TEXT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
これまでV8には少しだけ乗ったことがあったが、直4はない。ということで、今回のJAIA試乗会では初めて直4モデルであるLT RSローンチエディションに乗ることになった。
スペックをざっと比較すると、V8はOHV 6.2Lで最高出力453psと最大トルク617Nmを発生するのに対し、直4はDOHC 2.0Lターボで275psと400Nmを発生する。その差は歴然としているが、とはいえ275psと400Nmもあれば、公道で無法者になるには十分である。
自動車専用道に入り、アクセルを軽く踏みつけると一瞬にして制限速度に達し、慌ててアクセルを戻す。回転フィールもスムーズで、直4に乗っている限りV8の必要性を感じる場面はない。「直4でも十分じゃないか」と達観するのではなく、存分に飛ばして楽しめるクルマなのだ。
試乗後、GENROQ編集部の撮影を手伝うことになり、彼らが借りているV8のカマロに乗って移動する場面があった。もちろんアクセルを床まで踏んづけたりすれば、その加速力は直4と比べるまでもない。
だが途中であることに気がついた。先ほど直4に乗っていたときよりも、自分はなぜかゆっくりと運転しているのだ。V8のありあまるパワーを路面に叩きつけることもなく、ただただユル〜リとトルクの波に身を委ねていたのである。
そう、V8は直4よりもゆっくり走れるのだ。
「走れる」って、そんなもん直4でもゆっくり走ればいいだけの話じゃねぇか。いやもちろんそうなのだが、クルマというものは不思議なもので、エンジンのキャラクターの違いはドライバーの走り方まで変えさせてしまうほどの力を持っている。少なくとも筆者はそう思う。
だとしても、なぜパフォーマンスに勝るV8のほうがノンビリ走りたくなるのだろうか?
その答えは、燃焼間隔と排気干渉にありそうだ。
ご存知の通り、直4エンジンは一部の例外を除いて等間隔燃焼だ。一方のV8エンジンも等間隔燃焼だが、カマロを含む一般的なクロスプレーンの場合、片バンクずつわけて見ると不等間隔燃焼になっていて、そこで排気干渉が起こる。V8ならではのドロドロとした回転フィールやエキゾーストノートは、これによって生み出される。
ちなみにカマロのV8には低負荷時のシリンダー休止機構が備わっているが、燃焼間隔が変わることのないように休止シリンダーを設定しているので、そのドロドロ感は8気筒から4気筒に切り替わっても見事に変わることがない。
そして、この不等間隔燃焼というのは、ドライバーにトルクやトラクションを感じさせやすい。だからユル〜く走っていても、ドライバーにはエンジンを回しているという実感があり、とくに飛ばさなくても満足を得やすいのだ。これは感覚的な話にとどまらず、レースの世界でも用いられている理論である。
一方の直4や直6、そしてフェラーリのようなフラットプレーンV8などでは、回せるだけ回したくなる傾向がある。今回の直4カマロもまさにそれで、実際に高い動力性能を備えていることも相まって、けっこうな飛ばし屋になってしまうのだろう。
もちろん燃焼間隔や排気干渉だけがエンジンのキャラクターを決めるわけではないので一概には言えないが、少なくとも今回の両カマロには、その特徴が顕著に表れていた。
V8はハイパフォーマンス、直4は必要十分、という認識は、もう古いのかも知れない。間違っているわけではないが、V8にはスペックだけでは計れない魅力があり、直4はスペック面でも満足できるレベルに達している。
とはいえ、そのV8の魅力が「ゆっくり走れる」ところにあったとは、つくづくクルマというものは奧が深く、乗ってみなければわからないものである。
シボレー・カマロ LT RS ローンチエディション
全長×全幅×全高:4785×1900×1345mm ホイールベース:2810mm 車両重量:1560kg エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー 総排気量:1998cc ボア×ストローク:86.0×86.0mm 最高出力:202kW(275ps)/5500rpm 最大トルク:400Nm/3000-4000rpm トランスミッション:8速AT フロントサスペンション:マクファーソンストラット リヤサスペンション:マルチリンク ブレーキ:ベンチレーテッドディスク タイヤ:245/40R20 車両価格:561万6000円