*ダイナミックレンジ:撮影できる明るさの範囲(最も明るい部分と最も暗い部分の比)
有機CMOSイメージセンサは、有機薄膜と電荷蓄積部を金属配線で接続する構造であるため、蓄積電荷を完全に読み出すことができない。そのため、画素(信号電荷蓄積ノード)リセット時のリセットノイズの影響を受けるという課題がある。さらに、8Kセンサのような多画素センサでは、ノイズキャンセル時に、垂直方向に並ぶ4000を超える画素分の大きな負荷を、一度に駆動する必要があり、ノイズ抑制に時間がかかるという課題があった。本センサでは、当社独自の半導体デバイス技術と、新たに開発した『画素内-容量結合型ノイズキャンセル回路』により、発生したリセットノイズを、多画素駆動時にも、高速にキャンセルする構成を開発。本構成では、電流源以外の要素を全て画素内に設けた負帰還ループを用いることで、画素毎に、リセットノイズの抑制を高速に実現することができる。
有機CMOSイメージセンサでは、配置自由度のある回路部に大容量の容量素子を搭載することで、同一画素構成を用いながら、カメラシステムからのスイッチ切り替えのみで、高感度モードと高飽和モードの両モードを実現できる。高感度モードでは、4.5万電子の光量までのデータを高感度に撮像することが可能。一方、高飽和モードでは、45万電子の大きな光量までのデータを撮像することを可能としている。本センサでは、高飽和モードにおいて、高感度モード比10倍の大きな光量まで撮像可能なので、図3(a)のように、高感度モードでは白飛びしてしまい、階調の表現できないランプのフィラメントの細かい巻き構造まで、鮮明に映し出すことができる。また、図5のように、スタジアムの屋根の影にいる人の表情から真夏日中の青空と雲まで、さらに、図6のように、薄暗い室内から日の当たる庭まで、明暗差の大きいシーンにおいても、黒つぶれ、白飛びのない、色調鮮やかな撮像が可能となる。
有機CMOSイメージセンサは、有機薄膜へ加える電圧を制御するだけで、有機薄膜の感度を変更可能。本機能を活用することで、従来のシリコンイメージセンサでは実現できなかった、以下のような機能を実現できる。
■ 感度変調 実施例1: 8K解像度での全画素同時撮像可能なグローバルシャッタ機能
有機薄膜へ加える電圧をON、OFF制御し、有機薄膜の感度を制御することで、8Kセンサのような多画素駆動時でも、全画素同時撮像可能な『グローバルシャッタ機能』を実現。グローバルシャッタ機能を用いて撮像することで、図3(b)に示すように、回転体の文字を歪みなく、鮮明に撮像することができる。また、図7のように、高速道路走行時や産業検査時のような、高速動体撮像時にも、歪みのない撮像が可能になる。
従来のグローバルシャッタ型のシリコンイメージセンサでは、データを全画素一括で蓄積するために、転送回路と電荷を蓄積しておく電荷蓄積容量などの新たな素子を追加する必要があり、光を捉えるフォトダイオードと追加回路との面積の取り合いが発生、画素サイズを小さくできない、飽和光量を増やすことができないという課題があった。一方、有機CMOSイメージセンサでは、追加素子が必要ないため、セルの小型化、高解像度センサが実現できるとともに、配置自由度のある回路部への飽和拡大容量の搭載で、暗いシーンから非常に明るいシーンまで、歪みのない正確な撮像が可能となる。例えば、図9に示すように、ビル群を高速パンニング[5]しながら撮影した場合の、明るい空と暗い窓のように、従来は白飛び、黒つぶれしてしまうコントラストの大きいシーンにおいても、有機CMOSイメージセンサでは、ローリングシャッタモードと同様に全領域の階調を保持したまま、歪みのない映像データの取得が可能となる。
■ 感度変調 実施例2: 感度を連続、無段階に変更可能な「電子NDフィルタ技術」
有機薄膜(図8のVITO)へ加える電圧を制御し、有機薄膜の感度を所望の値に変更することで、従来、撮影条件により複数のNDフィルタを装備することが必要であったカメラ使用シーンにおいて、カメラシステムへの電圧制御のみで、電気的にNDフィルタ機能を実現することが可能。本機能の使用により、従来のシリコンセンサでは実現できなかった、撮影機材の簡易化、および、感度の連続、無段階制御が可能になるので、シーンに応じた撮影の自由度が広がる。
今後、これらの有機CMOSイメージセンサ技術を、業務放送用カメラ、監視用カメラ、産業検査用カメラ、車載用カメラなど幅広い用途に提案し、高解像度・高速・高精度なイメージング、センシング機能の実現に貢献していく。