NEDOプロジェクトにおいて、産業技術総合研究所は、有機合成に用いられる触媒反応の収率を人工知能(AI)で予測する技術を開発した。


開発した技術では、触媒構造の計算機シミュレーションデータと実際に触媒反応によって得られる実験収率を用いて構築したAIによって、触媒反応の収率を簡単に予測できる。この成果は、機能性材料や医薬品などの製造に用いられる触媒の開発期間を大幅に短縮させる触媒の自動発見を目指したAI技術開発の先駆けとなるものだ。

近年、製品ライフサイクルの短期化にともなって、半導体封止剤や導電性接着剤などの機能性材料の新しい素材を、従来よりも短期間で効率よく開発・製造することへの要求が高まっている。また、化学品製造プロセスでは、高い生産性や低コスト、省エネルギー、省資源、低環境負荷なども重要な課題となっている。このような製造プロセスに対して最適な触媒を正確に、素早く見つけ出すことが強く望まれている。




新たに触媒を開発するためには、従来の方法では触媒の設計や合成、触媒活性の評価を繰り返し実証する必要があり、触媒開発は、長い開発期間や膨大な研究開発費、多大な労力が必要であるなどの課題がある。NEDOでは、超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(2016~2021年度)において、それらの課題解決のための研究開発を実施している。




今般、NEDOプロジェクトにおいて、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、前述の課題を解決するために有機合成に用いられる触媒反応の収率をAIによって予測する技術を開発した。触媒反応の収率とは、触媒反応において、理論上得ることが可能なその物質の最大量(理論収量)に対する実際に得られた物質の量(収量)の比率のことだ。


この技術では、触媒構造の計算機シミュレーションデータと、その触媒による反応の実験収率をもとに構築したAIによって、触媒反応の収率が簡単に予測できる。この成果は今後、機能性材料や医薬品などの製造に用いられる触媒の開発期間を大幅に短縮させる触媒の自動発見を目指したAI技術開発の先駆けとなるものである。

開発技術の詳細

産総研では、電子材料や樹脂などの原料となるエポキシ化合物について、過酸化水素を使ってオレフィンからハロゲンフリーで製造する触媒反応の収率をAIによって予測する技術の開発に取り組んだ(図1)。

図1 モデルとした反応

ハロゲンフリーエポキシ化反応において、触媒反応の収率をAIによって予測するために、計算機シミュレーションによって数値化した原子の電荷や赤外吸収波数など、14種類のホスホン酸分子について、30個のパラメーターを用意した。それらとホスホン酸を触媒の1成分とした実際のエポキシ化反応の実験収率を相関づけて機械学習させ、AIを構築した(図2)。今回の開発した予測技術では、予測に大きく寄与するパラメーターを自動的かつ客観的に決定できる。また、パラメーターの予測への寄与の大きさを比較して、触媒活性の鍵となる触媒分子の化学構造や特徴を特定することもできる。

図2 実験データを機械学習させてAIを構築

構築したAIに、触媒活性を予測したい8種類のホスホン酸分子について、計算機シミュレーションによって数値化したパラメーターを入力すると、予測収率が得られた。


予測に用いたホスホン酸分子を実際に三元系触媒の1成分として用いてエポキシ化反応実験を行ない、エポキシ化合物の実験収率を評価し、実験収率と予測収率を比較した(図3)。これは、収率の予測に寄与するパラメーターを自動的・客観的に選別して構築したAIで、収率が予測できることを初めて示した研究成果である。現在のところ、平均平方二乗誤差は26%だが、今後開発が進むことで精度の向上が期待される。

図3 AIを活用したエポキシ化反応(図1)の収率の予測

今後の予定

今回開発した技術は、触媒の自動発見を目指したAI技術への先駆けとなるものだ。このため、今後、産総研は、本プロジェクトの中で新たに取得できる実験データや新規開発するシミュレータに今回開発した技術を適用して、予測精度の向上や触媒開発期間の短縮を検証する。NEDOは、今回のような事例を積み重ね、計算科学・AIを活用した材料開発の推進により機能性材料の開発期間の短縮化を図り、産業競争力強化を目指す。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 触媒開発期間が大幅に短縮できる! 産総研、人工知能(AI)による触媒反応の収率を予測する技術を開発