前述の通り“ハイ! メルセデス”と声を掛けて、クルマと会話をするだけで各種の操作が行えるMBUXという飛び道具的先進装備につい目を奪われがちになるが、新型Aクラスはクルマとしての性能も確実に高められていた。
メルセデス・ベンツにとって「安全」は最重要項目。件のMBUXにしても、エンターテイメント機能ではなく、より安全にクルマを走らせるためのツールであると考えられる。
そのほかにも、インパネのデザインやサスペンションセッティングなど、随所にメルセデスの安全に対する哲学を感じるものだった。
以下、各パートに分けて新型の特徴をお伝えしよう。
エクステリアのデザインについては先代のイメージを残しつつ、よりスタイリッシュになった印象を受ける。
さらに、フロントスポイラーなどのボディパーツやスポーツホイール、マルチビームLEDヘッドライトなど多岐に渡るアイテムがセットになった超お買い得オプションの「AMGライン(25万5000円)」を装着すれば、よりスポーティなイメージを付加できる。このオプションはぜひ付けたい。
新型Aクラスのボディは、デザイン性だけではく空力性能が向上され、こちらも空気抵抗低減による静粛性や燃費の向上に貢献している。また、ボディとサブフレームが完全新設計され操縦安定性のみならず、振動や騒音も低減されて快適性の面でも進化を果たした。
実際、静粛性については空力効果によって高速走行時でも風切り音は感じることはない。ロードノイズや追い越し加速の際のエンジン音はそれなりに入ってくるが、普通の大きさの声で前後席間でも会話でき、十分に静粛と言えるレベルだろう。後席の居住空間は先代よりも拡大さている。
室内に目を移すと、すっきりとモダンなデザインで上質感が増した。注目点はドライバーの目前に幅広く鎮座する横長なタッチスクリーン式のセンターディスプレイだ。目前の速度計やタコメーター等を表示するメーターエリアから途切れることなくつながるディスプレイ左側のエリアで、ナビやオーディオほか各種機能の操作を行える。
これらの操作はディスプレイを直接タッチしてもできるが。センターコンソールに設置されたタッチパッドでも行なうことができる。
その画面はクッキリと見やすいし、何しろカッコいい。
そして、ここで強くお伝えしたいのがタッチパッド操作性の良さ。手前のパームレストの存在と大きさと形が良いのだろうが、今まで体験したこの手の装備の中で一番操作がしやすいと感じた。
クルマによってはカーソルが動き過ぎたり、保持安定しなかったりするが、このクルマに関してはそういったストレスは一切感じなかった。
ディスプレイの下に位置する空調系のスイッチもシンプルで使いやす。すっと手を伸ばした先。“あるべきものが適正な位置にある”といった感覚。もっとも、後述するMBUXを装備すれば、このスイッチは使わなくなってしまうのだが……。
内装の見た目については、外装の「AMGライン」に追加する形で発注可能な「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(20万4000円)」を装着すると、その様相は小さな高級車へと変貌する。本革ツートンシートと、64色に調整可能なアンビエントライト、アルミニウムインテリアトリムがセットになっている。
ジェットエンジンのタービンがモチーフというエアコンの吹き出し口もピアノブラックからアルミ基調となりグッと高級感が高まる上に、そこにアンビエントライトの光が反射することで妖艶な美しさが演出される。
これは脱Cセグメントのキラーアイテム。予算に余裕があれば選択したい。
さらに、ここでもうひとつ強調しておきたい美点が、ハンドル調整のチルト(上下調整)機構とテレスコピック(前後調整)機構の調整幅が圧倒的に広いこと。欧州車は全般に調整幅が広いが、新型Aクラスも同様。
特にテレスコピックの調整量は、国産車ではもっとハンドル位置を手前にしたいと思ってもできないことが多いのだが、そんな問題はまったくない。小柄なドライバーでも不足なく好みのポジションをとることができるはずだ。
安全運転は的確な操作ができる、的確な運転姿勢があってこそのもの。ペダルやハンドルの位置に妥協しなくても良いのは本当にありがたい。
エンジンは新開発の1.4ℓの直列4気筒 DOHC直噴ターボ。先代よりも11%出力向上が図られている。
136ps/20.4kg-mのパワー&トルクは、特別パワフルとか高級感があるといったものではないが、7速DCTと組み合わせられ不満のない加速を披露してくれる。
だが、不満ではないがターボエンジン+DCTというイメージからすると、個人的にはもう少し俊敏な加速をしてくれるとうれしいとは感じた。トップエンドのパワーが足りないといった感じではなく、そこに到達するまでの過渡特性が穏やかに感じたのだ。
まあこれもハンドリングと同様で、誰が乗っても不安を感じることのない穏当な制御と考えれば納得できる。
これは後席からも操作できるので、ドライバーの手を煩わせることなくパッセンジャーが操作することもできる。さらに、運転席と助手席も認識するので、左右独立の温度調整も可能となっている。
機能によってはこちらの要望を理解させるのにコツがいるような印象も受けたが、それを探るも楽しい行為かもしれない。
このあたりの機能紹介はメルセデスのwebサイト新型Aクラスのページに具体例の動画がアップされている。百聞は一見にしかずなので、ご覧いただきたい。
視線も手も離さずにエアコンやオーディオの操作ができるという事実が、安全性を重んじるメルセデス・らしさという所だろうと思う。
新型Aクラスとのカーライフは、違和感のない自然体で居られる乗り味と、メルセデスの哲学に守られた安全性が魅力のクルマであった。
憧れのスリーポインテッドスターのエンブレムに満足感を感じる人も多いとは思うが、自分のためにメルセデスを選ぶ人はもちろん、大切な人のために安全性の高いクルマが欲しいと考えてメルセデスを選ぶ人にも打ってつけのクルマだと言える。
エントリーモデルであるだけに、装備を抑えれば382万円からこのメルセデスの安全哲学に触れることができる。ファーストカーとしてもセカンドカーとしても、選んで後悔することがない一台と評価できる。