・決まったルートを走る無人自動運転バスと、融通の利く「ラストマイル(目的地までに残された距離)」サービスを提供する他の自動運転車とを組み合わせたシステムが実現すれば、住民、特に高齢者が地域社会の活動的な一員であり続けるのに役立つことになる。
・自動運転をめぐって現在行われている議論はおおむね高速道路や都市部への影響に焦点が当てられている。しかし、道路が空いていて、交通環境が複雑でない地方の方が、自動運転による移動サービスの実験場にはるかに適する。地方で公共輸送機関に対する需要が増している状況にも合致する。車を運転できない、あるいは運転したくないが、それでも移動の足は必要だという人たちが、地方では増加している。
■地方の輸送事業者が利益を見込めるビジネスモデル
自動運転車による移動サービスの確立は、地方自治体に大きなメリットをもたらすだろう。地方の公共交通が恒常的な赤字となっている現状とは逆に、自動運転による輸送サービスは黒字経営も可能である。
「小規模の市町村で移動サービスが不足している一因は、公共輸送が非常にコストのかかる事業であり、運賃だけでは経費を賄えないことにある。そのため、公共輸送システムが補助金頼みになっているケースが非常に多い。たとえば、ドイツでは運営費のおよそ50%を補助してもらっているが、地方自治体は、補助の削減を常に求めている」と同社パートナーのウルフギャング・ベルンハルト氏は指摘する。
コスト負担の最大の要因は運転手の人件費である。ということは、自動運転車を導入すれば、地方の輸送サービスの運営費は大幅に安上がりになるということだ。
■ラストマイル ― 利益の出る新サービス
地方での自動運転による公共輸送は、事業者が既存路線の自動運転化に加えて、利用者にラストマイル自動運転移動サービスも提供する。利用者自身が無人の自動運転車を予約して、好きな時間と場所に送迎してもらうことができる。たとえば、買い物帰りなどに路線バスの停留所まで来てもらい、自宅までの足にすることもできる。「利便性が増すのだから、利用者は料金が高くてもこのサービスを喜んで利用するだろう。これにより、輸送事業者は純利益を16%増やし、収益性の高いビジネスモデルを構築することが可能になる」と同社パートナーの貝瀬斉氏は指摘する。
さらに、地方は自動運転車を公共輸送に利用するための路上走行試験に適した場所である。「これにより、OEM(自動車メーカー)、公共輸送事業者、自治体にとって、大きな将来性が期待できる交通モデルの実証試験を行う絶好の機会だと私たちは捉えている。地方で得る貴重な経験は、後々、都市環境に合わせて応用することができるだろう」と貝瀬氏は述べている。