近年急速に進む電動化に伴い、クルマの環境は大きく変化している。そして同時にタイヤに求められる性能も変化している。横浜ゴムが新たに開発したコンフォートタイヤは「車内の空気感を変える」驚異の静粛性を誇るという。その飛躍を確かめた。

今年100周年を迎えた横浜ゴムが、次の100年に向けて新たな製品を発表した。それがアドバン・デシベルV552である。デシベルと言えば静粛性が売りのプレミアムコンフォートとしてイメージが浸透したタイヤだが、8年ぶりに新型となった5代目はその静粛性を大幅に向上させたという。パターンデザイン、プロファイル形状、内部構造、部材レベルに至るまで見直し、緻密に再設計し次世代タイヤのステージに上がった。




なぜそこまで静粛性をつきつめるのか? その背景には近年の電動化が進む新車事情があるだろう。イギリス、フランスが2040年には純粋な内燃機関車の販売を禁止すると発表し、中国もそれを検討するなどグローバルで電動化の流れがあるのは事実だ。そして電動化によって静かになったエンジンの代わりに目立つようになった騒音がタイヤのロードノイズというわけだ。




来年から日本でも自動車タイヤの騒音規制が国際基準に基づき、厳しくなるという話もあり、静粛性を追い求めるのは世界的な動きかもしれない。もちろん高速域では風切り音も見逃せないが、日本の交通事情(100km/h制限)では、まずはタイヤに静粛性が求められる。

静粛性は従来型と較べ、ロードノイズの騒音エネルギーで32%低減(編註:100dBが68dBになるわけではない)、パターンノイズで10%低減した。静粛性だけではなく、ウエットグリップも高いレベルにあるという。ウエット制動において6%距離を短縮し、ウエット円旋回でも1%旋回速度が向上。ついでに燃費も5%転がり抵抗を低減しているという。つまり全方位的に先代デシベルのV551を凌駕している。もうひとつ、テストドライバーがウエットのハンドリング路でのタイムを8%縮めているのも見逃せない点だ。単純な数字だけではなくリアルな運転環境でドライバーの期待に応えてくれる結果を示しているといえる。




その新タイヤを茨城・大子にある横浜ゴムのテストコース、D-PARCで試乗した。袋田の滝も近い、山奥のテストコースは全長約2.6km、バンクのある高速周回を持つ広大な施設だ。実際にテストコース内を様々な状況で試乗できたので報告したい。

新パターンはイン側のブロックサイズを小型化し、タイヤが路面に接触した際のノイズを抑制した。具体的には溝配置を緻密に最適化することで特定周波数のノイズを減少させた。アウト側はイン側同様にブロックを小型化しつつもサイプは非貫通として、コーナリング時の安定性も損ねてはいない。そのほかブロックのエッジにカット加工を施すことで偏摩耗も抑制したという。

溝の配置とショルダー形状を再設計した結果、接地面は従来の楕円形からより四角に近づき、これは偏摩耗抑制と高い静粛性に貢献するそうだ。

構造は通常より幅広のサイレント・ベルトと、ベルトのショルダー寄りに高剛性のサイレント・エッヂカバーを採用し、ショルダー部の振動を低減し、静粛性を高めたという。




さらにキャップコンパウンドのベースとなるゴムの厚みをタイヤサイズごとに見直し、ゴムの振動をコントロール。人間の耳につく100〜160kHzの周波数を抑制できた。

これらのたゆまぬ努力の甲斐あって、ざらついた路面で新旧を比較すると、明らかに新型の方が静粛で快適であった。静粛性があがると車格がひとつ上がったような高級感が出るから不思議だ。だが高速周回路を130km/hのアウトバーン速度で走らせてみると、少し柔らかい感じで日本向けタイヤであると感じた。

なおコンパウンドはウエット性能のグレーディングで最高となるaと、低燃費性能でもAを両立するために、独自のナノテクノロジーによって、A.R.T.MIXINGと呼ばれる新混合技術を開発し、コンパウンドのシリカの分散性、均質性を高め、ウエット性能を向上した。またサイド部にも発熱を抑えるゴムを採用することで低燃費も実現したという。




これらを総合するとつまり静粛性に優れ、ウエットグリップも高く、低燃費というよくばりな内容だ。今後は先述の静粛性規制だけではなく、CO2規制もますます厳しくなるから、ここD-PARCでの技術開発は休む暇もなさそうだ。現在はまだ24サイズだが18年春にはさらにサイズ拡大を計画しているという。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【静粛性の新境地】横浜ゴムのニュータイヤADVAN dB V552