だが単に多くの空力付加物が備えられただけではない。SVJにはウラカン・ペルフォルマンテにも搭載された驚異の空力可変機構、ALA(エアロディナミカ・ランボルギーニ・アッティーバ)を搭載しているが、その中身はALA2.0を名乗るように進化しているという。これは加速減速時、あるいはコーナリング時に前後左右のフラップを開閉することで最適のダウンフォースを得ることを目的としている。
もちろん、車両は出力だけでなく、トータルで仕上げなければならない。車重も大切な要素である。軽量化にも注力し、乾燥重量はノーマルのアヴェンタドールSより50kg軽い1525kg。結果パワーウェイトレシオは1.98kg/psとなった。0-100km/h加速は2.8秒、最高速度は351km/hという。加速はこれまでの究極モデルたるアヴェンタドールSVと同値だが、出力とドラッグの低減から記録は細かく見れば、伸びていることに疑いの余地はない。間違いなくランボルギーニ公道最速仕様のマシンである。
実際に走ると、高出力V12の出力も大事だが、音も重要な要素だと感じた。0-100km/h加速で2.8秒などのスペックは問答無用で世界最高峰クラスの速さだが、ハイスピードに至るまでの過程で奏でられる音は、非日常としか言いようがない。カリフォルニアで認められても、日曜の住宅街では認められないだろう。
パラボリカという長い右コーナーを立ち上がると約1kmのストレートがある。コーナリングを手加減してくれるインストラクターの先導車(同じくSVJだ)にぴたりとくっついていくと、恐ろしいほどスリップストリームが良く効く。ぐいぐいと引き寄せられるように加速し270km/hを超えるが、先導車が余裕をもったブレーキをするためマキシマムブレーキは試せない。300mほど手前からアクセルを戻していく。この1日で多くの参加者がいるのだ。このハイスピードサーキットで何度も限界ブレーキを試させるわけにはいかないだろう。筆者の試乗時には、ややスポンジーになりかけたブレーキを踏み込む。ストロークさせるタッチは好みの分かれるところだが、試しに思い切りブレーキを踏むと減速度がかなり高いことがわかった。
高回転ユニットとハイギアードなアヴェンタドールのギア比が相まって、コーナーではイメージしたギアの1段下を選択することになる。3速で入りたいコーナーは2速で曲がることとなる。シングルクラッチのいわゆるロボタイズドMTはDCTのように瞬間的な変速はしないし、ワイドなギア比もあって、コーナーの曲率や次の展開にあわせて自分でシフトした方が走りのリズムはつかみやすいと感じた。
ESCのモードは最初はオン、次にスポーツ、最後にコルサを試した。ドライビングモードはサーキット用のコルサで走った。荒い運転をするとESCスポーツでは多少介入が穏やかになったが、ESCコルサにするとさらに自由度が増すが、スピンさせるような大入力は試せなかったのでどこまで許してくれるのかはさらなる検証が必要だろう。ドライビングモード・コルサはコーナーでの安定性を高めてサーキットでのタイムを出すモードだからかだろうか、低速コーナーでターンインの際にじゃっかんアンダーステアが感じられたが、中高速コーナーでは気持ちよく、安心して曲がっていけた。
ただしサーキットが2週間前に舗装を張り替えたばかりで、まだ油が多く浮いているため、低速コーナーでのアンダーもそれが影響していたかもしれない。タイミングが悪かった。なおタイヤは専用のピレリPゼロ・コルサで、サイズはアヴェンタドールSと同等である。
とはいえコーナリングの感覚は非常に不思議だ。低中速で多少のアンダーステアがあるとはいえ、ミドシップの軽快感に4WDの安定感が同居している。もちろん低重心はプッシュロッド式ダブルウイッシュボーンを採用するアヴェンタドールにとって当然の印象かもしれないが、それにしてもインストラクターの走らせるSVJを目の当たりにして、不思議なのはほとんどロールしないことだ。いや実際にはわずかにロールしているのだが、路面に張り付いて走っているような印象を受ける。そこで思い出したのは、同じくランボルギーニのウラカン・ペルフォルマンテである。あのクルマも恐ろしくフラットライドであった。そして同じくALAを装備していた。
SVJで進化したALA2.0は通常時、つまりオフだとフロントスプリッター前端とリアウイング付け根中央のフラップが閉じて、最高のダウンフォースが得られる。フラップの位置や動作については写真の技術解説をごらんいただきたいが、このシステム自体はウラカン・ペルフォルマンテでも採用されたALAと仕組みは同じだ。2.0になってウラカンでは左右に分かれていたエアインテークが中央にまとまることで、ラムエア効率が上がったというのだ。
ALAがオンになると、フロントのフラップが開き、アンダーボディに風が流れる。リアウイング付け根中央のフラップはチャンネルが左右ふたつにわかれており、ウイング後端の縁に数cm間隔で開けられた穴から排出される。これがストリング効果を生み、ダウンフォースを減じるという。フラップの開閉は0.5秒で行われる。
非常にシンプルな仕組みだが、これによってダウンフォースを高めたり、あるいは最高速を伸ばせたりする。しかも可変ウイングと違って、ボディ内の空気の流れを変えるだけだから、重心点が変わることがなく、ボディを制御しやすいという。結果として前後ともにアヴェンタドールSVと較べて40%ダウンフォースを増し、かつ1%ドラッグを低減したと謳う。
また空力デバイスはエンジンのクーリングも可能にしており、最高出力の向上にも貢献している。この成果にはデザインチームも大いに貢献したというのは想像に難くない。「フォーム・フォローズ・ファンクション」(形は機能に従う)ではなく「ファンクション・フォローズ・フォーム」である。それがランボルギーニなのだ。
そしてALAでリアを左右別に作動させることによってエアロベクタリング効果を生む。これが前述のロールを伴わないコーナリングの不思議につながっているのかもしれない。ALAはウラカン・ペルフォルマンテでも導入されていたが、これはアヴェンタドールである。ALA以外にも、RWS(リア・ホイール・ステア)、マグネライドなど多岐にわたる技術が導入されている。
そこでSVJは車両統合制御となるLDVA2.0(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・アッティーバ)を搭載している。このLDVAこそが、このクルマの頭脳とも言える部分だ。これが絶妙なコーナリングを生んでいたのだ。
コーナリングではどのような働きをするのか? LDVAはALAだけでなく、4WD、RWSなど連動させる。コーナーの進入時にはリア・ステアがクルマを安定性を高め、同時にALAをオフにすることでダウンフォースを高めて車体を安定させる。そしてコーナリング中はALAのエアロベクタリングでロールを抑制し、4WDシステムの締結力が減少することでスムーズなコーナリングができるようになるという。そしてコーナー出口でアクセルを踏み込むと4WDシステムが前輪にトルクを伝達し、鋭く加速するという仕組みだ。
もちろん物理的な限界は存在するから、常識を大きく外れた旋回性能を示すわけではないし、ALA以外はこれまでにも存在した制御範囲だ。ただALAがそこに存在することによって、ウラカン・ペルフォルマンテを運転した際にも感じた、不思議な旋回性能を示したのは事実だ。
アウトモビリ・ランボルギーニのステファノ・ドメニカリCEOは「アヴェンタドールSVJは革新的な車であり、スーパー・スポーツカーの頂点を極めるモデルです。(中略)超高速で卓越した空力性能の事例を求め、宇宙船からジェット戦闘機まで、あらゆるものからインスピレーションを得ています」と述べているが、なるほどアヴェンタドールSVJはこれまでの概念を超える新しい乗り物であった。その価格は余裕の5000万円超えだが、宇宙旅行と較べればもしかすると安いかもしれない。
ランボルギーニ・アヴェンタドールSVJ
■ボディサイズ:全長4943×全幅2098×全高1136mm ホイールベース:2700mm ■乾燥重量:1525kg ■エンジン:V型12気筒DOHC 総排気量:6498cc ボア×ストローク:95.0×76.4mm 圧縮比:11.8±0.2 最高出力:770ps(566kW)/8500rpm 最大トルク:720Nm(73.4kgm)/6750rpm ■トランスミッション:7速SCT ■駆動方式:AWD ■サスペンション形式:F&Rダブルウイッシュボーン ■ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ(リム幅):F255/30ZR20(9J)R355/25ZR21(13J) ■パフォーマンス 最高速度:350km/h 0→100km/h加速:2.8秒 ■環境性能(EU複合モード) 燃料消費率19.6ℓ/100km CO2排出量:452g/km ■車両本体価格:5154万8373円
【FIRST IMPRESSION 】 マクラーレン600LT
アヴェンタドールSVJ初試乗
【LAMBORGHINI EVOLUTION】
ウルス×ベントレー・ベンテイガV8
LM002
ウラカン・ペルフォルマンテ・スパイダー&ウラカン・スパイダー
【SUV SPECIAL】
メルセデス・AMG GLC63 S×ポルシェ・マカンターボ
ポルシェ・カイエン
新型ジープ・ラングラー
マセラティ・レヴァンテ・トロフェオ>S
【CLOSE UP】
ベントレー・コンチネンタルGT &ベンテイガV8