これらの含有率が規制量を超えた製品を取り扱う事業場には、30年間の作業記録・保存、特殊健康診断の実施、保護具の人数分常備・使用、発散抑制装置の導入など、従業員や近隣環境保護のための対策が数多く義務づけられている。
さらに、2016年には労働安全衛生法において化学物質リスクアセスメントが義務化され、こちらも対象となる化学物質が毎年追加される傾向にあるため、企業のコンプライアンス(法令遵守)や環境問題に対する世間の目が厳しい昨今では対応が急務となったといえよう。
そして、少子高齢化に伴う人材不足は、今や日本全体の問題となっているが、典型的な3Kの作業環境であることが多く、しかも2012年以降の自動車保険等級制度改定や予防安全技術の普及に伴い事故件数=入庫台数の減少傾向が続いている鈑金塗装工場では極めて深刻で、大手ディーラーの工場でさえも募集人員の確保に苦慮している。
そのため、人材をより早く多く獲得・確保・育成するためにも、職場環境改善によるES(従業員満足度)向上が不可欠となりつつあるのだ。
このような状況から、関西ペイント以外の塗料メーカーも水性ベースコートやコンピューター調色システムの開発・進化・販売を積極的に促進しており、これらを導入する鈑金塗装工場も急増している。
とはいえ、関西ペイント販売が言う「2017年9月現在、出荷ベースで当社溶剤塗料の13%が水性塗料に切り替わっている。今年度末には15%を超える可能性が高い」という数字は比較的高い部類で、日本国内全体の鈑金塗装工場における水性塗料の普及率は今なお低い。
そのため、水性ベースコートを導入した鈑金塗装工場は声高に「100%水性化」を謳うことが多いのだが、実際に水性化されているのはあくまでベースコートだけ。下地用塗料のプライマーサフェーサー(プラサフ)や透明トップコートのクリヤーは多くの塗料メーカーが水性のものをラインアップしておらず、大半の工場で厳密には「100%水性化」されていないのが実情だ。
こうした状況を打破し、さらに有機則にも塗料のみで対応するため両社は、労働安全衛生法と有機則に非該当となる自動車補修用「オール水性 有機則フリーシステム」を開発したことを、3月7日に発表した。
プラサフ・ベースコート・クリヤーとも主剤を水性化するのみならず、硬化剤や希釈水、ガンクリーナー(スプレーガンの洗浄液)も有機則フリー(非該当)化したこのシステムは、市場モニター実施を経て今年夏頃より本格的に販売開始される見込みとなっている。
今回のIAAEでは、会場内に設置された塗装ブース内で、「オール水性 有機則フリーシステム」を用いた塗装を実演。ドアパネルへの水性プラサフ塗装と、「AIカラーシステム」と水性ベースコート「レタンWBエコEV」を用いたトヨタ1F7シルバーメタリックの調色およびフロントフェンダーのボカシ塗装、水性クリヤー塗装を行い、ゴミ取りを含めた作業の容易さと仕上がり品質の高さをアピール。
なお、水性プラサフ塗装前の脱脂にも水性のクリーナーを使用しており、同社の水性化・有機則フリー化にかける徹底した姿勢を伺わせていた。
関西ペイント販売では「人・環境・会社にやさしい」ことを「オール水性 有機則フリーシステム」導入のメリットとして掲げていたが、一般ユーザーがそのメリットを直接享受できるのは、損傷個所を修理し納車してもらった直後だろう。
溶剤系塗料に多く含まれるVOC(揮発性有機化合物)の使用量、ひいては車内への残存量が激減するため、シンナー臭などの悪臭がほぼ感じられなくなる。
においに敏感な女性や、化学物質への抵抗力がまだ低い乳幼児がいる家庭は特に、どのような塗料を使っているかで入庫先の鈑金塗装工場を選ぶべきであり、また選べるようになるべきである。「オール水性 有機則フリーシステム」は、今後その選択肢が広がることを期待させるものだった。