新型プリウスは一言で洗練されたともいいにくいが、トヨタファミリーとして昔からいたような一種安心できる存在感を持ち合わせたともいえる。
確かに、現行プリウス発表当時は「あっ」と思ったものの、これまでにないスポーティなイメージもあり、先進的でプリウスらしいという印象も持たれた。他に負けてはならない絶対的な燃費の良さもあり、プリウスの価値を知り尽くし、プリウスでなければならない人たちにとっては、最善のデザインでもあったという。それは今でも変わらないのだ。
ところが、”あのデザインがどうも…” という人も少なくなかったという。コンサバ傾向の人たちにとっては、抵抗のあるデザインでもあった。
その問題は、むしろ北米の方が大きかった。北米はコンサバ傾向が強いこともあって、抵抗感がある人も多めなのだという。
ある時、女性から「これは私の乗る車ではなく、息子が乗る車ね」といわれたことがあったという。その女性はプリウスを代々乗り継いできた人だった。
そこで気がついたのが、本当にユーザーの気持ちに向いていたのだろうか、ということだ。プリウス・フリークにとってはベストなデザインであっても、その周囲の「便利で燃費がいいから好き」といった気楽なパートナーとして使っている人々にとって、最善のデザインであったかという点が検討された。
つまりは単にコンサバティブな人たちに……といったことだけではかたづけられない問題がここにあったようだ。というよりは車で自己主張しなくていい人、あるいは自己主張したくない人たちも多くいるということ。依然、圧巻の燃費性能を持つプリウスが好きな人であっても、だからといってそれを主張したいかどうかはもはや別の話。これでなければならない気持ちと、プリウスに乗っていることを主張したいのは、別のことなのだ。
ある人が、こんな話を聞かせてくれたことがあった。彼は利便性からPCはアップル社のマッキントッシュ(Mac)を使っている。デザインも気に入っているし、インタフェースの出来の良さには驚きもあるという。だからといって、彼はMacを使っていることを主張したくないという。新製品が出たとかいう騒動に巻き込まれずに、そっと買いたい派なのだと。そんな思いは、確かにわからなくもない。
「あんたもプリウスが好きなのかい、じゃ一緒にプリウスの歌を歌おうよ」と言われても、そんな暇も、興味もない人たちだっているということだ。そうした多くのユーザーへの配慮が、このマイナーチェンジには現れていると思う。
具体的には、特に上下方向に伸びるヘッドライトとリヤコンビランプが気になるということ。そのため、フロント、リヤの造形を横方向に広がるイメージに変更したという。
フロントまわりは、深海魚のような鋭い造形が少しおっとりと見えるようになった。リヤは、特に夜間に見るとランプのシルエットが、どんな車とも似ていないのは個性ともいえる。しかし、縦の光の線が全幅を狭くも感じさせていたし、かなり大げさな感じもあった。それを横方向に広がりのある造形に変更。特にリヤビューは、どっしりと安定した感じが演出できたように見える。
ところがそうならば、PHVをベースにしてもいいじゃないかと思うはず。しかし実はPHVには高価なユニットを用いていることもあり、それをすべてのプリウスに展開することはできなかったという。さらにもっと重要なことは、セグメントとして、プリウスPHVはプリウスシリーズのハイエンドに位置するので、標準モデルとの棲み分けは今後もしておきたいところ。
それは差別化ということではなく、高性能、高機能に特化したPHVに対し、標準のプリウスは高性能をよりフレンドリーな存在として成立させたいところ。
そのためもあり、現行モデルをリファインする方向での進化を図ったのだ。フロントで変わっているのは、ヘッドライトとバンパーだけ。ボンネットが少しふくよかに見えるが、それはコンパクトに見えるヘッドライトとのバランスがそう見せている。リヤではリヤコンビランプとバンパー。そしてリヤゲートの一部に灯体を追加した。バンパー部分に下に伸ばしていた時は、法規の問題があって、後方からバンパーに押されてもランプが割れない構造が必要だった。そのために、ランプ部分を後退させ少し外に逃がして配置した。しかし、今回はその必要がないことから、バンパー全体を内側に絞る形となったという。
その結果、これまでよりもコンパクトに見えるようになったところも特徴だ。
……「すごく好き」「悪くないと思う」「良い点が多く、とりわけ燃費が良い点が決め手」「比較検討した結果として、いいと思った」「価格で決めた」……といったように、プリウスオーナーにも「好き」の段階がある。また主張する人の影に、それ以上に実に大きな数の主張しない人たちがいる。
プリウスが一般的になればなるほど、見えてきた大きなハードル。
これは、拡大した莫大なユーザーのなかで“誰からも愛されるプリウス”を目指した新たなステップと言えるのかもしれない。