「量産可能な自動運転車両の開発はいわば十種競技だ。一つや二つの"種目(開発項目)"で良い成績を得ただけでは不十分だ」とロバート・ボッシュの自動運転部門のStephan Hönle氏は言う。「我々のように、あらゆる分野・項目で成熟していなければならない。そこで初めて、自動運転車両を公道や市街地で安全に走らせることができる」
都市環境における完全自動・ドライバーレス車両の決定的な要素は各種センサーを用いた車両周辺の把握だ。ごくわずかな時間でセンサーからの情報を分析・解釈し、走行に必要な情報として入力するには膨大な計算処理能力が求められている。つまり完全に自律でドライバーレスの自動運転車は、いわば移動するスーパーコンピュータのようなものになるわけだ。同時に、実現には多用途かつ冗長なシステム構造と最大限の安全機能を兼ね備えなければならない。これを実現するには必要な計算処理を複数の回路で平行して行う構造になっている。つまり、システムはこの複数の並列計算処理の結果を必要に応じて即座に利用できる。
このように運転システムでは、ボッシュとダイムラーは個々のコントロールユニットから成るコントロールユニットのネットワークを利用している。ボッシュとダイムラーが車両制御用に開発したアルゴリズムを実行するためのプラットフォームはアメリカ半導体企業Nvidiaから供給されている。コントロールユニットのネットワークはレーダーや画像検出、LIDAR(光検出と距離)、超音波などのあらゆるセンサーからデータを収集し、わずか数ミリ秒以下の時間で処理し適切な運転計画をたてる。ネットワーク全体では一秒間に数百兆もの処理が行える性能となっている。これは数年前ではSクラス車両を数台集めてようやく実現できた性能だ。
コントロールユニットのネットワークはダイムラーとボッシュが2019年下半期中に公道実証試験を始める車両にも搭載される。それだけではない。両社はサンフランシスコ湾岸のシリコンバレーにおける指定のルートを走るシャトルサービスを提供する予定だ。実証試験では自動運転・ドライバーレス車両が既存の巨大交通ネットワークに組み込めるかを検討するうえでの重要な情報を集めることが期待されている。現在、多くの都市で既存の交通輸送システムに対して負担となる問題が浮き彫りになっており、今回の実証試験ではこのような新技術がどのように解決策を生み出すカギとなるかが注目されている。
2017年4月から続いている都市部での完全自律・ドライバーレス運転に関する共同研究では、市街地における交通の流れを改善し、道路での安全性を高めつつ未来の交通の在り方の重要な指標を示すことを目指している。この技術は特にカーシェアリングの普及を後押しするだろう。それに加えて、車内での滞在時間を最大限に有効活用できるようになったり、例えば運転免許証を持たない人にも新たなモビリティの機会を与えることになることが期待されている。
ドライバーが車に向かうのではなく、車がドライバーのもとにやってくる。都市の定められた範囲では、ユーザーはカーシェアリングのクルマやドライバーレスの車両を便利に利用することができる。本プロジェクトでは世界を率いる自動車メーカーが誇る車両とモビリティの総合的な専門家と、世界最大級のサプライヤーが誇るシステムとハードウェアの専門家の双方を結束させる一大プロジェクトだ。これは新技術を十分に検証して、且つ何よりも早く実現することを目的としている。
ボッシュとダイムラーの従業員は、ふたつの地域で共同開発を進めている。一つはドイツのシュツットガルト近郊の都市圏で、もう一つはアメリカのサンフランシスコ南部のシリコンバレーにあるサニーベールだ。両社の従業員は同じオフィスを共有している。これにより、迅速な連絡や確認などが可能になっている。同時に、彼らは親会社からの膨大なノウハウを最大限に活用できるようになっている。両社は共同開発に同等の資金を投じている。
このプロジェクトに携わっているメンバーはドライバーレスな自動運転車両のコンセプトとアルゴリズムを開発している。ダイムラーの目標はこれに必要な運転システムを作り上げることだ。このため、同社は開発に必要な車両や試験走行の場、そして実証試験の車両を提供する。ボッシュはセンサーやアクチュエータ、コントロールユニットなどのコンポーネントの開発を担当する。両社は開発・試験などに研究施設や試験装置を使用するほか、インメンディンゲンとボックスベルクのテスト施設を活用する。更に2014年からメルセデス・ベンツがカリフォルニアのサニーベールでの自動運転車両の走行試験を行う許可を得ている。また、同様に2016年からベーブリンゲンのジンデルフィンゲンでの許可も得た。ボッシュは2013年初頭にアメリカとドイツの公道で最初に自動運転車両の走行試験を実施した最初の自動車サプライヤーだ。