Sport(2018年モデル)140kW/400Nm 1550kg
G20:330i M Sport(2019年モデル)190kW/400Nm 1630kg
ディーゼルとガソリンなのに、最大トルクが同じなのは驚きである。車重が320dのほうが軽いのが意外、一般的にDE車はガソリンモデルに対してNVH対策のために防音材をたっぷり詰め込み、重量が増していることが多いからだ。
プレゼンテーションによれば、G20型は同一仕様比較で55kgのダイエットを果たしたという。ならばG20の320dが登場するときに数字を比べてみては——といきたいところだが、日本仕様は320d xDriveのみが導入されるという。というわけで、本国仕様の数字で比較してみると、F30の320dが1430kgなのに対して、G20の320dは1450kgと、やはり少々ウェイトが増していた。
ならばギヤリングはと調べてみると、以下のような数字が得られた。
トヨタ・新型スープラのトランスミッションは、最新世代のZF製8速AT。新型G20型3シリーズと同じトランスミッション
ご存じ、G20型3シリーズに搭載されているのはF30型と同じくZFの8速AT「8HP」なのは共通なのだが、世代が新しくなり高効率化しているのが特長。数字を眺めてみれば、ファイナルギヤレシオが同じことから、ロー/セカンドギヤがローギヤードの330iのほうが出足に優れそうだ、というのがわかるだろう。
——という数字の予習からだけではわからないのがクルマの面白いところ。実際、スペックからは少々分が悪そうな320dは、330iと遜色ない発進性能を発揮した。
西湘バイパスは、合流時に一時停止させるという劣悪な構造。本線を制限速度70km/h(以上)で走ってくるクルマに負けないよう、短い合流車線で思い切り加速しないと後突されてしまう恐怖に見舞われる。しかしさすがに最大400Nmを減速比14以上で加速させる320dのこと、まったく不安を覚えることなく合流に成功している。もちろん、330iでも同様の感想だ。
往路は大磯ICから箱根方面に向かって西湘バイパスを走る。ご存じの方もいらっしゃるかもしれないがこの西湘バイパスの下り方面は路面がひどく、比較的高速域におけるクルマの性質をあぶり出してくれる好適路だ。コンクリート路面の荒さ、頻繁に続く継ぎ目、狭い路幅に左右旋回と、盛りだくさん。しかし320dはそのような状況にあっても、非常に快適なドライブ環境を提供する。先述のNVH対策が功を奏しているのか、そもそもシャシーセッティングが上手でボディの出来がいいのか。路面のザラザラはキャビンに届かないうちにマスクされ、継ぎ目を越えたときの鋭い入力はタイヤと緩衝装置によってすぐに収束。もちろんそのたびにハンドルが取られるという不始末もなく、ドルン!ブルン!とこともなげにクルマは進む。非常に快適である。
ターンパイクに着いて、330iに乗り換えた。登坂に急旋回が連なる高ストレス路にもかかわらず、330iのパワートレインはよどみなく威力を発揮した。さすがに3000回転くらいをキープしているとタービンも十分に仕事をしているからか過給ラグなどは発生せず、シフトアップ/ダウンも応答性は高い。当然だろう。
330iで強く印象に残ったのはステア特性。中立から少し舵を切っただけですぐにクルマの鼻先がそちらを向くセッティングで、なるほどこれはターンパイクのようなステージなら猛烈に気持ちがいいわけだ。ちなみに車検証記載によれば前後重量配分は51:49(830:800kg)である。
しかしいっぽうで、帰路の西湘バイパスを制限速度(70km/h)で走っているときには、このステア特性が少し神経質な気がした。タイヤもM Sport仕様だけに225/40R19のランフラットという仕様、空気圧は前後270kPa指定のところ、310kPaだったこともこの印象に結びついているかもしれない(銘柄はブリヂストン・トランザT005)。トレッド剛性が高く、RFTだけに縦ばね特性も硬めの性質だけに、路面のザラザラや凹凸はどうしても拾いやすいだろう。
ただし、空気圧を高く設定してあったのは、試乗会会場が箱根に近かったこと、テスターの多くがターンパイクにクルマを持ち込むことが想像できたことなどを考えれば、正しいセッティングだったとも言える。このあたり、標準仕様の225/50R17(230kPa)だとどのような挙動を示すのか、大いに興味がある。
2台を同時に乗り比べられたことで、2車の性格の違いがよくつかめたのは幸甚だった。新型車には、フルモデルチェンジだからこそ盛り込める最新装備やシステムが盛りだくさん。事実、G20型にはドライバーアシスタントやインフォテインメントなど、非常に有用であろう機能が多く盛り込まれた。それらの恩恵を受けるべく、330iを購入するのは大いに首肯できる選択だ。近い将来登場するであろう340i(という名称になるだろう)の6気筒版に比べれば前軸重量が軽く、先述の目覚ましいステア特性を高出力で楽しむという方にはもってこいである。
いっぽうで、巷間言われる「最終型を手に入れる」という選択にも正当性があると感じる。使い続けて多くの知見を踏まえてきたボディやシャシーについて対策を講じてきた最終型には、間違いのないエンジニアリングに満ち溢れている。実際、初めて320dを運転した初年度の印象とMY18の320dのそれはまったく異なり、今回のドライブの静粛性と滑らかさには舌を巻いたくらいである(N47/B47というエンジンの違いはあるにせよ)。