その大容積を実現した技術のひとつがセンタータンクレイアウトである。通常は後席床面下に備える燃料タンクを前席床面下に置くこの方式は、もともとデッドスペースだった前席座面下の空間を有効活用、後席足元をフラットとすることができた。
その広大な印象を受けるフィットをベースとして、ハイキャビン+3列シートとしたのがモビリオである。
キャビンの様子を写した写真からは恩恵が伝わりにくいかもしれない。しかし乗り込んでみるとフットスペースに富んでいることがよくわかる。そしてセンタータンクレイアウトの美点を最大限に生かしたのが、3列目シートの2列目下への収容機能である。つまり、2列仕様で使っていても荷室にはシートがなく、有効に活用できるということ。このあたり、床下ダイブダウン機構で3列目を収めるステップワゴンでもその思想が継承されていて興味深い。ホンダのお家芸のひとつといえるだろう。
実際にフィットとはどれくらいのサイズ違いなのだろうか。
全長4055 × 全幅1685 × 全高1705 × 軸距2740mmがモビリオ。
全長3830 × 全幅1675 × 全高1525 × 軸距2450mmがフィット。
路上で見るともっと大きなクルマに見えるのだが、こうしてフィットと比べてみると小さいクルマということがよくわかる。グラスエリアを広大に、そして水平にしたことで、開放的なキャビンを実現しているのもモビリオの特長。ヨーロッパを走る路面電車をモチーフにしたというのもうなずける話だ。
ユニークなドアを備えていたのも記憶に残る。上下ふたつのフロントドアのヒンジを鉛直配置ではなく、8度前傾していた。こうすることで開扉時にサッシュ上端が遠くなり、乗り降りが楽になる。非常におもしろい試みである。
リヤドアにはスライドドアを採用。ヒンジドアに比べてどうしても重くなりがちな構造ではあるが、狭いところでも気を使わずに開閉できるのが美点。また、荷物の載せ降ろしにも優れているのがスライドドアのいいところだ。
運転席からの視界良好性にも気が払われた。対フィットでヒップポイントを高め、フロントガラスの下端を下げてスクエアな形状とすることで車両感覚をつかみやすくしている。シフトセレクターはセンターパネルの高い位置にセット、左右席のウォークスルーを可能にしている。水平と直線基調のキャビンデザインが、いかにも運転しやすそうだ。
水平のグラスエリアが特異な印象を与え、路上でも強い存在感を放っていたモビリオだったが、評判を得られなかったのか、2年強という短期間でこのフロントマスクを刷新している。パワースライドドアの装備やDOHCエンジンの追加などがなされた後、後継車となるフリードが発表されるのと入れ替わりで、2008年6月に販売を終了している。