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1年を通して雨の降る日本では「露」はありふれた存在です。とはいえ季語としては「秋」になります。大気中に気体となって散っていた水分が、気温が下がるとともに「露」となって結び地表の草や木々に目に見える姿となった時、ハッとする美しさが現れます。「露」を「玉」にたとえた「玉露」「露の玉」は美しさや素晴らしさの極みを表しているといえるでしょう。
早朝に結んだ「朝露」も気温の上昇とともにあっという間に大気に溶け込み姿を消します。「露の身」や「露の世」には命や世の中のままならぬはかなさが映し出されているようです。
〈露の世は露の世ながらさりながら〉 小林一茶
俳諧の世界を目ざし苦労をかさねた一茶らしい人生観が「露の世」に表れていませんか。
温度の変化とともに現れたり消えたりする「露」には他にもいろいろなものが託されています。眼から突然あふれ出す涙も「露」、その涙をそっと拭くのは「袖」。「露けし」と形容詞になれば、定めのない不安定さとともに「涙がち」なようすを表すことばになります。
〈うしろ姿のなつかしや露けしや〉 岩岡中正
冬へむかう季節の天気は変わりやすく、寂しく美しい。それが「露」のイメージと重なり秋の季語としてしっくりと心に添うのでしょう。たった一文字の「露」ですが秘める思いはどれも秋を感じる心の琴線をふるわせます。
「露」をたっぷりと頂いた草を「露草」といいますが、その中でも青い花をもった草花が「露草」として古来愛されてきました。またの名を「青花」「月草」とも呼ばれています。「青花」は見た目そのままです。花を布に摺り付けるとよく色が移ることから、摺染(すりぞめ)や青花紙に用いられてきました。色が付く「つきくさ」から「月」とあてたのでしょうか、また月影に咲くという「月草」も素敵です。夜の草々に降りた「露」は月光に輝き「月の雫」ともいわれます。
〈露草を面影にして恋ふるかな〉 高浜虚子
秋のロマンが十七音に溢れています。
「露草」は古来人々に親しまれ道端や野原、庭先などでよく見かける身近でささやかな草花ですが、どこか雅びた花に感じられます。たっぷり湿り気を含んだ「露」のはたらきは偉大ですね。
古代エジプトの壁画に、人々が「葡萄」からワインを作るようすが描かれているのを見たことはありませんか? ワインが生活の中に入り込んでいる私たちにはごくあたりまえのこと、と見過ごしてしまいがちですが、それが紀元前2500年のことで、すでにお酒になって人々に嗜まれていたのだと知ると、「葡萄」の歴史のもつ力に圧倒されてしまいます。
ウズベキスタンを旅行した時、街道沿いで、収穫した葡萄をバケツに山と盛って売る女性に出会いました。オアシスを過ぎれば見渡す限りの砂漠の中。一粒一粒に甘い汁をたっぷり含んだこの葡萄のなんと美味しかったこと。「葡萄」の一房は大地の露を集めた大きな雫なんだと感じました。バケツいっぱいの「葡萄」はそのあと訪ねるお家への素敵なおみやげになりました。
たくさんの品種が開発されて、一粒でも充分満足できるような立派なものまで食べられるようになりましたが、長く食べ続けてきた手頃な値段の手頃な大きさにはなにか安心感があります。
〈雫かと鳥もあやぶむ葡萄かな〉 千代女
〈黒葡萄天の甘露をうらやまず〉 小林一茶
秋の「葡萄」は俳人の舌だけではなく心にも響いていたようです。味はもちろん色といい形といい造形の美しさにも魅力ある「葡萄」を大いに楽しみたいものです。