なお、不適切な完成検査の過去からの運用状況など事実関係や、その原因についての調査を、西村あさひ法律事務所に委託。調査により判明した事実関係とそれに基づく原因・背景に関する分析を踏まえて再発防止策が検討されている。
「問題となった事象」としては、
1.補助検査員や作業員らによる完成検査の実施
2.完成検査員の任命手続きにおける不備
3.監査時における不適切な対応
を列挙。
1.については、国内6工場のうちオートワークス京都を除く追浜、栃木、日産自動車九州、日産車体湘南、日産車体九州の各工場において、主に「テスター検査」と呼ばれる工程に関して、完成検査員に任命されていない補助検査員が完成検査を行うことが1990年代にはすでに常態化。特に栃木工場では、1979年から実施されていた可能性があることも判明した。
さらに、9月18日の国土交通省による日産車体湘南工場への立入検査で指摘された完成検査工程の不適切な取扱いについて、9月20日までに再発防止策を講じたが、その後も日産車体湘南、追浜工場、栃木工場、日産自動車九州、日産車体九州で完成検査員に任命されていない補助検査員や作業員らによって完成検査の一部が行われていたうえ、完成検査工程の変更が無届で行われていたことが、本調査の過程および社内調査において判明した。具体例は下記の通り。
日産車体湘南…「ハンドル切角」検査
追浜工場…「エアバッグ」等の検査
栃木工場…「盗難発生警報装置」、「車室外乗降支援灯(点灯)」、「ドアロックストライカー」検査
日産自動車九州…「タイヤ」、「スプリング」、「走行用前照灯自動制御装置」検査
日産車体九州…一部の検査を完成検査員に任命されていない補助検査員や作業員らが実施
また、栃木工場では、完成検査項目の一つである「車室外乗降支援灯(消灯)」の検査が未実施であった可能性があることを指摘している。
2.については、各車両工場において、完成検査員に任命されるために求められる座学講習の時間が短縮されていたほか、座学実施後の確認試験に関し、
・試験問題と答案が一緒に配布された
・教育教材を見ながら受験した
・答案提出後の間違い箇所を訂正の上再提出した
などの不正行為が行われ、完成検査員任命手続きに関して任命・教育の基準書に従った運用がなされていなかったことが判明した。
3.については、長年にわたり国土交通省および当社本社による定期監査、ISO認証のための審査において、現場監督者である工長や指導検査員(完成検査員のなかで指導的立場にある検査員)の指示により、完成検査に従事している補助検査員について、監査当日に限り完成検査以外の業務に従事させたり、完成検査ラインから外れるよう命じるなどして不正が発覚することを逃れていた。
また、係長の指示に基づき、工長が補助検査員に完検バッジを配布し、監査期間中は完検バッジを付けさせたうえで完成検査に従事させるといった、不適切な対応が常態化していた。
なお、上記の定期監査とは別に、2017年9月18日以降に日産車体湘南、9月26日に追浜工場や日産車体九州などで国土交通省による個別の立入検査が行われたが、その立入検査に際して、各工場現場では完成検査員以外が検査を行っていたこと、そのために印鑑の不正な貸し出しが行われていた実態について、完成検査員がマンツーマンで補助検査員の指導を行う体制を導入した時期について不正確な説明をしたり、関係資料の一部を修正、削除するなど、その事実を隠すために不適切な行為が行われていた。
一方、オートワークス京都については、調査の結果、本件の問題となった事象は発見されなかったとしている。
また「問題の原因・背景」として列挙されたのは、下記の通り。
1.完成検査員の不足
2.完成検査制度に関する完成検査員や補助検査員の規範意識の薄さ
3.完成検査制度に対する本社及び工場の管理者層の意識の薄さ
4.標準作業書と完成検査票の齟齬
5.基準書と実態の乖離、基準書の不明確さ
6.現場と管理者層との距離
7.内部監査体制の不備による不正の未発見
1.については、完成検査員は国に代わって完成検査を行うという重大な責任を負っており、製造工程における人員調整とは別段の、完成検査員の特殊性を踏まえた人員配置が必要という認識の下では検討されておらず、工場に割り振られる低減率の目標も工場全体に一様に適用され、完成検査員の確保に特段の配慮がなされることがなかったことを指摘。
しかも、車両工場の管理職及び日産本社は人員調整に際しても、完成検査員を養成するには数か月間の期間を要し、完成検査員を養成するには指導検査員が必要であることを考慮しておらず、その結果として完成検査員の人員に余裕が無い(欠勤時のフォローに備えた体制が取れない)もしくは不足する状態を招いた、と分析した。
2.については、完成検査員の多くは補助検査員が完成検査を行うことが法令や基準に違反することを認識しつつ、各工場は補助検査員の習熟度を管理・把握し、技能に習熟したと判断された場合に任命前の検査員に完成検査を行わせており、「国に代わって実施する完成検査の重大性を十分に認識しておらず、その規範意識は著しく鈍麻していた」と断定。
3.についても、全車両工場において補助検査員が完成検査に従事していた事実は、係長および工長は知っていたが、工場の品質保証課長以上の管理職がこれを全く把握しておらず、係長および工長に運営を任せきりにして、完成検査ラインの日々のオペレーションの実態を把握していなかったことから、「完成検査制度に対する本社及び工場の管理者層の意識の薄さが、完成検査員の規範意識の鈍麻に繋がった」と厳しく指摘された。
なお、6.については、「現場と管理者層の間の距離が、工場の独立性を重んじるという日産の気風、現場が創意工夫と目標到達を通じて課題を解決するということを重視する文化に一部由来する可能性がある」とし、社内に違法行為など不適切な行為がある場合は通報する内部通報制度の存在は知られていたが、通報しても「是正されないのではないか」と認識されていたことを明らかにしている。
そして「再発防止策」として、以下の10項目を掲げ、完成検査ラインおよび完成検査員運用の充実・厳格化、経営陣および従業員双方の意識改革、組織の見直しを実施することとしている。
1.完成検査ラインの構成およびオペレーションの修正
2.完成検査員の任命基準の見直し・教育基準の強化
3.完成検査員人員管理の改善
4.完成検査の運用・管理の改善
5.完成検査に関する理解是正
6.ユーザー目線に立った完成検査の実施
7.監査の改善
8.現場と管理者層の距離を縮めるための施策実施
9.組織の強化
10.上記対策の実施及び進捗フォロー体制の構築
特に、8.の施策の一環として、工場管理・運営の本社に対する可視化を目的として、本社生産部門に日本の工場全体を統括する常務執行役員を新たに配置。英国日産自動車製造会社、栃木工場、追浜工場などで生産部門の要職を歴任し、現在はジヤトコの代表取締役COOを務める本田聖二氏を、12月1日付で日産自動車の常務執行役員(CVP)に就任させる役員人事を発表した。そして、本田CVPの下、
・再発防止策の工場側の実行責任者として対策の実行度合いを報告
・工場の達成すべき目標とその達成度合いを報告
・目標達成のための実行計画の作成とその妥当性の検証
・人員の予実算の妥当性の検証と実績把握
を定期的に行うこととしたほか、完成検査に関する法令遵守状況をCEO(最高経営責任者。現在は西川廣人社長が兼任)が議長を務める内部統制委員会への定例報告事項と定め、CEOが直接監督できる体制を2017年末までに整える計画を明らかにしている。
この報告を受け、国交省は11月21日、日産に対し、報告に記載された再発防止策の実施を徹底すること、当面の間は本報告に記載された再発防止策の実施状況について四半期ごとに報告することを指示。
同時に、「再発防止策の実施状況を踏まえるとともに、立入検査の結果や今般の報告内容を精査した上で、必要に応じて追加措置がありうる」ことを示唆した。
また同日、複数の自動車メーカーによる完成検査の不適切な取扱いがあったことを踏まえ、型式指定車の完成検査のあり方について精査した上で、完成検査の確実な実施のために見直すべき点がないか検討するため、「適切な完成検査を確保するためのタスクフォース」を設置。28日にその初会合を開いている。