PCFCは、理論的には従来のすべての発電デバイスを超える発電効率75%を実現できる可能性を有しているものの、プロトン導電性セラミックスの作製には1700℃以上の高温焼成が必要であり、これまで大型化が困難だった。今回、量産プロセスにも適用可能な拡散焼結技術を開発したことで、実用的な80mm角サイズのPCFCの作製を実現した。今後、産学官の連携研究をさらに推進し、次世代分散電源として活用が期待できる超高効率燃料電池の実現を目指す。
燃料電池は、化学エネルギーを直接、電気エネルギーに変換するものであり、エネルギー変換(発電)効率が高いことで知られている。特に、セラミック材料で構成される固体酸化物形燃料電池(SOFC、Solid Oxide Fuel Cell)は高温で作動でき、燃料電池の中で最も発電効率が高い。SOFCの主要構成部材であり、選択的にイオンを透過させる固体電解質層は、従来、酸化物イオン導電体の安定化ジルコニアが用いられてきた。しかし近年、選択的プロトン透過セラミックス膜へ代替することにより、理論的に発電効率が飛躍的に向上し、すべての発電デバイスを超える発電効率75%で発電できることが報告されており、電解質層にプロトン導電性セラミックスを適用したプロトン導電性セラミック燃料電池(PCFC)の実現への期待が高まっている。
しかし、PCFCの実現には、これまで50mm角以上の実用サイズに適用できる焼結技術は開発されておらず、またPCFCに用いられるプロトン導電性セラミックスには電子リークにより電圧効率が低下するなどの課題があった。
今回、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業で、産業技術総合研究所(産総研)は、パナソニック、ノリタケカンパニーリミテド、東北大学、宮崎大学、横浜国立大学、一般財団法人ファインセラミックスセンターとの連携研究により、世界で初めて実用サイズのプロトン導電性セラミック燃料電池セル(PCFC)の作製に成功した。
プロトン導電性セラミックスの作製には1700℃以上の高温焼成が必要であり、これまで大型化が困難だった。今回、量産プロセスにも適用可能な拡散焼結技術を開発したことで、実用的な80mm角サイズのPCFC作製を実現した。また、電子リークを抑制する電解質を多層化する積層化技術も開発し、電圧効率を大幅に向上することに成功した。
プロトン導電性セラミックスは難焼結材料のため、焼結に1700℃以上の高温焼成が必要であるだけでなく、実用サイズのPCFCセル作製技術が開発されていないため、量産可能な製造プロセスにおける焼結技術の開発が求められていた。
今回、焼結挙動について詳細な分析を進めた結果、焼結助剤を含む燃料極支持体と薄層電解質を共焼成する過程で粒界偏析することなく遷移金属を優先的に電解質中に完全固溶させる拡散焼結法を考案した。本焼結法により、1500℃での焼結率が100%(密度99%以上)、ガスリークがない緻密な電解質層を得ることに成功し、実用サイズのPCFCの作製を実現した。
燃料電池に適用可能なイオン導電率を有しているプロトン導電性セラミックスとして、Ba系ペロブスカイト構造の材料が知られているなか、CO2への化学安定性も必要であることを考慮するとBaZrO3系組成の材料を選択する必要がありが、これまで、燃料電池作動環境において電子リークが生じていたため、電子リークの抑制、つまりプロトン輸率の向上が課題となっていた。
今回、燃料極側にBaZrO3系材料の薄層電解質を選択し、さらに空気極側に高いプロトン導電性を有する電子リークブロック薄層を積層化させる方法を考案し、CO2耐久性と電子リーク抑制を両立させることに成功した。
今回、評価用に作製した50mm角平板のPCFCを用いて、発電特性の実証を行なった(図4)。今回取得したデータは、エネファームなどに使用できるCO2耐久性を有したPCFCとしては、実用サイズの単セルでの初の実証データとなる。700℃近傍にて作動させる実用サイズの従来型SOFCの発電特性が700~750℃、0.85V作動で電流密度が0.2~0.3A/cm2程度であるのに対し、開発したPCFC発電セルでは、100℃低い作動温度600℃においても0.85V付近で電流密度0.3A/cm2であり、SOFCより発電特性が優れていることを確認できた。
今後は、単セルショートスタック(単セルを、数セル電気的に積層したもの)の効率評価による課題抽出を行ない、超高効率PCFCの実証に向けて産学官の連携研究をさらに推進し、次世代分散電源として活用が期待できる超高効率燃料電池の実現を目指すことで、CO2の大幅削減に貢献する。