まだ“ミアータ”と呼ばれていた2006年にアメリカで初開催され、いまでは現地の車両名である「MX-5(ロードスター)」を冠する人気のワンメイクシリーズが「マツダ・グローバルMX-5カップ」である。2016年からはND型と呼ばれる最新モデルにスイッチし、シリーズ名に掲げられた「グローバル」の名のとおり、日本とアメリカでレベルの高いバトルが繰り広げられている。その人気の秘密を探るべく、「世界一決定戦」を取材した。




11月10〜11日 / セブリング・インターナショナル・レースウェイ


PHOTO ◎ MAZDA GLOBAL MX-5 CUP / MotorFan.jp

マシンには性能の差がなく、ワンメイクレースの真髄を発揮

 モータースポーツの魅力を一言で表現すると「楽しい!」ということに尽きる。これはF1やスーパーGTのように“見る”レースはもちろん、“参加する”レースにも共通するキーワードである。




 参加型モータースポーツの場合、どうしても「勝った、負けた」に終始してしまいがちだが、ファミリー的な雰囲気で楽しめるシリーズがマツダ・グローバルMX-5カップ(以下、グローバルMX-5カップ)だ。




 2016年に米国シリーズが始まると、同年9月にはカリフォルニア州モントレーのラグナセカで「世界一決定戦エキシビションマッチ」が開催され、日本国内では翌2017年からシリーズ戦としてスタート。JAF公認ナンバー付きワンメイクレース「ロードスター・パーティレース」の上位に位置するカテゴリーである。



 グローバルMX-5カップカーは、米国ロングロードレーシング社が車両開発&製作を行い、徹底したイコールコンディションを図っている。日本車ながら、アメリカ発のレース車両であるため米国仕様の2.0ℓエンジン+左ハンドル。また、足元にはBFグッドリッチ製スリックタイヤを履き、コーナリングでもハイレベルなバトルが楽しめる。当然、基本ルールも世界共通である。




 事実、9月24日に富士スピードウェイで開催された日本シリーズ最終戦では、決勝レースの45分間に渡って周ラップ毎……いやコーナーの進入毎にトップが入れ替わる“ワンメイクレースの真髄”のような大混戦が繰り広げられた。




 そんなグローバルMX-5カップの真の魅力を確かめるため、2018年シーズンの総決算「世界一決定戦」が開催されるアメリカ・フロリダ州へと向かった。

 セブリング12時間レースで有名なセブリング・インターナショナル・レースウェイは、1950年にオープンした米国で最も歴史のあるサーキット。飛行場に隣接したフラットなコースで、荒れた路面やライン取りの難しさがある。




 70年近くの歴史のなかで舗装を継ぎ接ぎされてきたため、コーナーによってマシンの挙動が変わる難コースとして知られる。4つの直線部分をいかに速く走るか、というのがセブリングのコース攻略法である。




 米国シリーズのチャンピオンのニッコー・リーガーは「ずいぶん前にセブリングを走ったけど、とても良いサーキットだね。バンピーで難しいコースなので、チャレンジングでとても楽しい」と語っていた。




 グローバルMX-5カップ世界一決定戦は、昨年までカリフォルニア州モントレーのラグナセカで開催されたが、アメリカシリーズの最終戦と同じサーキットでは地元ドライバーに有利となることから、今年はサーキットを変更したのである。

参加者たちが語る、グローバルMX-5カップの魅力とは?

 日本からは、シリーズチャンピオンの堤優威、シリーズ2位である吉田綜一郎のふたりに、米国シリーズにフル参戦したレーサー鹿島が加わり、日本人選手3名が挑戦した。




 リザルトは欄外にあるとおりだが、とくに堤の第1レースで決めた優勝は本当に素晴らしい内容だった。




 堤は、グローバルMX-5カップの魅力について「イコールコンディションが徹底されているところが凄い。ドライバーは安心してレースができる」と説明している。

 そして、世界一の座は第2レースの結果も踏まえて決まるのだが、第2レースは45分後の最終コーナーでトップに立ったネザニアル・スパークスが優勝。なんと2度目のグローバルMX-5カップ世界王者の座を射止め、5万ドル(邦貨で約560万円)の賞金を獲得した。




「来年もこのクリーンでイコールコンディションのグローバルMX-5カップにチャレンジしていくつもりだ」とスパークスは世界一の喜びを語った。



 第2レースで吉田は8位入賞、堤はレース序盤で接触を受けたが15位で完走を果たした。




 日本でグローバルMX-5カップに参加する選手のアドバイザーを務める山田英二氏は、ふたりの活躍について次のように分析する。




「彼らは速いですよ。優威は、マツダのロードスター・パーティレースからステップアップした生え抜きですし、吉田くんも初めての海外挑戦でしっかりと結果を出していることが凄いと思います。優威は対応力があり、2016年の世界一決定戦(エキシビションマッチ)で3位表彰台を獲得し、国内の他のワンメイクレースでも優勝しています。吉田くんは慎重で、少しずつステップアップしてくタイプですね。このようにグローバルMX-5カップはドライバーを育てるカテゴリーだと思います」




 また、グローバルMX-5カップ米国シリーズのスカラシップ制度は、シリーズチャンピオンになると奨学金として20万ドル=約2200万円が進呈されるため、ステップアップを目指すドライバーには大きな魅力となっている。その一方で、ビジネスとして成功している人が趣味として楽しむ、いわゆる“ジェントルマンドライバー”の参戦が多いのも特徴である。

 2018年、その米国シリーズにフル参戦した鹿島は「グローバルMX-5カップのような海外レースに参戦することはハードルが高いと思っている人が多いと思いますが、スポット参戦でも良いので挑戦してほしいですね。ボクでも参戦できるのですから(笑)」と話している。




 これほど大きな魅力に溢れるグローバルMX-5カップ。心から「楽しい!」と思える、素晴らしい体感をするために皆さんもチャレンジしてみてはいかがだろうか。

■世界一決定戦の「ダイジェスト動画」はコチラ


MX-5カップ公式サイト内のギャラリーページに掲載!!

https://mx-5cup.jp/archives/gallery/3065

【日本人選手、それぞれの戦い①】「100倍返しできるように頑張りたい」 堤 優威 (T by Two CABANA Racing)

第1レース=優勝 / 第2レース=15位

 日本シリーズで開幕から3連勝を挙げてシリーズチャンピオンを早々に決めた堤優威は、世界一決定戦を前に「日本人として素晴らしいレースをしたいと思います。日本では最終戦で吉田選手に負けてしまったので、今回は負けないようにしたいですね」と語っていた。




 セブリングでは、土曜日の第1レースで地元ドライバーを最終ラップで抜き去るというドラマチックな展開で優勝。「アメリカのレースは、ライバル達がみんな引かないので、自分が望むレース展開に持っていくことができない」という状況での栄光だった。序盤の走りでタイヤを温存し、後半に勝負に出る作戦だった。その狙いはピタリと的中したのだった。




 T by Two CABANA Racing代表の安藤宏氏は「堤が偉業を達成してくれたと思います。感動しました。彼はアグレッシブな部分と戦略的な部分を高い次元で併せ持っています。序盤は攻めの走りで混戦のバトルを戦いながら、最後のフィニッシュの瞬間の位置を俯瞰で見ることができるのです。若いのに、レース運びはクレバーです」と絶賛していた。

 そして、フロントロウからスタートした日曜日の第2レースでも堤は5周目にトップに立った。しかし、その直後に左後輪あたりにヒットされてスピンアウト。これによって“世界一”となる道は絶たれた。




「トップを走るジョン・ディーンがコースからはみ出し、その隙をついて抜いたら、ジョンが無理やりダートからショートカットして戻ってきて当たった」と語り、マシンは大きなダメージを受けて、真っ直ぐ走らない状態になってしまった。




「とてもペースが良かったので、彼を抜いて逃げていきたかった。そうでなくても、4台がトップグループを形成していたので、落ち着いて走れば勝てると思っていました。世界一決定戦の週末は、土曜日の第1レースを優勝したことで自分の存在価値を示せたと思いますし、アメリカで通用するという自信にもつながりました。接触のあと、この悔しさを来年のアメリカシリーズに出てぶつけたい…という気持ちが強くなりました。100倍返しできるように頑張りたいと思います」




 第1レース優勝というリザルトは、多くの人の記憶に残るものだった。

■世界一決定戦の「ダイジェスト動画」はコチラ


MX-5カップ公式サイト内のギャラリーページに掲載!

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【日本人選手、それぞれの戦い②】「より一層、アメリカでレースをしたくなりました」 吉田綜一郎(HM RACERS)

第1レース=11位 / 第2レース=8位

 富士スピードウェイの最終戦では、トップ5台による大混戦を戦い抜いて見事優勝。シリーズランキング2位をもぎ取った吉田は「ボク自信の夢である、アメリカでのレース参戦へのまず第一歩です。すごく楽しみにしています」と世界一決定戦の切符を手に入れての抱負を語っていた。




 吉田が所属するHM RACERSは、広島マツダがバックアップする唯一のディーラーチーム。セブリングでは、広島マツダの会長、社長とともに応援団が吉田をサポート。コーチとして現地入りしているプロドライバーの佐々木孝太がコース攻略法を伝授し、初日のプラクティスでは10番手タイムを記録した。




 このとき吉田は「海外のサーキットの難しさを感じて苦戦しましたが、アメリカ人の走りのパターンに慣れてきたので、決勝レースでは離されずについていきさえすれば最後に逆転のチャンスがあると思います。このレースウイークは乗れていると思いますので上位を狙える手応えがありました」と語っていた。




 吉田の第1レースは、予選でヒットされ14番手スタート。決勝でもその影響が残り、一時10位まで順位を上げるものの、最終的には11位で終えた。吉田が予選の接触で受けたダメージは、その衝撃でフロントウインドウにヒビが入るほどのものだった。




「正直、けっこうキツかったです。ブレーキング時に変な方向を向くような挙動もありました。やはりレースラップも悪くて、スリップストリームに入ってなんとか付いていける状態でした。明日の決勝(第2レース)はどれだけ順位を上げられるかだと思います。ドライバーのレベルが高くて勉強になりました。日本と違って、コーナーでも絶対に引かない。芝生からでも抜いてくるようなバトルをしてくる」

 第2レースは集団のなかでバトルして順位を上げ、8位でフィニッシュした。




「第1レースの反省も含めて、絶対に引かないレースを心がけました。ライバルとバトルをしつつ、前を追えるような走りをしました。アメリカのレースは荒いように見えて、実際にはとてもクリーンな部分もありました。ボクの回りでは、結構いいレースができたと思います。粗い路面のなかで、いかにレースの駆け引きをするか、という点が本当に勉強になりました。堤選手が当てられたのを見てショックを受け、とても残念な気持ちになりました。そのぶんボクが頑張らなくてはいけない、という思いで走りました。スタート直後はバトルをしてトップグループから離れてしまったのですが、ニッコー・リーガー選手とスリップストリームを使いながらトップ集団に追いつくことができました。上位争いができた点は良かったと思います。アメリカレースの初挑戦は、バトルの難しさ、路面コンディションの悪さのなかでいかに上手く走るかという点が勉強になりました。より一層アメリカでレースをしたくなりました。ぜひ、その夢を実現したいと思います」




 コーチを務めた佐々木は、吉田の進化について「勝負強くなった」と言う。




「今日のレースは82点くらい。序盤のペースがイマイチだったのと、ニッコー・リーガー選手と一緒に走ったあと、後半彼から離れてしまったところがマイナスポイント。でもバトルという意味では、第1レースとは比べられないほど、バンパーtoバンパーというカタチになって頑張っていたと思います」




 アメリカ挑戦を強く意識する、吉田の決断に注目したいところだ。

【日本人選手、それぞれの戦い③】「モチベーションが上がる、貴重な経験」 レーサー鹿島(コープランド・モータースポーツ)

第1レース=リタイヤ(メカニカル) / 第2レース=17位

「米国シリーズでは、最後の4レースが上り調子でしたので、1年の締めくくりとなる世界一決定戦に期待していました。しかし、プラクティス1のクラッシュで、そんな良い流れが途切れてしまいました。クルマの状態を元の良い状態に戻すことができなかったのが残念です。サーキットでは修復できる限界もありますので、とても悔しいレースになりました。レースはビジネスにも似たところもあり、人生の縮図という人もいます。ボク自身、10年振りにアメリカでシリーズを戦い、少しずつモチベーションが上がっていく貴重な経験をしました。象徴的だったのは、第5戦のポートランドです。予選25位スタートで12位フィニッシュし、タイム的にもトップから1秒落ちで、手応えを感じました」

マツダ・グローバルMX-5カップ 世界一決定戦リザルト

■第2レース 結果


優勝 8 ネザニアル・スパークス(シック・サイドウェイ・レーシング)


2位 99 ドレイク・ケンパー(シック・サイドウェイ・レーシング)


3位 87 セリン・ローラン(シック・サイドウェイ・レーシング)


4位 01 ニッコー・リーガー(スリップストリーム・パフォーマンス)


5位 84 トッド・ラム(アトランタ・スピードワークス)


6位 95 トーマス・ベルナッキ(コープランド・モータースポーツ)


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8位 50 吉田綜一郎(HM RACERS)


15位 11 堤 優威(T by Two CABANA Racing)


17位 7 レーサー鹿島(コープランド・モータースポーツ)
■第1レース 結果


優勝11 堤 優威(T by Two CABANA Racing)


2位 16 ジョン・ディーンⅡ(シック・サイドウェイ・レーシング)


3位 13 ロバート・ノーカー(シック・サイドウェイ・レーシング)


4位 8 ネザニアル・スパークス(シック・サイドウェイ・レーシング)


5位 99 ドレイク・ケンパー(シック・サイドウェイ・レーシング)


6位 77アンディ・ラリー(アトランタ・スピードワークス)


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11位 50 吉田綜一郎(HM RACERS)


リタイヤ(メカニカル) 7 レーサー鹿島(コープランド・モータースポーツ)
MAZDA GLOBAL MX-5 CUP JAPAN 公式サイト https://mx-5cup.jp/

GLOBAL MX-5 CUP CHALLENGE 2018

GAORA SPORTSがグローバルMX-5カップ世界一決定戦を放送

 マツダのモータースポーツ活動が未来へ紡ぐヤングドライバーたちの夢や、“世界につながる”画期的なレースの神髄に迫る。放送日時は2018年12月22日(土)22~23時なのでお見逃しなく!!

GAORA SPORTS 公式サイト https://www.gaora.co.jp/motor/2735560

東京オートサロン2019で、堤優威&吉田綜一郎トークショー開催

 東京オートサロン2019(幕張メッセ)のマツダブースでは、1月12日(土)、グローバルMX-5カップ世界一決定戦を戦ったドライバーのトークショーが開催される。詳しくは公式サイトをチェック!!

マツダオフィシャルサイト http://www2.mazda.co.jp/beadriver/event/autosalon_automesse2019/
情報提供元: MotorFan
記事名:「 米国セブリングで開催! マツダ・グローバルMX-5カップ「世界一決定戦」で日本人ドライバーが大活躍!! ワンメイクレースの魅力を探る【レースレポート】