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旧暦(太陰太陽暦)では7・8・9月が秋にあたり、それぞれ初秋・中秋・晩秋と呼ばれていました。「中秋の名月」とは旧暦8月15日夜の月のことで、「十五夜」ともいいます。古来、この日の月は1年のうちで最も美しい月とされてきました。現在、伝統的な年中行事の多くは新暦(太陽暦)か月遅れで行われていますが、月見は旧暦の日付に行われる数少ない行事となっています。
旧暦では新月の日が朔日(1日)で、月の満ち欠けの中間点にあたる15日が満月とされていました。実際には、月の軌道は楕円形のため、新月(朔)から満月(望)までの日数は13.9日から15.6日と変化します。そのため、15日が満月にならないことも多いのです。
2022年の中秋の名月は、天文学上の満月と一致します。満月になる「望」の瞬間も18時59分頃なので、今年はまさに満月の月を観賞することができます。1年でいちばん美しい月を、ゆっくりと眺めたいですね。
中秋の名月を観賞する風習は中国より伝わり、平安時代に貴族の間で定着しました。やがて、月見は民衆の間にも広まり、団子や里芋、栗などを供え、収穫を祝う行事となりました。
月に見立てて作られた月見団子には、米の収穫に感謝し、翌年の豊作を祈願する意味合いがあります。当時の暦は月の運行に基づく旧暦で、「月読命(つくよみのみこと)」が農耕の神として信仰されていました。月見の飾りに欠かせないススキは、月読命をお招きする依り代(よりしろ)でした。稲穂の代わりに、穂の出たススキを飾ったといわれています。また、災いや邪気を遠ざける魔除けにもなると信じられていました。ススキには、豊作祈願と無病息災の願いが込められていたのですね。
ススキは秋の七草です。自宅でのお月見の設えには、ススキに加えて、キキョウ、クズ、オミナエシ、ナデシコ、ハギ、フジバカマといった秋の七草を飾ってみてはいかがでしょうか。なかでも、可憐な花をつけるナデシコ、青紫色や白の釣鐘状の花が美しいキキョウは、観月に彩りを添えてくれそうです。
日々かたちを変える月。その姿をあらわす言葉も多彩です。古の人々は、満月だけではなく、欠けた姿や見えない月にも趣を見出していたのです。
十五夜の前夜、旧暦8月14日の月は「待宵月(まつよいづき) 」。翌日の満月を楽しみに待つ気持ちが込められています。十五夜の翌日の月は「十六夜(いざよい)」。「いざよう」とは「ためらう」という意味で、十五夜の月よりも遅くためらうようにして出ることをあらわしています。十七夜の月は「立待月(たちまちづき)」、十八夜は「居待月(いまちづき)」、十九夜は「寝待月(ねまちづき)、臥待月(ふしまちづき)」、二十夜は「更待月(ふけまちづき)」と呼びます。立待月は「立って待っていると出てくる月」という意味で、その後「座って」「寝て」待ち、「さらに夜が更けて」と続きます。
旧暦9月13日にも名月を鑑賞する日本固有の風習があり、「十三夜に曇りなし」という言葉があります。15日に月が雲などで見えないことを「無月(むげつ)」、雨の場合を「雨月(うげつ)」といい、見えない月にも思いを寄せてきた古の人々。曇りや雨で十五夜に月を観賞できなかった時も、1か月後の十三夜に観月の希望を託していたのかもしれません。
2022年の十三夜は10月8日。今年のお月見は、どのような月に出会えるのでしょうか。中秋の名月の十五夜と合わせて、十三夜にも注目してみましょう。
・参考文献
岡田芳朗・松井吉昭『年中行事読本』 創元社
・参考サイト
国立天文台「ほしぞら情報(2022年9月)」
アストロアーツ「いろいろな月の呼び方」