当日は自動車産業と最先端テクノロジー企業のキーパーソンが一堂に会し、6つのセッションに分かれて討論。入場料は108,000円と極めて高額ながら、大相撲本場所中は土俵や溜席(砂かぶり)が配置されるフロアは大勢の報道陣と来場客で埋め尽くされた。
「コネクティッド・モビリティ」をテーマにしたセッション3には、トヨタ自動車専務役員・コネクティッドカンパニープレジデント兼ガズーレーシングカンパニープレジデントの友山茂樹氏、日産自動車・日産総合研究所・シリコンバレーオフィスのダイレクターであるマーティン・シーアハウス氏、本田技術研究所R&DセンターXセンター長の脇谷勉執行役員、サムスン電子の子会社で米ハーマン・インターナショナル・インダストリーズのディネッシュ・パリワルCEOが登壇。フィナンシャル・タイムズ自動車産業担当特派員のピーター・キャンベル氏がファシリテーターを務めた。
自動運転におけるAIについて、ホンダの脇谷執行役員は「ハードがソフトに追いついていない。このギャップをどう正すかが次の課題」と指摘。「ホンダは人間の生活・エクスペリエンスを常に念頭に置いている。エクスペリエンスとは感情的なもので、それを機械で実現するのがAIだが、AIだけでは不充分。AIとは機械学習のことだが、人間に近い感情の領域をどう両立するかに我々は取り組んでいる」と述べた。
日産のシーアハウス氏は「AIは万能ではなく、AIに正しくないことを教えてしまっては、誤った行動を起こしてしまう。機械学習だけではなく社会学や文化人類学を含めて人間の挙動を考え、自動車を機能させなければならない。一方で人間は必ずしもルールを守らないが、人間は道路でどういう行動を起こすか、人間とクルマの関係をどうシームレス化するか、我々はシームレスオートノマスモビリティと呼び、研究を進めている」と付け加えている。
トヨタの友山専務は、「何のための自動運転、ビッグデータかというと、最初の目的は交通事故をゼロにすること。だからシステム全体のアーキテクチャーを設計する際には徹底した安全思想が必要で、決してクルマの中でスマホを操作したり、本を読んだりするための自動運転ではない」と指摘。「AIはドライバーがどういう環境にあり、何がしたくて、事故を起こさないためにはクルマをどう制御すべきか、ドライバーにどういう情報を与えるべきかに、まずはフォーカスを置くべき」と、快適性よりも安全性を優先的に追求することの重要性を説いた。
また、自動運転が普及するとソフトウェアの出来がクルマの優劣を左右し、クルマ自体はコモディティ化していくのではという問いに対して、トヨタの友山専務は「クルマはまだまだ非常に複雑な機械で、複雑なパワートレインを持っていて、そこに電子制御やソフトが入ってきており、いわばまだ発展途上の状態。我々OEMとしてはもちろん自動運転やビッグデータのソフトウェアでコンペティティブにならなければならないが、それ以外の90%の領域でまだまだ競争できる領域がたくさんある」と反論。
ホンダの脇谷執行役員は、「人がクルマを使うので、乗っている人がどう感じるかは個人差がある。それが快適で便利と思うかどうかは、その個人に合わせなければならない。今のクルマでも安全性能はある程度の標準に基づいて作られているが、自動運転になってもそれは変わらず、人々が信頼できるプラットフォームでなければならないので、そこは競争領域にはならない。その上に、どのように良いエクスペリエンスを提供できるかが差別化要素になる」と加えた。
自動運転によって運転の楽しさがなくなった場合、どうブランドを差別化するか、エンターテインメントやインテリアなどで差別化するしかなくなるのではないかという指摘には、ハーマンのパリウォルCEOが「将来はエクスペリエンスで競争することになる。だから、ブランドはこれからも生き残ることになるだろう」と反論。
日産のシーアハウス氏は「カルロス・ゴーン会長はルノー・日産・三菱アライアンスの中で約40車種の自動運転車を作ると発表している。3つのブランドを維持したままその戦略を進めるのだから、ブランドは生き残ることになる。そしてOEMは、ブランドをもっと特化させ、お客様にもっとフォーカスした形でビジネスを提供できるだろう」と見解を示した。
トヨタの友山専務はさらに、「ドライビングエクスペリエンスはクルマにとって非常に重要な要素で、誰もが自動運転を求めているわけではない。時には自分で運転し、時には自動運転に任せるという使い方において、クルマの基本性能、そしてドライビングエクスペリエンスは差別化において非常に重要な要素になる。また、コネクテッドカーによって、クルマがドライバーとともに成長する存在になっていく。我々はそれをエージェントと呼んでいるが、そういった部分も新たな競争領域として生まれてくるだろう」と補足。
「我々は今回『コンセプトi愛』というコンセプトカーを出品しているが、日本人はクルマを単なる工業製品と見ておらず、『愛車』という言葉がある通り、クルマには特別な感情を持っている。そういったものをコネクテッドによって昇華させることで、新たな差別化要素が生まれると期待している」と述べている。
さらに、自動運転とライドシェアが普及しユーザーがクルマを買わなくなったらそこにどう感情を反映するのかという問いに対しても、日産のシーアハウス氏は「むしろチャンスだと思っており、その時我々はクルマを売るのではなくサービスを売っている。ライドシェアの会社、または自分で運転するお客様にクルマを売る、つまりBtoBの先にお客様がいるようになるのかもしれないが、どのようなサービスを得るにしても、人間はいいエクスペリエンスを得たいと思っている、ここが競争の対象になる」とし、デザインや走り、質感、快適性、ブランド性などが今後も競争領域になることを示唆している。