REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
右側のレンズ面が大きい異径LEDヘッドライトやクチバシのように伸びたノーズ、ひと目でBMW GSシリーズだとわかる独特なスタイルは、ミドルレンジモデルにも受け継がれている。
フルモデルチェンジした「F750GS」は、フロント19/リア17インチのアルミキャストホイールを履き、フロントフォークはストローク量170mmの正立式。コンポーネンツを共通とする「F850GS」は、より長いストローク量を持つ倒立フォークにフロント21インチがセットされ、ホイールもクロススポーク仕様とするなどオフロード性能を高めているのに対し、「F750GS」はオンロード寄りのセッティングが施された。
「F750GS」と名乗りながら、搭載されるエンジンは「F850GS」と共通の排気量を持つ853cc。なぜ? と聞かれても、BMWは先代も同様に、基本構成を共通化しながらオン寄りを「F700GS」、オフ指向のモデルを「F800GS」とネーミングしてきたのだ。並列2気筒エンジンの最高出力は750GSが77PS/7500rpm、850GSは95PS/8250rpmを発揮する。
先代からエンジンの排気量が上がっただけなのか? いいや、まったく違う。ロータックス製だった360度クランクのパラレルツインは逆回転の270度クランクに一新し、ドライサンプながらオイルタンクをケース内に収めた。開発はBMWで、生産は中国のロンシンが担う。
逆回転クランクは、ロードレース世界最高峰のMotoGPマシンで見られる最新テクノロジー。通常のクランクシャフトはタイヤが転がる向きと同じく前方へ向かって回転し、そのジャイロ効果が車体の直進安定性を生むことがわかっている。ジャイロ効果は速度が上がるにつれて高まり、安定性も向上していく。
では、逆回転させたらどうなるのか……!? 駆動軸が1つ増えるもののマシンの向きを変えるのが早まり、クイックな旋回ができる。そして、加速を妨げるウイリーも抑えられるという効果があったことがわかってきたのだ。
逆回転クランクはドゥカティ「パニガーレV4」にも使われ、BMW「S1000RR」の次期モデルにも採用かと噂されるが、そんなにも最先端な技術が、この「F750GS」そして兄弟車の「F850GS」に使われていることにまず驚く。両車には少々失礼かもしれないが、想像以上に先進的でミドルクラスのGSシリーズは侮れないのである。
走り出すとすぐに、心地良いパルス感がエンジンにあって不等間隔爆発を生み出す270度クランクの持ち味がしっかり感じられた。スムーズに吹け上がった先代エンジンより、ツインらしさがありテイスティ。エンジンの鼓動感が不快な振動になっていないのは、シリンダーの前後にカウンターバランサーをそれぞれ内蔵しているからで、制振にも充分に配慮するあたりがジェントルマン向けのBMWならではだ。
よく動くソフトな前後サスペンションも相まって、優れたトラクション性能を発揮し、コーナーで深く車体を寝かせても絶えず安心感がある。850ccもの大型バイクなのに、ニーゴーくらいのオフ寄りバイクに乗っているかのような扱いやすさで、神経質な部分が見当たらない。
しかし、シャシーの剛性はビッグバイクらしくしっかりあり、ハイスピードでも頼り甲斐がある。欧州の高速道路を想定しているから100km/h巡航など余裕でこなし、トップギヤ6速でのエンジン回転数は3750rpmほど。まだまだ余力タップリといったところで、5000rpmを過ぎてもパワーがしっかり湧き上がってくる。
メインフレームは従来のトレリスタイプを改め、より軽量で高剛性なスチールシェル構造のブリッジフレームを新採用している。エンジンは吊り下げ式にマウントされ、スリムな車体を実現。大きくて持て余してしまうという印象を抱きがちのセグメントだが、「F750GS」は低重心でジャストサイズと感じる。女性にもオススメしたい。
シート高はスタンダードで770mmと低く、跨ればサスペンションがしなやかに沈み込み、両足を出しても地面にカカトまでしっかり届く。アップライトなハンドルとニュートラルなステップ位置によってライディングポジションもゆったりとしている。
オールマイティなキャラクターで、街乗りも得意だから日常づかいにも重宝しそう。バランスに優れる機能的なモデルと言っていいだろう。万人に勧められるし、きっと長くつきあえるだろう。
独創的なフロントマスクを印象づける左右非対称のヘッドライト。DRL(デイタイム・ライディング・ライト)を含め、灯火類はすべてLED化されている。
ウインドスクリーンは軽快なショートタイプ。シティユースを考慮していることが装備からもわかるが、高速域ではコンパクトながら防風効果を発揮する。
6.5インチTFTカラーディスプレイには、バーグラフ式のタコメーター、そして速度が大きくデジタル表示され見やすい。ギヤ段数やライディングモード、時計、気温なども一目瞭然だ。
メーター画面では、車体のコンディションも目視で確認できる。写真の画面では、水温、航続可能距離、バッテリー電圧などを表示。インターフェイスの進化も目覚ましく、直感で操作できた。
フロントフォークはオーソドックスな成立式で、インナーチューブ径は41mm、ストローク量は170mmだ。ブレーキは2ピストンフローティングキャリパーと305mmディスクをデュアル装備する。
ボア84mm×ストローク77mmで、総排気量853ccの水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジン。逆回転の270度クランクを新採用し、シリンダー前後にカウンターバランサーを配した。ドライサンプながらオイルタンクをケース内に収め、コンパクトなパワーユニットに仕上げている。
「ギアシフトアシスタントPRO」の装備によって、発進と停車時以外はクラッチレバーを握る必要がなくなった。シフトダウンでは自動でブリッピングしてくれる。
22mm径のスチールハンドルをセット。ベース1,296,000円、スタンダード1,496,000円、プレミアムライン1,544,000円という設定だが、ヒートグリップはベースモデルから標準装備される。
巡航時にスロットル操作なしに速度維持する「クルーズコントロール」もスタンダードで標準搭載。20km/h以上で設定でき、セットしたまま設定速度を上げ下げすることもできる優れもの。操作に慣れると手放せない装備だ。
良好な足着き性を実現するダブルシート。ダブルテクスチャーで質感も高く、BMWらしくクッションも硬質なもの。ロングライドでもお尻が痛くならない
ベースモデルから、シート下にETC2.0を標準装備するのもありがたい。プレミアムラインになると、センタースタンドやダイナミックESA、キーレスライドなどを採用する。
150mmのストローク量を持つリアショックは、リバウンドダンピングのアジャスターを装備。リンクレスでアルミキャスト製のスイングアームにマウントされる。最上級機種となるプレミアムラインではダイナミックESAを備え、フルオートで減衰力をコントロールしてくれる革新的な電子制御サスペンションとなった。
マフラーはアップタイプ。アルミキャストホイールは17インチで、ブレーキは265mmディスクと1ピストンフローティングキャリパーの組み合わせだ。スイングアームはアルミキャスト製で、軽量かつ高剛性を実現している。
スッキリとスリムになったテールセクション。1994年にデビューした「F650ファンデューロ」以来、燃料タンクをリアシート下に配備していたが、今回のモデルチェンジで一般的なフロントタンクへと改められたためだ。
■F750GS 主要諸元
エンジン型式:水冷4ストロークDOHC並列2気筒4バルブ、ドライサンプ
ボアxストローク:84mmx77mm
排気量:853 cc
最高出力:57kW(77PS)/7,500rpm
最大トルク:83Nm/6,000rpm
圧縮比12.7:1
点火/噴射制御:電子制御式
最高速度:190km/h
燃料消費率/WMTCモード値(クラス3)、1名乗車時:24.39km/L
燃料種類:無鉛プレミアムガソリン
オルタネーター:416W
バッテリー:12V/10Ah,メンテナンスフリー
クラッチ:湿式多板、アンチホッピング
ミッション:6速
駆動方式:チェーン式
フレーム:スチールシェル構造ブリッジフレーム
フロントサスペンション:テレスコピックフォーク(41mm径)
リアサスペンション:アルミキャストデュアルスイングアーム、調整式リバウンドダンピング
サスペンションストローク:フロント170mm/リア150mm
軸距(空車時):1,559mm
キャスター:104.5mm
ステアリングヘッド角度:63度
ホイール:アルミキャストホイール
リム:フロント2.50x19/リア4.25x17
タイヤ:フロント110/80R19、リア150/70R17
フロントブレーキ:フローティングダブルディスク、2ピストンフローティングキャリパー、305mm径
リアブレーキ:シングルディスク、265mm径、1ピストンフローティングキャリパー
ABS:BMW Motorrad ABS
全長:2,270 mm
全幅(ミラーを除く):850mm
全高(ミラーを除く):1,225mm
シート高、空車時:ベース815mm、Standard770mm、Premium Line815mm
車両重量:230 kg
許容車両総重量:446kg
最大積載荷重(標準装備時):216kg
燃料タンク容量:15L
リザーブ容量:約3.5L
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。モトクロスレース活動や多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディア等で執筆中。バイク関連著書もある。