TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)
かねてから開発が進んでいることが公表されてきたマツダのSKYACTIV-X エンジンの量産仕様が、11月30日から始まるロサンゼルスモーターショーでいよいよ公開される。新燃焼方式“SPCCI”を採用し、SKYACTIV-G比で約10%の燃費向上を謳うエンジンだ。
SPCCIとは、Spark Controlled Compression Ignition の略で、マツダの造語。自動車工学的には、PCCI (Premixed Charge Compression Ignition)=予混合圧縮着火をベースに、SI (Spark Ignition) =火花点火を組み合わせたものだ。
“予混合”はガソリンエンジンの燃焼方式。空気とガソリンを予め混ぜておき、火花を飛ばして着火する。“圧縮着火”はディーゼルエンジンの燃焼方式で、シリンダー内には空気だけ吸い込んでおき、それを圧縮して温度が高まった温度ところへ軽油を噴射して、自己着火によって燃焼させる。このPCCI自体は、ガソリンエンジンの排ガス対策の容易さと、ディーゼルエンジンの熱効率の高さを総取りできる技術として、20世紀から研究が行われてきた。
ところが、安定して燃焼させられる負荷領域が非常に狭く、コントロールも難しいことから、今日まで実現することはできなかった。
ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも、熱効率や排ガス性能にとって重要なのは、燃焼を開始させるタイミング(正確には燃焼ピークのタイミング)。それをコントロールしているのが、スパークプラグによる点火時期であり、燃料噴射装置による噴射時期である。
ところが“予混合”ということは、それを燃料噴射時期でコントロールすることはできず、“圧縮着火”ということは、火花点火でもコントロールできない。混合気はすでに用意されているから、圧縮されて自己着火温度に達した瞬間に燃焼が始まる。それは圧縮開始温度でほぼ決まってしまうため、外気温が変われば変動するし、燃料の性状(オクタン価)にも左右されてしまう。これでは安定した性能など出るはずがない。
そこで、燃焼開始のタイミングをスパークプラグでコントロールすれば、というのが、マツダのSPCCIだ。火花点火でありながら、従来のような火炎伝播燃焼ではなく、火炎核が成長する際に生じる圧力を利用して筒内圧を高め、その温度上昇を利用して自己着火させる。これならPCCI燃焼は成立するし、点火時期を変えることで圧力ピークもコントロールできる。これがSPCCIのブレイクスルーその1である。