これまで、主に人間の目による認識で衛星データの解析が行われていたが、近年急速に応用範囲を広げているAIによる自動解析が、アメリカのベンチャー企業を中心に進められている。超小型衛星を活用した100機以上の衛星コンステレーション(星座の意。複数の衛星による観測網)が実現され、1日に獲得される衛星データは人間が全て解析することができない量になっている。
そのため、AIを活用し、全てのデータを解析することで、様々な人間活動による地表面の変化が自動的に解析できるようになってきた。例えば、店舗の駐車場に停められている自動車の数を数えることで来店客数の変化を推定したり、石油コンビナートのオイルタンクの上蓋にできる影を観測することで石油の貯蔵量を推定するなど、これまでの軍事防衛や災害対策など政府による利用だけにとどまらず、経済活動のモニタリングにも活用され始めている。
これまで自動解析に活用されていた衛星データは、主に光学衛星による可視光を用いた衛星写真だったが、この度スペースシフトとRidge-iが開発した新たな方式では、専門家でも判読が難しいとされるレーダー衛星の画像をAIによって自動解析することを可能にした。レーダー衛星は光学衛星と異なり、衛星から発するマイクロ波の反射により地表を見るため、独特なノイズがある画像になり、地表の様子を判読するためには特殊な知識を必要とする場面が多くあった。一方、太陽の光を必要としないため、雲で被われていても地表の様子を見ることができ、夜でも観測可能であるなど利点も多く、今後の衛星データ利用の拡大においては重要な存在だ。
新方式の性能の検証のため、政府のレーダー衛星である「だいち1号」のデータを活用し、オイルスリックと呼ばれる海洋上に現れる油による薄膜の検出を自動的に行う技術を開発した。
オイルスリックは主に海底油田に由来し、海底から石油が海面に浮上した後、海流等によって流された際に現れる筋状の現象で、海底油田の発見や、タンカー事故などによる油の流出状況把握、貨物船や漁船などによる不法な排油の監視に利用されてきた。これまでは経験のある人間の目視により時間をかけて解析が行われてきたが、今回開発した新方式では8割程度の正解率で瞬時にオイルスリックの場所や大きさをAIによって自動的に判別することに成功した。
本技術は、今後エネルギー開発のほか、漁業など海洋状況の把握のために活用が期待される。また地上に応用することにより、様々な地表面の変化を気象状況や時間などに左右されず、途切れることなく観測することが可能になる。
地球のおよそ75%は天候不良や夜間により光学衛星では観測できないため、超小型衛星を活用したレーダー衛星網の登場と、レーダー衛星画像の自動解析技術は地球上をくまなく観測するためには必要不可欠な技術。スペースシフトとRidge-iは、さらなる宇宙データ利用の拡大のために、今後もレーダー衛星の自動解析技術を発展させ、新たな技術を開発していく。
詳細:レーダー衛星画像のAIによる自動解析
http://www.airc.aist.go.jp/gsrt/sar-ai.html