この研究成果で重要なのは、高エネルギー変換効率と高耐熱性を併せ持つ新しい半導体ポリマー「PBDTTT-OFT」を開発したことにある。耐熱性と高エネルギー変換効率を両立する「PBDTTT-OFT」は、これまで有機太陽電池の材料として広く用いられてきた「PBDTTT-EFT(またはPTB7-Th)」に似た骨格を持っているものの、「PBDTTT-EFT」に比べて直線状の側鎖を持ち、高い結晶性を持つ膜を形成し、熱による導電性の低下が従来の「PBDTTT-EFT」に比べて小さい。
さらに、超薄型基板材料と封止膜にも新たな工夫を追加。従来の超薄型基板として用いていたパリレンに比べ表面平坦性と耐熱性に優れた透明ポリイミドを基板に用い、従来の超薄型有機太陽電池よりも高いエネルギー変換効率と耐熱性を実現。また、撥液性に優れたポリマーとガスバリア性に優れたポリマーの二層からなる封止膜構造(二重封止膜)を採用したことで、大気安定性を大きく改善した。 今回開発した超薄型有機太陽電池はガラス支持基板から剥離した状態で高いエネルギー変換効率を示す(右図)。具体的には擬似太陽光(出力100 mW/cm²)照射時における複数素子の平均値で、短絡電流密度(JSC)が17.2 mA/cm²、解放電圧(VOC)0.79 V、フィルファクター69%であり、エネルギー変換効率9.4%、最大10.0%を達成した。同研究グループは、これまでに超薄型有機太陽電池でエネルギー変換効率を7.9%まで改善していたが、本研究によってさらに約1.3倍向上させることに成功した。 また、この有機太陽電池を5cm角の超薄型基板に110個形成した上で電気的に接続させることにより、大面積モジュールを形成。このモジュールで、擬似太陽光(出力100 mW/cm²)照射時における最大電力36 mWを達成している。
このような高い耐熱性を持つことにより、アパレル作製時に布地の接着などに一般的に用いられているホットメルト手法が使用可能になり、布地への貼り付けに成功した。布地の材質にはポリエステルを用い、超薄型有機太陽電池と布地の間に加熱によって溶けるポリウレタン製のメルトフィルムを挟み、加熱圧着をすることで太陽電池を布地に貼り付け(左図)。なお、同手法の前後で太陽電池の特性の変化や劣化はほとんど観測されなかったという。 本研究では、新しい半導体ポリマーと新しい基板材料、封止構造を組み合わせることで、耐熱性と高いエネルギー変換効率を持つ超薄型有機太陽電池を実現し、また太陽電池性能を劣化させることなくホットメルト手法で布地へ密着させることにも成功。衣服貼り付け型の太陽電池を容易に実現できるだけでなく、加熱を伴う過程にも耐えうるフレキシブルな電源となり、車内などの高温・多湿環境下でも安定して駆動する軽量な電源の実現が期待できる。