PHOTO:マツダ・グローバルMX-5カップ(MAZDA GLOBAL MX-5 CUP)
堤優威、第1レースを制し、世界に“速さ”を証明した
GLOBAL MX-5 CUP JAPAN代表のふたりは、11月6日(火)に現地入りし、翌日行われた専有テストで初めてセブリング・レースウェイの3.7マイル(約6.02km)トラックを走行した。古くからあるローカル飛行場の滑走路の一部とインフィールドの中低速コーナーをつなぐこのトラックは、つなぎ目がある硬いコンクリート路面とアスファルト路面が混在し、あちこちにバンプ(路面の凸凹)のあるラフな路面が特徴。ラインを外すと大きなバンプに足元をすくわれ、アウト側に飛ばされそうな不安定な挙動となり、17カ所あるターンのたびに強い縦Gに耐えなければならないなど、テクニック的にも肉体的にもタフなコースとして知られている。 今年のGlobal Mazda MX-5 Cup Challengeは、アメリカで行われているシリーズ戦でチャンピオンとなったニッコー・リーガー(20歳)のほか、最年少優勝を記録したロバート・ノーカー(14歳、公式レースの最年少記録としてギネス認定)、2016年の世界一決定戦ウィナーであるネザニアル・スパークス、2015年のMX-5カップチャンピオンであるジョン・ディーンⅡなど高いスキルを持つ17名のドライバーに日本代表のふたりを加えた19名で競われた。
セブリングを本拠地とするシック・サイドウェイ・レーシングはコースを知り尽くしているジョン・ディーンⅡやiRacingシムレーサーからステップアップしたグレン・マギー、紅一点の女性ドライバーであるアシュトン・ハリソンを始め、全8名が所属している。 また、チャンピオンであるリーガーを擁するスリップストリーム・パフォーマンスチームは5台、常連のコープランドモータースポーツは4台をメンテナンスしており、今年USシリーズにフル参戦しているレーサー鹿島もこのチームから参戦。日本代表のふたりは、GLOBAL MX-5 CUPカーの開発を担当するロング・ロードレーシングのメンテナンスによる車両をドライブすることになった。 iRacing(レーシングシミュレータ)で徹底的に走行を繰り返し、トラックの特徴を覚えてこの地に臨んだ堤は、水曜日の専有テストで2番手タイムを記録。「路面はつぎはぎだらけで、かなり荒れたコースです。それは知っていましたが、バンプやブレーキング時の振動や体に受けるショックの強さに驚いています。今日初めてこのコースを走りましたが、セブリングをホームコースとしている地元勢に割って入った2番手タイムは自信につながります」と堤は語っていた。
広島マツダがバックアップするHM RACERSは、会長、社長をはじめ、多数の応援団が吉田をサポート。コーチとして現地入りしているプロドライバーの佐々木孝太がコース攻略法を伝授し、こちらも初セブリングながら10番手タイムを記録した。吉田は「なかなか苦戦しましたが、アメリカ人の走りのパターンに慣れてきたので、決勝レースでは離されずについていきさえすれば最後に逆転のチャンスがあると思います。手応えはありました」と語っていた。 10日(土)に行われた公式予選では、堤はディーンⅡ、リーガー、ノーカー、48歳のベテランであるトッド・ラムに続く5番手タイムを記録し、吉田はリーガーに接触されてダメージを負い14番手からの決勝スタートとなった。
決勝レースひとつめの第1レースは、陽が傾く午後4時過ぎにスタート。堤はスタート直後からトップ集団の中で走り、次第にポジションを上げて3位でレース中盤を迎える。残り20分でリーガーがミッショントラブルで脱落する一方、堤はペースを上げて2位に浮上。13周目にはファステストラップを刻む。堤はその後もディーンⅡの背後にピタリとつけ、後続に割り入る隙を与えない。そして、迎えた最終ラップ。力を溜めていた堤は、最終コーナーで果敢にディーンの内側に飛び込み、十分加速の余力を残してストレートを立ち上がり、トップでチェッカードフラッグを受けた。吉田は予選でヒットされた影響が残り、一時10位まで順位を上げるものの、最終的には11位で第1レースを終えた。
世界一を決定する第2レースで、吉田綜一郎が8位! 11日(日)の朝、世界一を決定する第2レースが行われた。日中は26℃以上となる気温も朝はまだ22℃ほどで、路面も冷えた状態だった。フロントロウの外側、2番グリッドからフォーメーションラップを走り出した堤は、最終コーナーのターン17で振られるグリーンフラッグから加速するポールポジションスタートのジョン・ディーンIIに食らいつく。また、後ろからも速い集団が堤の隙を狙っていく。レース序盤は、堤とディーンⅡが互いに牽制しながら攻防を繰り広げたが、5周目の第1ターンでイン側をとった堤が、続く第3ターンでディーンを交わしてトップに立つ。 しかし、直後に姿勢を乱したディーンがグラベルに車体を落とし、コースに戻る反動で堤の右サイドをヒットし、堤はスピンしてコースオフ。集団が走り去ったあと、堤はコースに戻るが、勝負権は失ってしまった。第1レースで堤にトップを奪われたディーンⅡはこのアクシデントでドライブスルーペナルティを課せられ、やはりチャンピオンの可能性を失った。 その後は、トッド・ラム、セリン・ローラン、ネザニアル・スパークスらがトップ集団を形成し、接近戦を繰り広げる。吉田は、リーガーの直後を走り、上位進出のチャンスをうかがっていく。堤は復帰したが、マシンがダメージを負ったためペースが上がらない。45分後の最終コーナーでインを取ったスパークスが一躍首位に躍り出て、トップでチェッカー。同時に二度目のGLOBAL MX-5 CUP世界王者の座を射止めた。吉田は、8位入賞。堤は15位で完走を果たした。
吉田は「レース前半は中段グループの中でのバトルで、先頭集団から離されてしまいましたが、アメリカチャンピオンのニッコーが後方から追いついてきたので、ふたりでうまくスリップを使い合いながら前のグループに追いつくことができました。とても良い経験になりましたし、クリーンで良いレースができたと思います。近い将来、アメリカで活動ができるようにしたいという気持ちがより強くなりました」と語った。 一方の堤は「悔しいの一言です。ジョンに押し出されてしまった形なので、スピンしたときは納得できないと思いましたが、これもレースですし、あのスペースにいた自分にも落ち度があったと考えています。第2レースでも第1レース同様に優勝して世界一のタイトルを取りたかったですね。ただ、週末を通して自分の速さは十分アピールできたと思いますし、来年また、チャレンジして世界一を獲得したいと思います」とコメントした。
世界一となったネザニアル・スパークスは「僕はセブリングが地元なので、今このサーキットには家族や親戚がたくさん来ています。そのなかで世界一を決めることができたのでホッとしています。今回は速いライバルがたくさんいて、いつものシリーズ戦だと先頭集団にいるのに、今回は中団に埋もれた形でどう戦っていいかわからず、苦労しました。しかし、1台1台隙を見つけてパスしていくことができたのでラッキーでした。来年もこのクリーンでイコールコンディションのMX-5カップにチャレンジしていくつもりです」と世界一達成の喜びを語った。