これまで、アナログ信号処理と伝送データをソフトウェアで解析する処理を組み合せたOAMモード多重無線伝送の実験が報告されていた。今回、NECはリアルタイムデジタル信号処理回路を開発したことで、世界で初めてE帯(71~86GHz)という高い周波数帯で、8つのOAMモードを多重化し、256QAM変調した状態で40m伝送する実験に成功した。実験では、変調速度(注2)115M baud で、7.4Gbps(8モード×8ビット×115 Mbaud)の伝送容量を実現している。OAMモード多重無線伝送を行うには、送信側で複数のOAMモードを生成して多重化し、受信側でモードを分離して情報を取り出す必要がある。今回開発したデジタル信号処理回路により、OAMモードを高精度に生成・分離可能となり、高い周波数利用効率(注3)を実現した。
今後は、今回開発したOAMモード8多重と、偏波多重技術(注4)を組み合わせて16多重伝送を実現し、128bps/Hz(8モード×2偏波×8ビット)の周波数利用効率を目指して研究開発を進める。また2019年には、より高い周波数帯であるD帯(130~174.8GHz)において実用化の基準となる100m伝送の実現を目指す。さらに、デジタル信号処理部のLSI化と帯域幅の1GHzへの拡大により100Gbps以上の伝送容量を実現し、5G基地局のバックホール回線や、CU(Central Unit:集約基地局)-DU(Distributed Unit:リモート局)間のフロントホール回線への適用を目指す。
なお、本研究開発は総務省委託研究「ミリ波帯における大容量伝送を実現するOAM モード多重伝送技術の研究開発」により実施されたもの。
(注1) 2018年12月19日現在。NEC調べ。
(注2) デジタル変調方式では、一定の時間間隔で送信シンボルを切り替えるが、その切り替えの間隔の逆数のこと(単位はbaud:ボー)
(注3) 帯域幅1Hzあたりの伝送容量。数値が大きいほど、電波の利用効率が高いことを示す。
(注4) 垂直方向と水平方向の電波を多重化すること。双方は互いに干渉しないため、無線伝送の容量を拡大する技術として従来から用いられている。