しかし、いくら大トルクを発揮しようとも、その数値だけではクルマを動かすことはできない。その増幅のために備わっているのがご存じ変速機=トランスミッションである。エンジンが発揮するピンポイント(と言ってしまおう)のトルク発生エリアを逃さないように、変速してその回転数を使い続けるようにしているのがその役目だ。近年は効率追求が進んでいるため、トルク発生エリアよりもっともっと狭い「最適効率点」をつかんで放さないように多段化が著しく進んでいる。
多段化すれば最適効率点を狙い撃ちできる。しかし多段化は機械の大型複雑化を招いてしまう。そもそも高効率を図って多段化したいのに、システムが大きく重くなるのは本末転倒。そこで使われるのが副変速機である。
スポーツ自転車に乗っている方なら「3×9=27」とか「2×10=20」などの数字になじみがあるだろう。リヤディレイラーにおける複数枚スプロケットの変速に加えて、フロントディレイラーでも変速し、多段化する方式である。クルマの副変速機も同様の仕組みをとっている。
日産/三菱自/スズキの軽自動車で用いられるCVTに、副変速機を備えているものがある。ジヤトコ製のJF015E:通称CVT7である。主変速機であるCVT(ベルト&プーリ)の後段において、遊星歯車機構で2段変速する幅変速機を置いている。
軽自動車用のCVTなら小さく軽くしたいのは当然の要望。そして軽自動車用の660ccエンジンはトルクが小さい。だから変速機の変速比幅(レシオカバレージという)を大きくしてドライバビリティを高めたい。だけどCVTの変速比幅を大きくするためにはプーリの径を大きくする必要があり、すると猛烈に重くなり大きくなってしまう。
そこでジヤトコは考えた。主変速機構の後段にもともと備わっている前後進切替機構を担う遊星歯車機構、これに前進2段変速を付与したのだ。こうすることでベルト&プーリはさらに小径化でき、変速比幅も増やせて一石二鳥。2018年現在ではCVT7に加えてさらにワイドレンジを実現したCVT W/Rという機種もラインアップしている。
商用車のトランスミッションにも副変速機を備えているものがある。大型トラックのカタログを見ると12段や16段といった数字が見られる。これらは12セットや16セットのギヤを持っているわけではなく、副変速機機構で多段化を実現しているのだ。
たとえばいすゞのMJX12型:通称スムーサーGxの例。12段変速機構は、2×3×2という内訳だ。最初の「2」はスプリッタ、「3」は主変速機構、最後の「2」はレンジチェンジを用いている。スプリッタとは平行軸ギヤ式の、レンジチェンジは遊星歯車式の切り替え機構だ。主変速機も平行軸ギヤ式、つまりMTである。スプリッタ&レンジチェンジによって、空荷からフル積載、発進から高速巡航まで、乗用車の比ではない負荷の増減がある大型トラックの走行を支える変速比幅を持たせている。
四輪駆動車にも幅変速機は備わる。泥濘地などの脱出が難しい悪路において大トルクが必要な際に、主変速機に加えてローレンジを作り出すための機構だ。トランスファーと称され、シフトレバーに並んで小さなレバーがあるのをご存じの方もいらっしゃるだろう。こちらも、乱暴な言い方をしてしまえば、例えば6MTのクルマだったら2×6で12段変速だ。ランドクルーザーの例でいえば、変速機である6ATの後段にトランスファーが備わり、そこでHi/Loを切り替えている。