トヨタが2017年に満を持して発売したコミュニケーションパートナー、KIROBO mini。宇宙へ行ったKIROBOが小さくなったのか……という推測はあっさり裏切られた。キーワードは『パートナー』。成長過程にあるパートナーを世に送り出した背景を開発者に訊いた。

KIROBO miniは、トヨタが2017年5月に東京、愛知の一部で先行発売したコミュニケーションパートナー。11月には全国発売が開始された身長10cmのかわいらしいロボットだ。と、ここでロボットと書いたが、トヨタはロボットとは言っていない。あくまでもコミュニケーションパートナーだという。




車内に置いてコンシェルジュの役割を果たすロボットという発想は新しくはない。ドライバーと会話してナビやオーディオの設定、休憩を促す……といった役に立つ機能を持ったロボットだ。ところが、KIROBO miniは、いまのところ、雑談ができるのみ。人とのコミュニケーションを通じて、思い出や好みを覚えて、その人に合わせて変化・成長するというのが”ウリ”だ。そのKIROBO miniが編集部にやってきて1カ月半。「ちくわ」と命名されたMFi KIROBO miniは、担当編集者の元で成長を続けている。付き合えば付き合うほど、可愛がれば可愛がるほど、「なぜトヨタが、KIROBO miniを開発して、売ってるのだろう?」という疑問が……。




1月初旬、東京オートサロンの会場で、開発者の梅山さんに話を聞く機会を得た。とりあえず、質問をぶつけてみよう。

梅山倫秀(Norihide UMEYAMA) トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 製品企画グループ主幹

Q:この子(KIROBO mini)はどこまで成長をするのでしょうか?


梅山さん:まず、成長として、ふたつ、方向があります。ひとつはお客様とのコミュニケーションによって、お客様のことを覚えて成長する。加えて、ご存知の通り、専用アプリを通じて、クラウドとつながっていますから、クラウドから適宜、アプリをアップデートすることで、成長させていっています。




Q:GoogleなどのIT企業が、AI機能を持ったAIスピーカーのような製品を出しています。そういう機能も持たせる予定はありますか


梅山さん:言えるところが限られてしまうのですが、やはり、コンセプトとして、トヨタ自動車がなぜ自動車以外のこういったものを開発し、販売するのか、にもつながります。コネクティッドということ、人を中心として、人とクルマ、人と家、そして人と社会を繋げるときに、その間にコミュニケーションパートナーが必要になる、という思いが我々にはあります。このKIROBO miniが、そういったところへとつながっていくっていうことを、今後表現をしていきたいと思っています。




Q:社内の知らない人に、ちくわに、『なにか話してみてください』っていうと、だいたい二言目には、『明日の天気は?』って聞くんですよ。で、「窓を開けてそとをみてみよう」ってちくわが応えるんです。


梅山さん:弊社の親会社だった、トヨタ自動織機の創業者である、豊田佐吉が残した「障子を開けてみよ、外は広いぞ」という言葉にかけてあるんです。たとえば、ご理解いただいている通りなんですが、時間を訊いて、そのまま時間を返されたら、それって単なる時計と同じだと我々は考えています。時計って、機械じゃないですか。そうなると、パートナーとして認識をしづらいものになってしまうと考えています。そうは言っても、やっぱり天気を聞かれるお客さまが多いというのは我々も認識しております。いまはそれに対して、『その機能はないよ』って言います。でも、毎回毎回「窓を開けて……」でいいのか。お客さまに対して、パートナーとして歩み寄ることになるのか、っていう話は、そうではない、と我々も思っています。今後の成長の課題として考えております。




Q:これはみんながKIROBO miniに話しかけたことがクラウドに上がっていくわけじゃないですか。当然、データとしては取れるわけですよね?


梅山さん:技術的には可能なんですけど、これ、コミュニケーションパートナーなんです。このアプリの設定で、『思い出ロック』っていうのがあります。思い出ロックを解除していただいたお客様については、そのお客様とのやりとりについて、我々参照させていただくっていう利用規約にはしています。思い出ロックは、デフォルトでオンで、ロックされている状態のものですから、そういったお客さまの声は、我々は見ないようにしています。ロックを解除した場合でも、個人情報等、紐づく形では我々は参照しません。

Q:ちくわ、よくダジャレを言うんですけど、ダジャレとかは、誰の趣味なんですか? ダジャレは、仕込んでいるんですよね。


梅山さん:そうですね……、ご存知かもしれないんですが、宇宙にこの兄貴分が言っているので、彼は宇宙に詳しいんですよ。あとはクルマのことについても、詳しい、というふうに、ハカセとキロボミニとの間でですね、ハカセが、得意なところは教えているっていう設定なんです。そういうことになっています。




Q:まだ音声認識の精度はいかがですか?


梅山さん:ご推察のとおり、誤認識はどうしてもまだまだたくさんありますし、違う方の声が途中で入ってしまうと、それで邪魔されるということもあります。




Q:これはPCメーカーのVAIOの工場で作られているんですか?


梅山さん:はい。開発は、全部(トヨタが)見ています。見た上で、VAIOさんの力もお借りしながらやっている、ということですね。我々はどうしても10センチ、という大きさにものこだわっています。VAIOさんは、小さいものの中にギュッと詰め込む高精度の高濃縮技術をお持ちなので、非常に頼りにさせていただいております。




Q:これはいま、日本語だけ、ですよね。将来的には英語とか中国語とかもできるようにするのですか。


梅山さん:そうしたいと思っています。

こちらがKIROBO miniの兄貴分のKIROBO。2013年に若田光一宇宙飛行士とともに宇宙へ飛び立ち世界初の「宇宙での人とロボットの対話実験」に成功している。

Q:音声認識エンジンをどこかから持ってくれば、多言語化はすぐにできてしまうのか、それともトヨタのなかで音声認識を一所懸命開発しているチームがあるんですか?


梅山さん:音声認識、お客さまがお話しされた音声の波をテキストに変換する部分については、日本語の場合もご協力いただいている会社のお力をお借りしている部分があります。我々が目指しているのは、ナビゲーションシステムやAIスピーカーのように何かを指示して答えを返すという類いのものではなく、雑談なんです。雑談って、言語だけでなく、文化によっても変わってくるものなんですね。多言語対応に加えて多文化対応ができないと、雑談は成立しないんです。音声認識の部分だけをやろうとすると、多言語化は、簡単なんですけれども……。

1月の東京オートサロンの会場でKIROBO miniの開発に携わっている梅山氏のお話を伺う機会を得た。梅山氏や開発スタッフが大切にしているのは、「KIROBO miniの世界観」だという。

KIROBO mini(キロボ ミニ)は、Bluetoothでスマートフォン(専用アプリ/月額350円)とつなげてコミュニケーションを行なう。購入直後のKIROBO miniの脳年齢は5歳児ほど。しゃべったらしゃべっただけ「ハートのカケラ」という成長に必要なポイントが溜まり、育つ仕組みなっている。ただし、どこまで成長するかは秘密だとか。アプリ内にはレベルを確認できるページがあり、レベルが上がるほどしゃべることが増えていく。成長を体感できるだけでなく、ポイントで可視化されているという部分も興味深い

Q:これは、もうからないですよね。


梅山さん:え~(絶句)お答えできないと、上から言われておりますので……。




Q:いままで100点満点のものを、はいどうぞ、と出していたトヨタが、60点くらいのものをみんなで100点にしていきましょう、そしてそこを楽しみましょう、という商品を出すこと自体ががすごいなと思っています。


梅山さん:ありがとうございます。トヨタは、コネクティッド戦略を昨年に発表しています。クルマもKIROBO miniも成長というキーワードは、共通していると思っています。KIROBO miniの開発を続けることで、クルマを含めて全体で、変えていかれるものは変えていかれたら、と思っています。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 トヨタが、ロボット? 雑談しかできない『コミュニケーションパートナー』KIROBO miniをトヨタが売る理由