REPORT◎吉田拓生(Takuo Yoshida)
PHOTO◎小林邦寿(Kunihisa Kobayashi)
選ぶとしたら、さぁどっち? と言われたところで迷う人はあまり多くはないだろう。
21世紀に至ってもなお頑強なラダーフレームを持ち、ともに屈指のオフローダーとして歴史を積み重ね、フルモデルチェンジのタイミングも偶然一致したが、しかしまったく別の価格帯において、それぞれの道を走破してきた2台。ジープ・ラングラーとメルセデス・ベンツGクラスである。
Gクラスは39年ぶり、ラングラーは11年ぶりのフルモデルチェンジとなるが、ちゃんとこのクルマのことを意識している人じゃないと新型と従来型を見分けるのは難しい。シルエットに関してはほとんど変わっていないにも拘らず、中味がことごとく刷新されているのである。
クルマのデザインは、機能に先んじて販売に直結するようなところがある。つまり今回、2台のシルエットはアイコンのように認知されており、大胆に変えてしまうことなどまかりならん、というわけである。変えちゃいけないけれど、変わっていなきゃいけない。こういうタスクはデザイナーにとって難しい。
ドアハンドルとリヤのスペアタイヤカバー以外はすべて変わっているというGクラスだが、見た目のトピックはダッシュパネル周りが一気にモダンになったインテリアにある。一方ドライバビリティではフロントサスペンションがリジッドから独立懸架にしたことでターマックとの親和性が驚くほど高まっている。元来Gクラスを選ぶ人は、やせ我慢をしてクラシックカーに乗りたいわけではなく、中味に凝った王様級のメルセデスを転がしたいのだから、これはありがたい。
従来のGクラスのインパネは、古いデザイン上に新開発されたギミックを長年追加し続けた感じで、ダッシュの上にちょこんと載せられたモニターや「高級車だったらこれくらい付けとかなきゃ」みたいに散りばめられたウッドパネルの後付け感が苦しかった。
その点新型はエアコンの噴き出し口の形状からダッシュパネル、センターコンソールにいたるまでデザイナーがゼロから理想を求めた感じが素晴らしい。セダンのように滑らかな曲線が連続しているわけではなく、そこそこの不協和音を敢えて盛り込んでいるあたりにオフロード特有のダイナミックさが薫る。
一方独立懸架の前脚を得たことによるドライバビリティの向上は想像以上だ。何しろワインディングでステアリングを切り込んでいくと、昔のEクラスのようにキレイなダイヤゴナルロールがはじまり、自信を持ってコーナーに切り込んでいける。またS字コーナーのようなロールを左右に切り返すようなシーンでも、滑らかになったステアリング系統のおかげでインフォメーションが途切れ、車体がふらつく瞬間もなくなっている。
メルセデス・ベンツG550
■ボディスペック
全長(㎜):4817
全幅(㎜):1931
全高(㎜) :1969
ホイールベース(㎜):2890
車両重量(㎏) :2354
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量(㏄) :3982
最高出力:310kW(422㎰)/5250〜5500rpm
最大トルク:610Nm(62.2㎏m)/2000〜4750rpm
■トランスミッション
タイプ:9速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ダブルウィッシュボーン
サスペンション リヤ:リジッド
■ブレーキ
フロント:ベンチレーテッドディスク
リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:275/55R19
リヤ:275/55R19
■環境性能
燃料消費率:12.5(ℓ/100km:EU複合モード)
■車両本体価格:1562万円
【特集】ハイエンドSUVの世界
ロールス・ロイス初のSUV、カリナン
新生代ポルシェ・カイエンSを試す
不朽の名作、メルセデス・ベンツGクラス
[特別企画]
ジープ・ラングラー タフトーク
SUVスペシャルショップ/カスタムカーレポート
21世紀以降の従来型Gクラスは、無理やり足を硬くして高性能タイヤを履かせてアップデートを図っていた感が強かった。このため所有欲は大いにくすぐられるのだが、実際のドライブにはやせ我慢がつきものだったのである。その点、新型Gクラスで少し苦労が伴うのはコクピットの高みに上るときぐらいしかない。
フラフラせずにビシッと走るという表現は新型ラングラーにも当てはまる。こちらはGクラスのようにフロントのサスペンション形式を変更してはいないので、より一層驚かされる。今回の試乗車は17インチのオフロード系タイヤを履いていたこともあり、ビシッとまではいかなかったけれど、不満は一切ないし、強固になったフレームと新たに加わった直4ターボのお陰でとにかくドライビングが愉しいのである。
先日行われた新型ラングラーの試乗会ではV6モデルにしか乗ることができなかったのだが、今回4発を積んだラングラー・アンリミテッド・スポーツをドライブできたことで、ようやく新型の全体像を把握することができた気がする。
V6モデルはオフロード走行におけるスロットルの踏みはじめの安定したトルクを求める人、もしくはターボのお転婆な感じが気に入らない人向け。一方アルファロメオ・ジュリアのエンジンをベースにしている直4ターボの性格は、まさにアルファそのもの。2t弱の車重をものともせずにビュンビュンとターボキックを繰り出してスピードを上げていく。信じられないかもしれないが、曲率を問わず次のコーナーが楽しみな気持ちになるのである。
これまでのラングラーというかアメリカ車になかったファンなフィーリング。アメリカ人とイタリア人の結婚によって新たな個性が産み落とされた瞬間である。個人的には4発のラングラー推しである。
ラングラー・アンリミテッド・スポーツとG550。頑なに伝統的なスタイルを守りつつ、かなり入念に内面的アップデートを果たした2台のどちらかを選ぶ人は、本気でアウトドアに興じるにせよファッションで乗るにせよ、一時的な流行に左右されない丁寧なモノ選びをする人なのだと思う。ガスライターよりジッポー、ステンレスより炭素鋼のナイフ、見たことのないアディダスよりもスタンスミス……。
伝統を重んじるということはカスタマーに媚びていないということ。消費者のご機嫌を伺い過ぎて、コロコロと姿かたちを変えていったモデルも少なくない現代にあって、今回の2台には気持ちいいくらいに迷いがないのである。「黙って俺についてこい」クルマがそう言っている。
※本記事は『GENROQ』2019年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
ジープ・ラングラー アンリミテッド・スポーツ
■ボディスペック
全長(㎜):4870
全幅(㎜):1895
全高(㎜) :1845
ホイールベース(㎜):3010
車両重量(㎏) :1950
■パワートレイン
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量(㏄) :1995
最高出力:200kW(272㎰)/5250rpm
最大トルク:400Nm(40.8㎏m)/3000rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:リジッド
サスペンション リヤ:リジッド
■ブレーキ
フロント:ベンチレーテッドディスク
リヤ:ディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:245/75R17
リヤ:245/75R17
■環境性能
燃料消費率:11.5(km/ℓ:JC08モード)
■車両本体価格:494万円
【特集】ハイエンドSUVの世界
ロールス・ロイス初のSUV、カリナン
新生代ポルシェ・カイエンSを試す
不朽の名作、メルセデス・ベンツGクラス
[特別企画]
ジープ・ラングラー タフトーク
SUVスペシャルショップ/カスタムカーレポート